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| p42 | 専門家は老化の謎を解明し始めている。さらに老化を食い止め、永遠の若さを 保つ方法をも発見しようとしている。 | to the point :的を得た |
| 1 | ヘキミの実験室の線虫は、世界で最も驚くべき生き物だ。長さが1mmのその透明な 虫は、裸眼ではみることができないだろう。驚くべきは、その姿でも、生態でもない。 それらはほとんど動かず、食べ物の上でじっとして一生をシャーレのなかで過ごしている。 | nematode :線虫,ネマトーダ、 transparent :透明な、 worm :虫,寄生虫、 tip :先,先端、 invisible :目に見えない、 petri dish :シャーレ,ペトリ皿 《細菌培養用》、 atop :頂上に、 nutrient :栄養物,食物 |
| 2 | ユニークなのはその寿命だ。通常の線虫が9日しか生きられないのに比べて、 ヘキミの実験室の線虫は50日も生きるのだ。人間に換算すると420年生きること になる。 | unexceptional :ごく普通の barely :辛うじて〜する,わずかに |
| 3 | カリフォルニア大学の進化生物学者マイケル・ロスは百万倍もの強さを持つ ミバエの群生を育てた。生態は通常のミバエと同じだが、ロスのミバエの寿命は、 通常の倍、140日である。人間だと150年を軽く超えることになるのだ。 | evolutionary biologist :進化生物学者、 community :共同体,群生、 fruit fly :ミバエ、 fleck :(色などの)斑点,そばかす、 breed :繁殖する、 colony :ある土地・場所に固定したある種の個体群、 up to :まで、 predator :食肉動物,略奪者、 longevity :寿命,生命 |
| 4 | 誰にとっても、無論、老化の研究者にとっても、老いること、そして何も感じなくなる ことの原理は極めて単純なものだ:生物は生まれ、定められた年月を生き、そして 死ぬ。清く正しく生活すれば、少しはその年月を伸ばすことができるかもしれない。 しかし、寿命を3倍に延ばすこと、いや4倍に延ばすこと、さらには寿命という概念 を無くすことなど、とんでもない。 | aging :老化、 as well as :〜と同様に、 inexorably :容赦なく,冷酷に,無情に、 organism :有機体、 prescribed :定められた、 squeeze out :ひねり出す,絞り出す、 here and there :あちこちで,時々、 triple :3 倍にする、 life span :寿命,一生、 quadruple :4 倍する |
| 5 | そう思われてきたのだが、事態は変わりつつある。ヘキミとロスは、老化に 対する古い考えを打ち破ろうとする科学者達の、ほんの2人にすぎない。 線虫やミバエに当てはまることが、人間にも当てはまるのではないかと 考えだしているのだ。種に関係無く、老化に関係する細胞のメカニズムは 同じように見える。それを元に、科学者達は人生最大の2つの謎を解明しようと している。:人はなぜ老いるのか?老いに対して、何ができるのか? | senescence :老化、 species :種,種類,人類、 genus :(動植物分類上の)属,種類、 cellular :細胞の、 responsible for :責任がある,〜の原因である、 arm with :武装する、 breed :品種,種類、 tease out :(情報を)何とか引き出す |
| 6 | 手がかりは興味深いものがある。ある研究所では、老いるに従ってフューズのように 短くなる、染色体の先の部分を調べている。フューズを燃やす火を消せば、老いを 止めることができるかもしれない。また、細胞が食物を消費するときに出す老廃物 がいかに(細胞)内部を汚染するか、つまり、老いに伴って体全体の機能停止 につながる過程を研究している者もいる。細胞をきれいにすれば、体全体が元気に なるということ。さらに遺伝学者達は、老化につながる遺伝子地図を作成し始めて いる。遺伝子地図ができれば、それを操作し、DNAをコントロールし、何でもできる。 | clue :糸口,手掛かり、 tantalizing :興味をかきたてる、 chromosome :染色体、 fuse :信管,導火線、 extinguish the fire :火を消す、 contaminate :汚す,汚染する、 innards :内臓,内部機構、 breakdown :機能停止,故障、 associate A with B :AとBを結びつける,BでAを連想する、 buck up :改善する,元気づける、 geneticist :遺伝学者、 in the first place :まず第一に、 manipulate :操作する、 weave :織る、 DNA :deoxyribonucleic acid,デオキシリボ核酸、 code :《特定の蛋白質などを合成するための》 遺伝暗号を指定する |
