南アルプス・塩見岳

1988.12.29〜31 佐々木(単独)
 12月29日(晴れ) 伊那大島から伊那バスのマイクロバスで落合に行き、予約していたタクシーで単独行2人と相乗りし、樺沢小屋手前まで入る。道を横切る水流が凍結していなければ塩川まで入れたのに…。塩川対岸の枝沢は見事な氷瀑をかけている。塩川からスパッツをつけ雪上を歩き始める。はるか高みに本谷山方面の稜線が見えるが雪は少ないようだ。尾根取り付きから15分ほどで雪のつかない急登となる。トレーニング不足なのか足の重さを感じながらヨタヨタと登り詰め、ようやくゆるやかに左に折れて歩きやすくなると三伏峠は近かった。初めて塩見岳が見えた。

 三伏小屋は開放されており、タクシーに相乗りした単独行の2人が「おつかれ」と迎えてくれた。一休みしたあと、旧館裏のテント場へ行く。まだ1張りもないのは意外だったが、2カ所ある撤収跡のうちブロックを積んである脇にゴアライトを張る。小屋泊まりは楽でいいのだが、今回はあえてテント泊まりにこだわる。ただ、昨夜のステーション・ビバークでエアマットがパンクしたのが痛い。ガムテープも持って来ず修理できないので駅に捨ててきてしまったのだ。

 12月30日(晴れ) タクシーに乗るとき「今朝はマイナス10度だから山の上はマイナス20度はあったろう」と言われたとおりの冷え込みぶりだ。風がないのが救いだが、どうにも寒さに耐えきれず、1時半には起き出してガソリンコンロに点火する。外は満天の星、月はこうこうと照っている。なれば、越後駒ヶ岳でやったようにヨーロッパアルプス方式といくか。さっさと朝飯をすませてサブザックにテルモスなどを詰める。フーフー言いながらアイゼンの1本締めバンドで締め上げ、テント脇からトレースに従って出発。まだ3時35分だ。

 ワカンのトレースなので部分的にもぐる。雪は少な目とはいっても深い所は1〜1.5mくらいある。ひと登りで三伏山だ。眼下に伊那の灯りがきらめいて幻想的だ。目指す塩見岳は黒々とカブトのように盛り上がっているものの、かなり距離感を感じる。いったん下って急登すると本谷山に着く。ガイドブックには「この山に着く頃が夜明けのペースで」と書いてあったが、東の空はまだ夜明けの兆候もない。ゆっくり行こうと歩を緩めると、今頃になって眠気が出てきて、バテたような気分になってしまった。権右衛門山のトラバースにかかるころ夜が明けたが、太陽が顔を出すにはまだ時間がある。トレースは赤布を忠実に追いつつも時々ルートをはずしており、夏道通りではなく山腹を巻いて主稜線から塩見小屋へと向かっていた。樹林帯の急登を抜けると森林限界だ。

 塩見小屋には管理人が入っており、宿泊者も何人かいるようだ。ここから見上げる塩見岳はアルペン的な風貌で、ルートを凝視する。陽が当たってきて天狗岩の下りでは暑いくらいになる。北面の岩場は迫力があるが、頂上への岩場は雪がそれほどついておらず、塩見沢へも氷の滑り台になっていなかったので、それほど緊張しないですんだ。9時40分、西峰から東峰へ行き大休止し、展望を楽しむ。いつもは白い仙丈や白峰の雪の少なさに驚く。冬型気圧配置が崩れたらしく中央アルプスはもちろん、北アルプスの山々も一望のもとだった。ぼくより10分遅れで着いた単独行者は、6時に三伏小屋を出たというからすごいペースだが、荒川三山を指さして「あれが白峰ですかあ?」とトンチンカンなことを言っていた。

 蝙蝠岳へのたおやかな稜線を見ていたら、何とか往復できるのではと誘惑の念にかられたが自粛する。これからベースに戻るのにも時間を食うから、またの機会にしよう。下りは数パーティーとすれ違ったので、トレースも「一級国道」となっていた。本谷山あたりでは陽射しの強さに暑さを感じるくらいとなった。14時15分、峠に着くと今日入山した6〜7張りのテントでにぎわっていた。夜はやはり寒さに震えたが、昨夜よりは少し眠れた。

 12月31日(晴れ) 三伏峠からの下りは登りの苦労もどこへやら。アイゼンをつけてガンガン下る。途中、6〜7パーティーとすれ違う。年末のせいか鹿塩から運行しているはずのバス便がなく、バス代(1400円)の料金でOKというタクシーに乗って伊那大島へ向かった。

 【コースタイム】 (12/29)樺沢小屋手前8:15 塩川9:15〜30 尾根取り付き10:35 三伏峠14:35〜(12/30)3:35発 本谷山5:35〜40 塩見小屋8:05〜20 塩見岳西峰9:30〜35 塩見岳東峰9:40〜10:05 本谷山12:55〜13:15 三伏峠14:15〜(12/31)6:55発 尾根末端8:35〜45 塩川9:35〜55 樺沢小屋10:35 鹿塩11:55


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