自転車

                     
下社裕基


         ゆっくりと

        夕方が下りてくる

        わたしたちの一日に

        わたしたちの家に


 

        だれも

        あらそったりしてはいけない

        生徒も 先生も





        ただ まな板の音がして

        ルウの溶ける匂いがして





        道も

        あらそってはいけない

        刈りこんだ草や

        高慢な人と





        坂道をころがる

        自転車も

        ただしずかに

       下りてこなきゃいけない





        わたしたちのまわりに

        詩が

        このように

       下りてきてくれたら・・・・





       湖をたたえた

       わたしたちの日々の瞳のうえにも





       毎日が しずかに

       暮れていきますように

       わたしたちが子どもだった日の

       ながい夕方のように

       ゆっくりと

 






 



























 家に帰る
                たもつ




ようかんが街をつつんで

今日も夜がやってきました





駅からの帰り道なんですが

星々は百円ショップのようにチープにまたたいて

さしずめ月は壊れたひょうたんってとこですか





秋の虫がいい声で鳴く季節となりました

でも、あれは鳴いているのではなく

羽を擦り合わせて出している音だそうですね





同じ月を見上げ酒を酌み交わし

仕事の愚痴を言い合った先輩も

3年前に死んでしまいました

記憶の断片は

ジグソーパズルのピースのようにバラバラになり

もはや修復も不可能で

顔もおぼろげにしか思い出せません





社宅の3階の窓からは小さな灯りがもれ

今日もまたあそこで一日が終わるのでしょう

幸せだという実感はありませんが

どうやら不幸でないことだけは確かなようです








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