| 7 | 中でも有望な可能性は、寿命を延ばすだけではなく改良できるかもしれないことだ。 滑らかな皮膚、がっしりとした筋肉、目もよく見えて、若いときと同じく精力に あふれて、2度目の百年を生きるということ。 | as well :おまけに,その上、 likelihood :可能性、 promising :見込みのある,末たのもしい |
| 8 | 人間にとって、老化についての劇的変化がようやくやってきた。ここ10〜20年で、 老化を遅らす治療法が爆発的に増えたのである。 | sea change :全面的で急激な変化,著しい変化、 melatonin :メラトニン 《ホルモンの一種; 松果腺から分泌される》、 antioxidant :酸化防止剤、 therapy :治療、 intriguing :興味ある、 precursor :先駆物質,前駆物質、 DHEA :dehydroepiandrosterone,デヒドロエピアンドロステロン |
| 9 | こうした治療法は人気があるが、効果は数年寿命を延ばすといった穏やかなものである。 研究者達が探している新しい方法は、寿命を2倍か3倍に延ばす、といった劇的なもの である。 | not so much A as B :AというよりむしろB、 incremental :増加的な、 exponential :(数学)指数の,幾何学級数的な,急上昇の |
| 10 | 歴史的にみて、それは可能だ。1900年、アメリカの平均寿命は47歳。1950年以降、 事態は急変する。ある年の治療のわずかな改善が、47歳の平均寿命を2%延ばす。 そしてまた次の年も。40年間それが続き、アメリカ人の平均寿命は76歳になった。 同様のことがアジアの国々にも起こっている。1983年のインド人の平均寿命は 52歳だったが、今では61歳である。日本では、その変化はもっとも顕著に 現れている。男女の平均寿命は共に世界最長だ。豊かな食事と公衆衛生、医学 技術の進歩のおかげで、1940年に、男子35.4歳、女子43.6歳だった 寿命が、今では、男子76歳、女子83歳までになった。100歳を超える 日本人も、1963年の153人から7、400人のまで増えている。 | stir :動く、 subtle :わずかな、 compound :混合する,複合の、 existential :存在に関する、 sanitation :衛生設備,下水設備,公衆衛生、 breakthrough :科学技術の進歩、 antibiotics :抗生物質、 surgical technique :外科手術手技 |
| 11 | もし、医学の進歩がもっと劇的なら、百歳を超えて生きることが普通なら、 100歳をはるかに超えること、150とか200、あるいは300歳は可能だ ろうか?駄目だとしたら、なぜ駄目なのか?体というのは、問題はあるにしても機械に すぎないし、機械と同じく、保証期間を伸ばすことは可能だろう。 「たとえ人間の寿命に限界があるにしても、平均寿命がその限界に近いという 証拠はない」とジェイムズ・ボーペルは言う。 | little more than :〜そこそこ,〜にすぎない、 demographic :人口統計学の、 albeit :(文語)にもかかわらず(although),たとえ〜でも、 cranky :気むずかしい,修理する必要がある、 willful :がんこな、 warranty :正当な理由,保証,保証書、 demographer :人口統計学者 |
| 12 | 遺伝子研究が、DNAの二重らせんが確定された1953年に始まったのと同様に、老化の 研究は、解剖学者のヘイフリックが重大な発見をした1961年に始まった。 それまでヘイフリックは、老化がどこで始まるかという疑問に悩まされていた。 細胞自体が衰え、それに伴って全体の器官がだめになるのか?それとも 上位組織になんらかの年齢に伴う劣化がなければ、細胞は生き続けるのか? | era :年代,紀元,時代,段階、 double helix :(DNA分子の)二重らせん、 anatomist :解剖学者、 falter :よろめく、 indefinitely :永久に、 were it not for :もし〜がなかったら、 deterioration :(品質などの)低下,劣化、 tissue :(動植物の細胞の)組織、 |
