日高・カムイエクウチカウシ山〜ペテガリ岳


1976.8.5〜16 佐々木、丸井、村越、高森、八木下、新井、竹村、角田、長坂、皆方、渡辺、郷田
 8月5日(曇り) 中札内から林道終点までタクシーで行き、徒渉2回で砂地の絶好のサイト地を見つける。札内川の水量は少ないようだ。虫(ブヨ)が意外に少ないのに拍子抜け。夜は小雨が降り続く。

 8月6日(曇りのち晴れのち霧雨) 水量が少ないので順調に遡行する。昼食のときイワナ釣りするが、あたりなく、カジカ3匹のみ。青空が広がり暖かくなる。八の沢出合でサイトしていた3人パーティーに会う。我々を軽く追い越して、今日の泊地は八の沢カールだという。トッタベツ岳までいくとのこと。

 二俣は大きなスノーブリッジがのこり、左から100m以上もあろうかと思われる数段の滝が出会う。雪渓の下はトロになっていて、ここでイワナ10尾ほど釣り上げる。カムエクからのエスケープルート尾根末端の草地にサイト。傾いており、快適とは言えない。午後になるとガスが山稜からおりてきて夕食時には霧雨となる。稜線は一日中ガスの中だった。今年の北海道は冷夏で、寒くてしょうがない。

八の沢 8月7日(高曇り時々ガス) 三俣からの八の沢は20mの滝が三つ連続する。高巻きルートを偵察したあと、15mの数条の滝まで大きく左岸を高巻く。再び急峻で不明瞭なヤブコギをしながら高巻く。途中枝沢を横断し10m滝下におりる。この滝上から岩床の涸れ沢(左岸)を快適に登って沢に戻ると15m滝があり右カンテ状を登る。15m滝にはなぜか花が供えてあった。6、8mと滝を越えて、さらに小滝がつづくゴーロ状となり急激にカールに突き上げている。途中、京大ワンゲル部10人が追い越していった。あとで聞くと彼らもペテガリ岳をめざすという。

 八の沢カールで天張り、昼食後、カムイエクウチカウシ山をピストンする。戻ってから福岡大ワンゲル部のヒグマ遭難碑に皆で黙祷。遭難者のものらしい登山靴が悲しみをさそう。碑文には「夷山に 眠れる御霊安かれと 挽歌も悲し八の沢」とあった。八の沢カールは素晴らしい別天地だが、カム・エクから大きなガレが押し出され、荒れていた。あたかも雪崩のように水場の10m近くまで土砂が流されてきていた。整地されたサイト地はせいぜい2、3張り程度で、一番いい場所は京大が使った。冷夏と関係があるのか、虫はやっぱり少ない。(写真=八の沢上部の滝を越える)

 8月8日(晴れのち曇りのち雨) 稜線に上がると新井が大ナベをカール側に落とす。ピラミッドの登りは一部岩稜で要注意。1780m峰の肩の登りでは一個所いやらしいところがある。このへんはまだ踏み跡があり歩きやすい。風が日高側から吹き上げて非常に寒い。1780m峰を過ぎると岩が露出し、十勝側は急激に落ち込んでいるので、日高側をトラバース気味にいく。鞍部は岩が散在するお花畑となっていた。1620m峰から本格的なハイマツ漕ぎとなる。ダケカンバも稜線に生え、いやらしい木登りも強いられる。とぎれたガスの間から見える山々がうれしい。1823m峰への登りは長いダラダラで、下から見るとニセピークがたくさん現れる。14時を過ぎると強い雨模様となるが、頂上に近づくにつれ踏み跡はしっかりしてきて歩きやすい。1823m峰はテント一張り程度のスペース。南側の草地を整地してもう一張りむりやり設営。体はビショ濡れで不愉快な夜を迎える。雨は断続的に強くなり、日高の奥深さに圧迫されて恐ろしい気もする夜だった。

 8月9日(曇りのち雨のち曇り) ところどころハイマツがはびこっている程度だが、雨で滑りやすい。コイカク北の肩には急な尾根が一直線に伸びており、下から見る角度だけで判断すると、とても登れそうになく感じる。が、いざ取り付いてみると岩稜まじりだがさほどでなく登りやすかった。三角点からコイカクピークはお花畑で稜線漫歩といった感じ。それぞれのピークにはサイト地があり、やや人臭い。ヤオロマップの窓にはヤオロマップ川源頭が鋭く切れ込んおり、上からのぞくと下の雪渓がよく見えた。よく使われるサイト地(3張り)らしくゴミが散乱して幻滅させられる。踏み跡が源頭についているが、岩がもろく急峻で落石がひどいため100m下の雪渓までたどりつけなかった。

 8月10日(雨のち雲) 起床時、雨が降っており、停滞を決める。テントをしたたる水を集めるとポリタン3発(6リットル)になった。午前中、3人に日高側の無名沢側へ水くみに行かせる。約2時間で戻ってきたが、バクチクをかなり鳴らしていたからクマをこわがっていたようだ。夜は月明かりがテントを照らし、風も弱くなって天気も回復してきた。

ヤオロマップ岳 8月11日(晴れのちにわか雨) 急登で肩に出るとヤオロマップやルベツネ方面がよく見える。ヤオロマップ岳には大ケルンが立っていた。1839m峰がすばらしく、ひときわ頭をもたげている。企画段階で割愛したが日高5山の一つといわれるほどの美しい山で、登りたい誘惑にかられた。

