葦に寄せる挽歌
                  
  


湖のほとりに

立ったまま死んでいる葦の一群

 冬空に屹立する死の静止画

その朴訥なる英姿





*   *   *





かつてそれは

真夏の昼下がり

遠くに子供たちのはずむ声を聞きながら

湖上の風に

濃緑の葉末を光らせていたこともあった



また そもそもそれは

春まだ浅き黒土の

ほのかなぬくもりの中に芽をのぞかせ

月明かりや星々のささやきにも

ひろやかに見守られながら

宙(そら)に向かって

すなおに手をさしのべていったものだった



秋ともなれば

人知れず 目立たぬ花を咲かせ

それなりに 小さな実を宿して

やがて 

晩秋の夕映えの中

茜色の残照に

驚くほどの輝きを白く閃かせながら

無数の分身を風に乗せて旅立たせたりもした



そしていま

それはすべての業を終え

己の生を十全に生きて燃え尽きて

澄明な冬の陽光の中

白茶けた亡骸を寒風に晒しながら

在りし日々の夢を見ている



やがてそれらの夢たちは

 古い根株にしっかりとしみていき

まもなく訪れるであろう新しい春の

蘇生のエネルギ−に変換されることだろう





*   *   *
  


 

湖のほとりに

立ったまま死んでいる葦の一群



冬空に屹立する死の静止画



その朴訥なる英姿