| 13 | それを調べるため、ヘイフリックは胎児の組織から取り出した細胞をシャーレに 移した。そうすれば、その細胞は上位の器官のために働く必要はなく、自分の やるべきことだけをやる:つまり分裂する。培養液におかれてすぐ分裂を始め、 100回分裂すると突如分裂を止め、それ以降は老化現象の様相を呈する。 70歳の老人の細胞を使って同様の実験をすると、20〜30回分裂した後 細胞の老化が始まった。老人の細胞は、細胞自身が年老いているのだ。 | harvest :刈取る,収穫する、 fetal :胎児の、 transfer :〜を移す、 free from :を免れた、 divide :分離する,分裂する、 culture :培養液、 all at once :こつぜんと,一斉に、 from then on :そのときからずっと、 membrane :薄膜,皮膜,膜,膜組織、 as a whole :概して,全体として、 languish :元気がなくなる,衰える、 |
| 14 | 「私たちが見たものは細胞の老化だ:シャーレという小宇宙での老化」 とヘイフリックは言う。 | microcosm :縮図,小宇宙 |
| 15 | 老人病学者にとって、これは画期的な事だった。シャーレの中と同じ事が体内で も起こっているとすれば、細胞内のどこかに、生死を決定する砂時計があること になる。その時計が見つかり、リセットすれば、細胞とそれを生み出すより 大きい器官は不死となる。無論、そういった細胞内時計の仮説を立てるにしても、 それを見つけることと操作することとは別のことである。これ以来、科学者達は、 この目標に向かって2つの方法を取ってきた。 | gerontologist :老人病学者、 monumental :重要な,不朽の、 stuff :事柄,材料、 viscera :体腔内諸器官、 actuarial :保険統計の,保険経理士の、 hourglass : 水[砂]時計、 corpus :集成、 give rise to :生み出す、 immortal :不死の,不死身の、 hypothesize :伝説を立てる |
| 16 | 研究者達が最初に考えたのは細胞損傷モデルである。どのように複雑なシステム であろうと、課せられた仕事をするだけでそのシステムは劣化する。作動するや いなや、各部品は摩滅しはじめ、ガラクタとなる運命へ一直線に進んでいく。 細胞とて例外ではない。その場合の仕事というのが食物を処理することなのだ。 | inorganic :無生物の、 protoplasmic :原形質の、 goo :べとべとしたもの、 no sooner ~ than :〜するが早いか、 wear out :〜を使い古す、 junkyard :《古鉄・古紙・古布などの》 廃品置場、 spare :容赦[勘弁]する, 助命する |
| 17 | 全ての有機体と同様に、細胞は新陳代謝時に老廃物を生み出す。やっかいなのは、 そのときフリー・ラジカルという副産物を生み出すことだ。フリー・ラジカルは 電子を余分に1個持っているため、電気的なアンバランスを中和させようとして、 他の分子やDNAなどの組織とくっつこうとする。この間に細胞は損傷を受け、 癌あるいは、しわとか関節炎などの症状を生み出すのかもしれない。 | metabolize :新陳代謝させる、 troublesome :迷惑な,面倒な、 by-product :副作用,副産物、 free radical :【化】 遊離基,フリー・ラジカル、 rectify :誤りを修正する、 careen :傾く、 symptom :症候,症状、 wrinkle :しわ、 arthritis :関節炎 |
| 18 | 近年、カロチノイドを含む野菜・果物中心の食餌療法が提唱されている。 カロチノイドはフリー・ラジカルを吸収し体外に排出する酸化防止剤として 働くからだ。しかし酸化防止剤には、癌などを劇的に抑えると同時に、 ベータ・カロチンのように、癌などの増加に関係しているものもある。 いずれにしても、そういった食餌療法が寿命を延ばすのに最適だと考える 研究者はほとんどいない。期待されているのは、グリコシレーションの 研究である。 | nutritionist :栄養学者、 advocate :唱道する,〜を主張する、 diet :食餌療法、 carotenoid :カロチノイド 《動植物体の赤黄色素》,カロチノイド、 antioxidant :酸化防止剤、 sop up :吸収する、 uneven :一様でない、 beta-carotene :ベータカロチン、 contemporary :現代の,最新の、 medicate :薬で治療する、 metabolism :新陳代謝、 glycosylation :〈蛋白質を〉鎖式炭水化物を加えて糖蛋白質にすること、 browning :褐色着色剤(色や味をつける焦がした砂糖・小麦粉など) |