 ヤオロの下りは岩とハイマツのミックスした急坂で時間がかかる。逆コースならバテバテになるだろう。ヤブが濃いが、とくに1560m峰と1599m峰の中間ピーク付近はひどい。足をとられてイライラするし、久しぶりの日差しにあせばむ。条件は悪いが1599m峰にテントを張る。激しいにわか雨で11リットル集めることができた。雨の合間から見えるルベツネの鋭鋒はすばらしい。(写真=ヤオロマップ岳から北日高をバックに)

 8月12日(ガスのち大雨) 出発してまもなく雨が降り出す。草の色が黄や紅に変わっていることに秋の気配を感じる。北ルベツネの登りで雨足が強くなり、すごく寒気を感じた。ルベツネ本峰との鞍部に向かおうとするあたりで、2張りは可能なところを確認しながら雨の強さにためらいつつ少し進んだが、大粒の雨となったので急いで戻らせてテントを張る。とたんに本降り。それはもう雨具など役にたたないほどだ。なにもかもビショ濡れで、テントに入ってもみなガタガタふるえている。昼食後に着替えさえ、ぼく以外は14時半まで死んだように眠る。もう雨と寒さにはほとほとまいった。夜半には寒冷前線の通過で風混じりのどしゃ降りとなった。テントの脇はすぐ切れ落ちているので気が気でなく、もう一つのテントではシュラフの下を水が流れて川になっていたという。

 8月13日(ガスときどき雨のち曇り) ヤセ尾根の向こうにルベツネ岳が一段と高くそびえている。すごいヤセ尾根で、急登であるが登りやすい。頂上につくころにはまた雨がぽつりときて「またか」という感じだ。風は強く寒い。ペテガリCカールは鞍部の赤布に導かれて急な斜面をころげように降りる。ささやかなカールだが、十勝側なので風が弱く暖かい。お花畑となっており、10張り程度可能だが、ゴミも多かった。水を補給してから出発。カール底へは下り15分、登り20分だった。

 ペテガリへの最後の登りは、もはや「道」で歩きやすくピッチがあがる。登りきるとBカールが左下に見え、目前に三角型のピークがそびえるが、これは前衛峰にすぎない。ペテガリ山頂はやはり人臭かった。雨はやんで薄日がときおり射すようになったが、風は冷たいまま。十勝側のガスが切れ始めて平野部まで望まれるのに、日高側はなかなか晴れてくれない。ところが食事を終え外に出てみるとすばらしい夕景色だ。カムエク、ヤオロマップ、ルベツネなど、歩いてきた稜線が折り重なっている。そして1839m峰がひときわ高いいかめしいピークをもたげている。南部の中ノ岳、神威岳もよく見えた。それにしても日高側のやまなみの奥深さは何とも言いようがない情景だ。しばらくの間、みんなこの眺めに見とれていた。

 8月14日(曇り一時小雨) 山頂より主稜線を下るが、100mほど下から北東にのびる尾根に迷いやすいので注意が必要。まだ枝がはびこり歩きにくい。ややトラバース気味にAカール上の稜線に出ると花が咲いている歩きやすい尾根になる。岩コブをいくつか越えると国境稜線分岐だ。靴幅リッジはその名の通りのヤセ尾根だが、稜線が樹林でおおわれ緊張感はない。多くのコブを越えていくのでうっとおしい。展望がないからなおさらだ。針金のついたトラバースが2カ所あった。薄日が射してきて蒸し暑くなったら、とたんにブヨがまとわりついてうるさい。1519m峰からは道はさらによくなる。起伏のある長い尾根を頑張ってペテガリ岳登山口までおりた。17時33分着。

 8月15日(曇り) 昨日、頑張りすぎバテ気味なので停滞。ポンヤオロマップ川に釣りに行く者、干し物、昼寝など各自さまざまに過ごす。

 8月16日(曇り) 林道はかなり荒れており、橋は壊れているものが多い。5万図の「上札内」に入って最初の橋も半壊しており、車はこの手前までしかはいれない。歴舟川本流を渡ると牧場となり牛が追いかけてきた。振り返ると日高の山々はまだ厚雲に覆われていた。

 【コースタイム】 (8/5)札内林道終点18:00 サイト地18:40〜(8/6)5:50発 六の沢出合7:15〜20 八の沢出合10:40 八の沢二俣12:55〜(8/7)5:00発 三俣5:30〜50 八の沢カール9:45〜11:00 カムイエクウチカウシ山12:00〜20 八の沢カール13:15〜(8/8)6:00発 稜線6:25〜40 ピラミッド7:35〜50 1780m峰9:15 1823m峰15:05〜(8/9)5:50発 ピラトコミ分岐7:35 コイカクの肩10:50〜11:05 夏尾根分岐11:25 コイカクシュ札内岳11:35〜50 ヤオロマップの窓13:00〜(8/10)停滞(8/11)4:45発 ヤオロマップ岳6:05〜30 1560m峰8:55〜9:40 1599m峰12:20〜(8/12)5:10発 北ルベツネ山8:05〜(8/13)5:05発 ルベツネ山6:05〜20 ペテガリCカール8:00〜9:45 ペテガリ岳12:00〜(8/14)5:00発 東尾根分岐6:20〜40 1519m峰10:00〜15 ポンヤオロマップ岳13:00〜10 ペテガリ岳登山口17:23〜(8/15)停滞(8/16)4:45発 坂下9:50


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