北アルプス・北穂高岳滝谷クラック尾根、ドーム北壁左ルート


1991.5.3〜6 吉田寛、永瀬、佐々木、武生、森廣、平塚

 今夏のパミール行に備えての仕上げ山行。特にチムタルガ(5,487m)を目指すなら、5月の滝谷をこなす力量が必要とのことで、徒登行山岳会にいる限り穂高など縁のない山とばかり思っていたが、登るチャンスが巡ってきた。

クラック尾根取付 5月3日(雪のち曇り) 松本電鉄のホームで同じ後発組の森廣女史と合流する。上高地は春の雪。登山指導員が登山者に装備の点検を呼びかけ、雪崩に注意するよう大声を張り上げている。「雪崩で死ぬのは苦しいのです!」だと。死んだことがあるのだろうか? 7時5分、重荷にヨタヨタしながら一路涸沢へ。徳沢で遠藤晴行・由加氏を見かけるが、1月の八ヶ岳でも同じバスだった。横尾で橋を渡り樹林の山道に入る。屈曲点を過ぎると息が上がってきた。

 13時45分、涸沢団地にやっとこさ着いて、徒登行の大型エスパースを探す。一番奥穂寄りの端っこに張ってあった。先発隊は、この雪の中どこかへ出かけているようで不在。帰ってきたので聞くと、北穂南稜に行ったが、3分の2までしか登れなかったという。厳冬期並のラッセルだったらしい。

 5月4日(晴れのちガス) 快晴である。ぼくらが出かける5時45ジャンケンクラック分には、すでに北穂目指して多くのパーティーが取り付いていた。昨日の雪で先頭は相当のラッセルを強いられているらしく、遅々として進まない。その分、昨日は見えなかった前穂北尾根を存分に振り返って眺められる。目を転じるとコブ尾根を登っているパーティーもよく見える。やはり穂高はそれなりにすばらしい。陽が高くなるにつれ、強烈な陽射しにペースダウンする。北穂頂上からははるかに槍ヶ岳を望む。写真でお馴染みなので初めての感じがしない。北穂の下りは急斜面で、ザイルをつけ慎重にスタカットのままB沢も下る。

 クラック尾根の取り付き(写真上)には先行者2人。吉田、永瀬、平塚と森廣、武生、佐々木でザイルを組む。10時40分、1ピッチ目を登る頃からガスが湧いてきた。小ピークを越え旧メガネのコルへのピッチはガスの中ながらも高度感がある。小雪も舞い始め、やはり滝谷だわいと思う。

 核心のジャンケンクラック(写真中)では先行の永瀬氏が苦労していた。アイゼンを脱いでも登れず、あきらめかけたが、武生君の叱声に一念発起して越えていった。ぼくらはクラックを敬遠して左のフェースから登ったが、ここもなかなか細かい。傾斜の緩いガレ場から右に回り込むとき、先行の落とす雪が容赦なく降り注ぐ。17時25分、ほぼダイレクトに北穂小屋前に出て終了、握手を交わす。ガスは滝谷特有らしく涸沢側は晴れていた。たまのクライミングもなかなかいいもんだという充実感に包まれベースに戻る。18時30分。

ドーム北壁左ルート 5月5日(晴れ) 5時30分、ドーム北壁へ向かうため、きょうも北穂の稜線へ。昨日と同じくらいのペースだ。ドーム基部へのトラバースで武生君が空洞にはまって足をとられ、あわや滑落しかけたが体を反転させてピッケルに体重を預けた。先行は4人おり、順番待ちとなるがやたらと長い。見覚えのある顔は電車で一緒だった「ネズミ男」似のヤツで、昨夜となりのテントで酔っぱらって大騒ぎしていた連中だった。

 結局、1時間20分待たされて10時50分のスタート。左ルート1ピッチ目は単純なアブミの掛け替えと若干のフリー(写真下)。2ピッチ目は容易なフェースで14時終了。昨日と同じオーダーだが、森廣さんに「少しは仕事をしろ!」と言われてリードした武生君が頑張った。もう1本稼ぎたかったが、中途半端な時間となったのでベースに戻る。15時25分、BCに着いてノンビリ過ごす。

 5月6日(晴れ) 下るだけだ。屏風岩を観察しながら、吉田君は森廣さんに誘いをかけていた。なるほど岩屋なら登りたくなるカベだ。森廣さんはかつて緑ルートを登ったことがあるという。徳沢園の気持ちのいい広場でのんびり休憩する。上高地のタクシー乗り場にいると、またもやネズミ男パーティーと一緒になった。

 【コースタイム】 (5/3)上高地7:05 明神7:53〜8:05 徳沢8:50〜9:05 横尾10:05〜10:20 屈曲点12:05〜12:15 涸沢13:45〜(5/4)5:45発 稜線7:55〜8:20 B沢下降点9:30 クラック尾根取り付き10:05〜40 北穂高岳17:25〜17:40 涸沢B.C.18:30〜(5/5)5:30発 稜線7:40〜8:06 ドーム手前稜線8:10〜20 ドーム北壁取り付き8:30〜10:50 終了点14:00〜20 涸沢B.C15:25〜(5/6)6:20発 横尾8:00〜20 徳沢園9:10〜30 上高地10:45 


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