| 19 | カラメルなどが温められると、蛋白質が砂糖と結びつき、表面が黒っぼく、 柔らかく、さらにねばねばしてくる。1970年代に、同じ事が体内でも起こっ ているという仮説が立てられた。新陳代謝の際、余分のブドウ糖が蛋白質 と結合し、さらにそれが他の蛋白質を引き付け粘着性の網状組織となり、 関節を固くしたり、動脈をふさいだり、白内障を引き起こしたりすると いうものだ。糖尿病がこれらの症状を伴うので、この仮説は正しいと考 えられていた。 | caramel :カラメル、 protein :タンパク質、 sticky :どろりとした,ねばねばする、 biochemist :生化学者、 suffer from :に苦しむ、 diabetes :糖尿病、 excess :過剰な、 glucose :ブドウ糖、 sticky :粘着性の、 network :網状組織、 stiffen :こわばる,堅くする、 joint :関節、 artery :動脈、 cataract :白内障、 ailment :病気 |
| 20 | 関節痛とか循環器系疾患とか視力の衰えというのは、老化現象同様 いやなものである。糖尿病にかかっていない細胞が砂糖を代謝するとき、 はるかにゆっくりとだろうが、同じグリコシレーションが起こるだろうか? | circulatory disease :循環器系統の病気、 take place :起こる |
| 21 | 老化や死という悲劇は、体全体のカラメル化にすぎないという考えは 単純すぎる考えのようだが、多くの証拠がある。糖尿病患者や老人の、脳と頭蓋骨 の間にグリコシレーションの特徴が見つかった。「グリコシレーションは フリー・ラジカルのようなもので、我々を生かし、老いさせる自然現象である」 とロバート・バトラーは言う。 | nothing more than :〜にすぎない、 caramelization :カラメル化、 humble :謙虚な気持にする、 collagen :コラーゲン,膠原(こうげん)質、 sac :袋,嚢、 skull :頭,頭蓋骨、 turn up :見つける、 pigment :絵具,色素 |
| 22 | カラメル理論が発展し、グリコシレーションの残余物は頭文字を取ってAGES と呼ばれるようになった。AGESの残余物が体をだめにするのであれば、残余物 を取り除く方法もあるかもしれない。ピマゲダインというAGESの溶媒はAGES 蛋白とその回りを取り巻く蛋白の結合を解除する。ピマゲダインを摂取した患者 がリポプロティンの血中濃度を下げたという研究もある。また、ピマゲダイン を与えたネズミは心臓病の兆候を示さなかったという報告もある。 | gooey :ねばねばする,ねばねばした、 residue :残余,残留物、 acronym :頭字語,頭辞語、 gum up the works :だいなしにする、 unstuck :ばらばらの、 solvent :溶かす,溶解力のある,溶媒、 lipoprotein :リポ蛋白質、 precursor :先駆物質,前駆物質、 clog :〜の動きを妨げる,ふさぐ,邪魔者 |
| 23 | 「まだ、開発の初期段階だが、理論も証拠もある。グリコシレーションは 体のあちこちで起きているので、その理論は老化を説明するのに あながち飛躍してるわけではない」とリチャード・バカラは 言っている。 | biochemistry :生化学,生理化学 |
| 24 | 細胞が栄養物を処理する方法を変える代替案として、与える栄養物を少なくする、 という方法がある。摂取カロリーを30%減らしたネズミは30〜40% 長生きするという研究がある。人間の場合、1日1、400カロリーに減らせば 30年寿命が延びることになる。 | intake :摂取量、 spartan :(古代)スパルタ(流)の質実剛健な、 in exchange for :交換に |
| 25 | 寿命を延ばすために食物を減らすということがどのように関連するのかは、 完全にはわかっていない。ジョージ・ロスは次のように考えている。食物 を減らすと体温が1℃下がり、食物の処理量も減る。「食物摂取の減少に 伴って、動物は成長モードから生存モードに切り替わるのだ」 | swap :〜を交換する、 physiologist :生理学者、 compensate :〜に補償する、 reduction :減少 |
