北アルプス北端・青海黒姫山〜犬ケ岳〜白鳥山


1974.3.16〜23 小倉、山田、佐々木、萩原、野口、山中
 北アルプスは白馬岳から徐々に高度を落とし北端は日本海に沈む。そこが親不知の断崖である。青海黒姫山(1222m)から長大なヤブ尾根を、ガスと複雑な地形・枝尾根に悩まされつつ、北ア北端の山・犬ケ岳(1593m)〜白鳥山(1287m)とつないで日本海に出た。このルートのポイントは前半部で、主稜線の犬ケ岳まで5日間を要した。

 3月16日(曇りのち雪) 前夜は糸魚川駅でステーション・ビバーク。始発バスで電気化学工場がある青海町大沢へ。工場では黒姫山の石灰岩を採掘しており、栂海新道を開いたさわがに山岳会・小野健氏の勤務先である。早朝にもかかわらず、小野氏から山の状況など教示していただく。黒姫山には中腹(491m)まで車道がついているとのことで、小野氏の世話で原石採掘作業所のある終点へジープで上げてもらう。雪解けの道でぬかるみがすごかった。9時45分、ワカンをつけ南へ向かって急斜面を登り始める。行動中は風もなく、ヤッケを脱ぐ。990mまで登ると尾根状となり、小さい雪庇が東側に張り出している。1100m付近から黒姫山が見え出す。黒姫小屋は前山の登り口に数本の杉の木に囲まれていた。15時35分着。北西部分の屋根と煙突を出して、あとはすっぽりと埋もれており、冬用入り口は雪がつまって戸が開かなかった。遠方の山々には次第にガスがかかり始めた。

 3月17日(ガス) 1時ごろ強風で目がさめた。テントが激しく揺れる。朝飯後、テント周辺の雪かきをしたあと、天気図をとって様子を見る。雪は降っているが風が弱まったので10時40分出発。視界は50mくらい。黒姫頂上はすぐそこだがパスする。前山の下り1100m付近で西南西に延びる小尾根に迷い込んだが、すぐ気づき戻る。この辺は迷いやすい枝尾根が多い。天狗菱までは不明瞭な尾根のため地図と磁石だけが頼りである。ガスがかかったり晴れたりで気が抜けない。穴見山との最低鞍部からは次第にヤセ尾根となってきた。左手(東側)はマイコミ平と呼ばれ、ケービングで有名な千里洞がある。穴見山北方ピークのヤセ尾根の登りで野口が滑落するが、うまい具合に木を股ではさんで止まる。穴見山の登りはさらにヤセて雪も固く、雪庇が東側に張り出す。ピークは南北に長くはっきりしない。16時を過ぎ、ガスも濃いので迷いやすく100mほど下ってビバークとする。16時50分。

ヨシヲ山付近 3月18日(ガス、小雪のち晴れ) 7時40分発。昨日同様ガスがかかっている。穴見山南方へ延びる尾根に迷い込むことに気をとられすぎ、東北東の尾根に入ってしまう。トラバース気味に本尾根に戻るが、雪が柔らかく緊張する。風は弱く、気温は高めである。明星山分岐まではまんじゅう型の一本も木がないピークを三つ越す。好天の兆しかガスが切れ、明星山へ至る尾根を確認。主稜線の菊石山方面の展望はあるが犬ケ岳の姿はまだ見えない。分岐はピークらしいピークはないが、ガスっていたら迷いやすいところだ。青空がのぞき太陽が顔を出した。天狗菱手前の鞍部状からアブキ谷へ雪崩の跡がある。南面の雪庇は大きく北面は雪崩の危険があるので、ザイルを張って通過する。ここで1時間45分も費やす。村杉山(1172m)のピークは不明瞭な長いヤセ尾根で、小滝川側に大きい雪庇がある。ヨシヲ山との鞍部に下る所はガスっていたら迷いやすい。ヨシヲ山からは、犬ケ岳〜白鳥山の稜線が夕日に浮かび上がって美しいシルエットとなっている(写真)。左手に長栂山、黒負山がガスの切れ間から見える。入山以来、最高の眺めだ。今日中にできるだけ稼ぐため星空の下、1256mピークを越えた地点まで頑張る。18時50分着。テントを張り終えたものの、夜の冷え込みでワカンのひもが凍り付いてなかなかはずれず苦労する。明日こそは犬ケ岳のピークをと闘志を燃やす。

