冬越し
              
くた


この頃 冬とはいっても
僕の国や
何も知らない人達の国では
ギリシャ世界のアネクメーネのように
どんなに寒くても
明日への蓄えがなくても
火の点し方さえ知らなくても
飢えることはなく
凍えることもない
そして夜の静寂の力に
体を強張らせることさえもない
昨夜  
玄関の引き戸を滑らすと
どこからか冬越しバッタが飛んで来て
奥の方からうすく漏れる光に
恍惚の目を滲ませていた
60年ぶりの大雪の後の雨に
温もりを感じて出てきたのだろう
今 僕らが
命を削って求め続けている物も
あのわずかな温もりと光ほどに
真実に近いものであれと願う







2001.2.7


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 ふきのとう
                   
榎本 初


訳もなく鬱ぎこみいや本当は訳があるのだが   
そんなことは言いたくなくてこんな日はただ
クラリネットのやわらかなひびきが好きだ
木は死んでいないのであってあたたかくて
衝き抜いてくるのではなく沁みわたってくる
モオツアルトの五重奏ラヂオがそそいでいる
不覚にも悪魔の指に押えられた瞼が救われる
ときに芳るのがコオヒイではなく紅茶である   
のは大した理由などなくて実は紅茶に入れる
檸檬が沁みるだけで独つの円い闇の奥に独り
沈んでいく自分の姿すら見えない苦々しくて
枯れ葉を重ねていたのさえ疾うに忘れている

枯れ葉を探しに部屋を出た僕が着古した
ダッフルコオトの中で堪えられないのは
目を覆わずにいられないのは目を覚ますのは
鶯を誘い出す太陽の炎眩いというのではなく
ただ生きている青青としたひかりふきのとう







2001.2.21


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