| 26 | 寒さとか飢えは生きていくのに楽しいことではないが、それなりの報いはある。 新陳代謝がゆるやかになれば、全てがゆるやかになり、細胞分裂も遅くなる。 分裂の回数は決まっているので、それだけ寿命が延びるわけだ。げっし動物で カロリー摂取の減少が寿命の延長に有効なことを確認したロスは、霊長類で 同様の実験をしている。だが霊長類で同じ事が言えたとしても、人間に当て はめるのは早計である。食物を3分の1喜んで減らす人がいるなどと考える のは非現実的だろう。 | no way :決して〜ない、 go through :味わう、 attendant :付添いの,お供、 rodent :げっし動物(rat, rabbit, squirrelなど)、 primate :霊長類、 dicey :あぶなっかしい |
| 27 | 「カロリー摂取を減らせば80歳を超えて、もしかして、120歳まで生きられる かもしれない。百歳を超えて肥った人はめったにいないのだから」 カロリー制限が代謝系のどの部分に影響を与えているのかが分かれば、 それを薬で模倣することができるだろう。つまり、「細胞にカロリー摂取 は少ないんだよ、と思わせる薬を服用すればいいのだ」 | centenarian :100歳以上の人、 dietary habit :食生活、 pharmacologically :薬理的に |
| 28 | カロリー制限は、沈んでいく船につぎはぎを当てているようなもので、所詮は メンテナンスにすぎない。研究者が本当に望んでいるものは、機関部、すなわち 遺伝子そのものに降りて物質を再生産することなのだ。驚いたことに、 その方法があるらしい。 | maintenance :メインテナンス,整備,保全、 little more than :〜にすぎない、 patch :〜に継ぎを当てる |
| 29 | ヘイフリックは、細胞分裂には限界があることを発見したが、なぜ細胞は 死ぬのかという疑問には答えなかった。それからというもの、人間の染色体地図を 作成している生物学者達は、細胞を死亡させる遺伝子を探したが見つからなかった。 目にしたのは、はっきりとした目的のない、染色体の先にある小さな部位だ。 末端小粒と呼ばれるその核酸はなんの遺伝暗号も示していないようで、 靴ひもがほどけるのを防ぐ留め金に似ていた。 | replication :複製、 chromosome :染色体、 mortality :死すべき運命、 discernible :識別し得る,認識できる、 dub :〈新しい名・あだ名を〉与える、 telomere : 《染色体の腕の末端にある》 末端小粒、 sequence :ひと続きのもの,系列、 nucleic acid :ヌクレイン酸,核酸、 trait :特性,特徴、 cuff :カフス,ズボンの折り返し、 shoelace :靴ひも、 strand :より糸,分子の連鎖、 unravel :ほどける |
| 30 | だからと言って末端小粒が不活性というわけではない。細胞が分裂する度に、 分裂した娘細胞の末端小粒は母細胞のそれより短くなるのだ。細胞が分裂の 限界に達したときには、末端小粒は単なる結び目になる。一旦そうなれば、 末端小粒に隠されていた遺伝子が現れ、活性化し、老化を伴う細胞の劣化 を促す蛋白質を生産する。人間の細胞のほとんどは、末端小粒が短くなる のだが、そうならないものもある。何千回も分裂できる精子とか癌細胞である。 | inert :不活発な、 nub :結び目,要点,核心、 deterioration :低下,堕落,退歩,劣化 sperm :精子 |
| 31 | 次の研究は、無制限に分裂する細胞を見つけ、どのようなメカニズムで 末端小粒つまり生命が維持されているのかを見つけ出すことだ。1984年、 末端小粒を保存する酵素を見つかり、テロメラスと名づけられた。5年後 には癌細胞に同じ物質があることも分かった。シャーレの中では、永遠 の命をつかさどるものが発見されたのである。 | a single-cell pond organism :池に住む単細胞生物、 enzyme :酵素 confirm :確認する,追認する eternal :永遠の |
| 32 | 「テロメラスが発見されて、不死の細胞にとっては、これが老化や死を 回避する方法であることが明らかになった。」とヘイフリックは言う。 テロメラスは今では人間の卵子を作る細胞や、血液を作る幹細胞、それ と癌細胞の95%に見つかっている。 | circumvent :だます,迂回する,回避する inevitability :避けがたいこと, 不可避 stem cell :幹細胞,基幹細胞 |