 3月19日(雪のち晴れ) 昨日までの行動でシュラフ、靴下などかなり濡れてしまい、非常に不愉快な状態の夜だった。強風だが晴れたので、11時45分に出発。アイサワ谷から吹き上げる風が強い。柴倉山付近はクラストしており、雪庇もそれほどでもない。ただ、雪庇の奇形のために回り込んだり、乗っ越したりと歩きづらい部分もある。北西風が強まり雪混じりとなって体を支えるのに苦労する。柴倉山・犬ケ岳間の最低鞍部でサイト。16時着。小滝川側からの風が強い。

 3月20日(雪のちガスのち晴れ) 8時40分発。犬ケ岳までの雪庇の張り出しは大きくない。西俣沢からの吹き上げは強烈で、ときどき止まらざるをえない。防水性のよくないオーバー手袋をつけていた山中は凍傷一歩手前で辛そうだ。犬ケ岳へのヤセ尾根を直登して、ピークの一角であるジャンクションに立つ。栂海山荘はジャンクションの北面に一本のダケカンバを友として雪に埋もれ、北東部分だけ顔を出していた。犬ケ岳北面は予想通りクラストしていた。新雪がついているのでワカンで十分だが、かなりの急斜面なので慎重にザイルで確保する。主稜線は今までとは逆に右手に雪庇が張り出している。黄蓮岳北西面は急斜面で木がなく、雪崩の恐れがある。菊石山(1209m)は小さいながら、整った三角形のピークで西面のブナが美しい。少し下ってサイト、17時16分。

 3月21日(雪のち晴れのち曇り) 8時30分出発。1241m峰への登りは富山側がガレており、木が一本もない。中間のブナ樹林の中を縫って登る。ピークの詰めは急登。次のピークでは木にSACのキザミがあった。この辺りから晴天となり、春山らしくなった。白鳥山への1160m付近は巨大な雪庇に緊張する。気温も急上昇し、雪崩の危険を感じる。富山側の樹林帯に沿って登る。雪庇の付け根部分にはクレパスが生じていて、富山側には雪崩れた跡があった。白鳥山のピークはだだっ広く、日本海が眼前に飛び込んでくる。もう、最高の気分だ。振り返れば黒姫山から犬ケ岳へ連なる歩いてきた稜線が一望のもとである。樹林の少ない斜面を軽快に下る。シキワリと呼ばれている地形は複雑だ。坂田峠へシリセードで一気に下って振り返ると東斜面からの雪崩の跡がすごく、ゾッとしてしまった。坂田峠、16時40分着。

 3月22日(暴風雪) 停滞。日本海に996mbの低気圧があり、寒冷前線が通過した模様。小型台風並の風で、昨日つくっておいたブロックでは心もとなく、メーンロープとともに補強する。終日、暴風雪が続く。

 3月23日(晴れのち小雨) 8時10分発。昨日の荒天がウソのように静かでのどかな日だ。尻高山から北西へ延びる尾根に迷う。送電線に沿って西尾根に戻る。二本松峠へは樹林帯のため分かりにくい。二本松峠にはお地蔵さんと道標があった。風波川沿いの下りは予想外に手こずった。上流は木のない急斜面で東側の樹林帯を下る。所々にデブリがあり、雪を踏み抜いて靴を濡らしてしまったので、最終日ということでもありそのまま沢身を下った。国道8号線に出ると、レストラン日本海の横にSAC栂海新道入口とある。13時15分、とうとうたどり着いたのだ。海岸に行ってみると、荒々しい絶壁「親不知」が迎えてくれた。レストラン日本海で食事し、風呂に入って汗を流した。

 【コースタイム】 (3/16)黒姫山中腹491m地点(採掘作業所)9:45 黒姫小屋15:35〜(3/17)10:40発 前山11:10〜25 穴見山16:45 穴見山南方100m地点16:50〜(3/18)7:40発 丸山8:45〜9:15 天狗菱手前13:15〜15:00 村杉山手前15:50〜16:20 P1265m18:40 P1265m過ぎ18:50〜(3/19)11:45発 柴倉山下降点14:40〜50 柴倉山・犬ケ岳最低鞍部16:00〜(3/20)8:40発 犬ケ岳(ジャンクション)12:00〜05 黄蓮岳直下14:45〜15:00 菊石山16:35〜17:15 菊石山直下17:16〜(3/21)8:30発 無名峰・白鳥山鞍部11:50〜12:05 白鳥山13:00〜15 シキワリ直下15:40〜50 坂田峠16:40〜(3/22)停滞(3/23)8:10発 尻高山直下8:40〜50 風波川12:55〜13:10 風波13:15


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