(いただき)にて
                
 

 
 
山頂の風をさえぎるものなど

何もないのだった
 


それは豊かで とめどなく

何か巨大な生きもののように奔放だった

そんな中 ふと

見渡す限りの 風の大河を幻視する
 


眼下に広がる 青い霞の海

きっと僕らは あのあたりに住んでいる
 


汗や 涙や

やるせないぼやきや溜め息などが

霞の中にも混じっているような気にもなる
 


でも だからこそ ここはちょっと威張ってもいいのかもしれない

僕らは今 一応 そこを抜けて来て ここにいるのだ
 


そう まさしくここは天空の一部

遙か上空に見上げていた雲が

今は すぐそこに浮いている

 

梅干し入りのおにぎりは本当においしかった

どこに食べたかわからないほどに

なんらの屈託もなく ただ ス−ッと腹の中に消えた
 


凍らせて持ってきたペットボトルの水は意外に融けにくく

標高1628メ−トルの陽光に

その氷塊は からかうような煌めきを見せるばかり
 


その雫を惜しみながら飲み込む
 



*  *  *  *  *
 



帰りの道は一層明るかった



何か一仕事終えた後のような開放感を背中に

僕らはズンズンと

長い坂道を快活に語らいながら降りて行った