| 33 | こうしたことを考えると、人工的にテロメラスを使えば、通常の細胞そして 体そのものが、定められた寿命を超えて生きることができるだろうか? カービン・ハーレイは、その酵素を意のままに作ったり止めたりできる、 と信じている。「私たちは、老化を防ぐ薬を目の当たりにしているのだ。 薬を使った細胞療法で、極めて特定部位の老化を治療できると考えている」 とハーレイは言う。 | tenacious :頑強な,〜に固執している collaborate :共同する,共同研究する spigot :樽などの栓、水道などの飲み口 at will :意のままに,思いのままに |
| 34 | 無論、テロメラス療法には明らかな問題がある。正常な細胞を癌細胞モドキ にするこの酵素を細胞に投薬することは、懐疑的な人には、気が狂ったとし か思えないだろう。この治療に賛成の人でさえ、安全とは思っていない。さ らに、テロメラス遺伝子を操作することが簡単とは思えないし、各細胞の中 の100、000もの遺伝子の中からそれを特定することは気が遠くなる仕事だ。 | dose :投薬する,服用させる strike A as B :〈人〉に印象を与える brainstorm :《突然の》 精神錯乱,突拍子もない考え open question :未解決の問題 numbing :しびれさせる |
| 35 | だが、老化に関係のある遺伝子は既に姿を見せはじめていた。ヘキミの線虫 にいくつか見つかった。交配を繰り返し寿命を延ばして、染色体を調べてい ると、ついに、寿命に関係のある突然変異の遺伝子を発見、彼はそれを Clock-1と名づけた。「Clock-1遺伝子は寿命の決定に重要な役割を果たすが、 もっと重要なことは、クローニングと遺伝子地図を使って、どの蛋白が その仕事をしているかを特定できる」とヘキミは言う。 | implicate :関係があるとする,関係させる flush out :飛び立たせる,暴き出す cross :〈動植物を〉交雑させる,雑種造成[形成]する mutate :変化する[させる]; 【遺】 突然変異する[させる] critical :重大な cloning :クローニング 《未受精卵の核を体細胞の核に置き換えて遺伝的に全く同じ生物を得る技術》 |
| 36 | 線虫遺伝子にさらに3つのclock遺伝子を特定した後、ヘキミは人の遺伝子に、 構造的にClock-1と似たものを発見した。「2つの種でその遺伝子はよく 似ており、作用の仕方も同様だろう。人間のclock遺伝子を全て見つければ、 時計を遅らせ寿命を延ばすことができる」 | schematic :概略図, 《電器などの》 配線略図 |
| 37 | 長寿のミバエを生み出したロスは、まだミバエにそういった遺伝子を見つ けてはいないが、遺伝子操作が寿命を延ばす鍵だと考えている。遺伝子操 作は何十年も先に話しだし、といって人間を実験動物のように交配させる わけにもいかない。「老化を防ぐにはもっと穏やかな方法を探さなくては ならない」とロスは言っている。 | subject :(人・物)に[〜を]受けさせる[to] fascistic :ファシズム的な intervene :干渉する,邪魔する |
| 38 | こうしてる間にも、老化に関する遺伝子が解明されてきた。ウェルナー症候群 として知られる疾患に関係のある遺伝子が、シュレンバーグのチームによって 特定されたのである。ウェルナー症候群に罹った患者は、初めは普通だが、 20代までには老化が異様に進行し始める。そして、老化に特徴的な症状を示 しながら、40代後半までには死んでしまうのだ。 | Werner's syndrome :ウェルナー症候群 eerily :不気味なほど,ぞっとするほど ailment :病気 heart disease :心臓病,心臓疾患 osteoporosis :骨粗鬆症(しょう)症 atherosclerosis :アテローム性動脈硬化(症),じゅく状硬化症 |
| 39 | シュレンバーグの研究で素晴らしいのは、遺伝子がどう働くかということを 彼が知っているからだ。発見された遺伝子配列は、ヘリカーゼ酵素を作るもの。 ヘリカーゼ酵素とは、DNAの二重らせんが複製を作る前に、二重らせんを ファスナーを引くように二つに分離させるもの。この分離が妨げられると、 ランダムに起こる突然変異遺伝子が抜き取られずに次の世代に受け継がれて いく。変異が多くなると老化が始まる。「DNAは絶えず損傷を受けているこ とを知っているし、ヘリカーゼが原因であることが分かれば、謎を解くのも近い」 とシュレンバーグは言っている。 | noteworthy :注目すべき unzip :ファスナー (zipper) を引いて開ける helix :らせん,らせん形のもの tweeze out:毛抜き[ピンセット]で抜く glitch :故障,不調 |
