練習タイヤ

 練習用タイヤというからには、本番用タイヤってのもあるわけです。それなりにイベントを追うようになると、本番タイヤと練習用タイヤというのを用意する人がほとんどでしょう。私も、ジムカーナを始めた頃こそ1セットしか持っていませんでしたが、これだとどうしてもコストパフォーマンスが悪いので、半年くらいしてから2セット目を用意して、1セットを本番用、1セットを練習用、という使い方を始めました。さらに上級者になると、ウェット用タイヤやコンパウンドの異なるタイヤまで用意する人もいるみたいですが、私は結局昨年までの5年間、タイヤは2セットを使いまわして戦ってきました。本番用だからと言って特別なタイヤを使う訳ではないのですが、残り溝の深い方とか、熱をあまりかけていないタイヤとか、を本番用に使い、それが溝が減ってきたら練習用にまわす、といった使い方です。こうすることで、溝が無くなるまでタイヤを使えますから、長い目で見るとタイヤを有効に使えるはずですからね。こうなると、必然的に練習タイヤと本番タイヤは同じコンパウンドということになりますね。
 初心者の方などはいきなり2セット揃えるのはかなり大変なことですから、大抵は、本番でも練習でも使えるタイヤを1セット揃えることになるわけですよね。私も半年くらいはそうでした。

 というわけで、今回はその練習に使うタイヤの話です。書いてみて思いましたが、この話は、基本的に曲がらない4駆だからこそ思うことかもしれません。

 最近のジムカーナ用タイヤ、Sタイヤとかレーシングタイヤとか呼ばれるものですが、最近著しく高性能化されていることはいまさら言うまでも無いでしょう。私がジムカーナを始めた5年前とは天と地の程性能差があるといえます。はっきり言って、ドライバーの腕があがったかと錯覚させるほどのものばかりです。ものすごいスピードでコーナリングできたり、タイヤが冷えているスタート直後の1コーナーに何も考えずに飛び込んでも何事も無かったようにクリアできてしまいます。
 考えてみれば、それまでのタイヤはとにかくしびれるものでした。4駆なのに冬場は3000rpm回転くらいでスタートしてもホイールスピンしたり、コーナーをいくつかクリアするまでは、相当恐る恐るステアリングを切り慎重にブレーキングしないとまともに走れなかったものです。夏場ですら1コーナーは安心できませんでしたからね。それがどうでしょう、今のタイヤは。ラフに扱うと車がどこに飛んでいくか分からないという感覚はもはや経験できませんよね。

 ジムカーナは、走行タイムを争う勝負ですので、イベントではこういった最先端のタイヤを使わざるを得ないのですが、果たしてこれらが練習に適しているか、非常に疑問を感じています。最近のタイヤは、車の欠点やドライビングミスを包み隠し何事も無かったかの様に走ってしまいます。おかげで、初心者でも比較的簡単に良いタイムが出せたりしますが、これから車の動きや操作を覚えようという初心者の方が、果たしてこれできちんとしたドライビングを身につけられるのか、タイヤの動きやスライドコントロールなどを容易に感じ取れるのか、少し疑問です。
 個人的な感覚で言えば、Gのかかり方を1から100の数字で表せるとしたとき、以前のタイヤだと48〜52の範囲で丁寧にGをかけなければスピンしてしまうか、アンダーを出してしまうとした場合、例えば最新のタイヤだと、40〜60くらいの範囲でGをかけれれば、以前のタイヤ以上のタイムが出てしまうくらいの違いがあるんです。前者で練習すれば、車のGが48〜52となる様しっかりコントロールする練習ができるのに、後者だと、それなりに走ってしまえばかなりのタイムが出てしまうのです。もちろんタイヤのおいしいところを知っている上級ドライバーなら何の問題も無いでしょう。しかしどうでしょう、タイヤをうまく前に転がす方法や、おいしい領域を体で覚えるべき初心者が、こんな優れたタイヤで微妙な領域を知ることができるでしょうか?1年間とは言わずとも、タイヤ1セット分これだけ違うタイヤで練習した初心者2人がいたらどうでしょう?同じようなセンスをもっていたとしても、基本技術には随分と差がつくのではないでしょうか?

 今、地区戦や関東戦のA4ではランサーに17インチの最新コンパウンドってのは当然の選択となっている様ですが、そういったドライバーも皆、今思えばしびれるようなグリップの15インチタイヤで何年も腕を磨き、ようやく現在に至っている訳です。恐らくそういった下積みがあるのと無いのでは、実際のタイム差以上に腕の差があるのではと感じています。

 こんなことを思うのも、昨年あまり練習もせずに高性能タイヤを履きつづけた結果、自分の運転が非常にラフになっているのでは?とシーズン後半に感じたからです。1昨年まで若干性能的に劣るとされていたタイヤで戦い続け、昨年、勝てるタイヤにスイッチしてからというもの、それまでの苦労が実ったのか、自分の予想をはるかに越える好成績を収めることができました。ところが、忙しかったせいもあり、ほとんど練習はできず、高性能タイヤでの軽い練習と本番のみの競技活動を送っていたところ、シーズン後半にはなんとなくぱっとしない走りが続いてしまった気がするのです。最終戦のふがいない走りは、高性能タイヤに甘えて、なまった腕のせいといえるでしょう。

 こんな経験から、初心者とかでとにかくドライビングの練習がしたい、って場合には、ランサーで言えばまずは15インチの1世代くらい前のコンパウンドからスタートするのが良い気がします。少なくとも15インチでばっちりターンを決められないなら、17インチでは難しいと思います。もちろん、17インチにはそれなりに必要なテクニックがあるので、いずれ17インチを使うのなら、17インチの1世代前くらいのタイヤを選択する方が良いかな?タイヤサイズをいくつも持つのは非効率だとも言えますが、15インチホイールならそこそこ中古で出回っている可能性も高いし、必要がなくなれば街のりやウェット用にしてしまえば良いので、1セットくらい15インチを持つのは悪くない気がします。
 ちなみに、2000年度のJMRC関東戦第7戦にて、第一ヒート時代遅れの15インチタイヤ、第二ヒート17インチ最新タイヤで走りましたが、タイム差は1秒弱、15インチのタイヤでも5位入賞のタイムでした。会場の特殊性も多少ありますが、そのくらいのタイム差は、初中級イベントではワンミスで取り返せるほどですから、何も焦って17インチから始めることはない、とも思います。

 確かに、このご時世に15インチタイヤや固めのコンパウンドを選択するのは勇気がいるでしょうし、何より大きいホイールの方が格好良いですからね、同じようにお金を掛けるのなら最新タイヤを、ってのが当然の流れだと思います。ですが、ここで敢えて勇気ある選択をすることが、1年後2年後に大きな差となって現れる気がします。
 私も、復帰用に、1世代前のパターンのタイヤを準備してあります。こいつでそこそこ走れないならば、しばらく練習を積む必要があると考えるからです。とにかく今年結果を、という方はこんな悠長なことは言ってられないでしょうが、何年か先に良い結果を、という方は、焦らずしっかりと自力を付けてはいかがでしょう?
 凄い車に乗るより、すばらしいテクニックでライバルや観客を魅了させたいじゃないですか。

last modified : 10/Jul/01
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