| 40 | 謎が解ければ、恩恵は想像もつかないほどだ。ウェルナー病で老化を 促進させるのと同じヘリカーゼの不足が、穏やかな形で老化を引き起こすと シュレンバーグは疑っている。彼のマウスの実験の如何によっては、 遺伝子をいじらずに、ヘリカーゼを増やす方法で、ウェルナー患者と 健康な人々の老化を遅くすることが可能になるかもしれない。 | deficit :欠損,不足 measured :控え目な,慎重な strain :種族,血統 sidestep :(決定・問題などを)避ける booster :ブースター,昇圧器 |
| 41 | これと平行して、早老症の研究も行われている。早老症患者もまた早くに 老いるが、ウェルナー病よりも老いは早く、20代か10代で老化により死亡 する。テッド・ブラウンによると、ウェルナー同様、早老症もただ1つの 突然変異遺伝子により引き起こされ、それによる遺伝情報の伝達ミスが、 老化に関わりのある無数の遺伝子を活性化させる、という。「遺伝子をす べて理解すれば老化を理解する助けとなろう」 | run parallel to :〜と平行する progeria :プロゲリア,早老症 precociously :早熟に claim :(事故などが人命を)奪う infirmity :虚弱 wire :に電報を打つ,〜を針金で結ぶ spur :〜に拍車をあてる,〜を駆り立てる countless :無数の play a role :役割を果たす |
| 42 | 問題は、老化に関与する遺伝子の数が極めて多いことである。老化につな がる進みがちな時計の遺伝子がわずか数個であっても、関連する周辺遺伝 子は7、000以上。たとえひとつでも遺伝子を再生するのは複雑なのに、 7、000は不可能だ。 | sheer :切り立った,全くの peripherally :周囲に, 周辺に exquisitely :ものすごく |
| 43 | 当分は、もっと実現可能なことに研究を振り向けることになるだろう。 老化をつかさどる遺伝子を操作できなくても、それが影響を与える 体の部位を直接治療することは可能だろうか?ジェリィー・シェイによれば、 「特定の部位でテロメラスを増やす化学物質を注入することは可能。 その酵素は数週間活動し、細胞を若返らせる。なにも体全体を 治療する必要はない」ということだ。 | for the time being :ここしばらく rule out :除外する squirt :〜を注ぎこむ turn on :活動を始める,作動する revert :戻る,前の状態 |
| 44 | 末端小粒などの細胞機構についてわかったことを用いて、かなりの高齢者がまだ 年を取って生きられるのを妨げるような病気をやっつけようとしている研究者も いる。最近、テロメラスRNAが癌培養液中 でその酵素を遮断するために用いられ、末端小粒が弱り、もはや分裂しない 細胞は死亡した。他にも、動脈をきれいにしたり、心臓を健康にしたり するのに役立つ、ピマゲダインという抗カラメル化の薬を研究している 者もいる。老人の病気ではトップクラスの心臓病を無くせば、平均寿命は 3年延びるだろう。アルツハイマー病を防ぐ遺伝子を見つければ、老人の 苦しみを和らげることになる。 | RNA :ribonucleic acid,リボ核酸 culture :培養,培養液 wither :しおれる,枯れる,弱る prolific :子を産む look into :研究する cardiac :心臓(性)の,心臓病の(患者) constellation :星座,型 confer :贈る Alzheimer's :アルツハイマー病 scourge :災難,天罰 |
| 45 | こうした治療のどれも、ミバエや線虫のようには、寿命を3倍、4倍には 延ばさない。ただ、端末小粒が短かくなり、細胞がカラメル化しながらも、 私たちは寿命を少し延ばすだろう。地球に生を得て以来、長い間人間の 平均寿命は高々20年であった。その寿命が80歳を超えるということは 偉業とも言える。末端小粒やグリコシレーションなどの研究がもう少し 進めば、現代の我々が120歳まで生きる望みもあながち夢ではない。 | |
| 46 | 不死を夢見る人にとっては、この展望は物足りないかもしれない。しかし、 人生80年と考えている人にとって、さらに4、50年生きられるのは、 不死への第一歩としても素晴らしいものであろう。 | fall short :及ばない,目標とするポイントに達しない,不足する contemplate :じっくり考える,熟考する |
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