南アルプス・白峰三山(北岳〜間ノ岳〜農鳥岳)



1979.12.27〜30 佐々木、小野
 12月27日(小雪時々曇り) 甲府で予約したはずのマイクロバスが来ず、代わりにタクシーが来た。他の登山者の予約がなかったらしいが、バスなら一人2000円で行けるのにタクシーだと一人4000円になってしまう。そこで鳳凰三山にいくという二人と相乗りすることにした。二日前にかなりの降雪があったということで、夜叉神峠は真っ白だった。途中、鍵のかかった隧道の扉が開けられず(タクシーのおやじが鍵を忘れた)、小野のピッケルで錠と扉をつなぐ針金を(おやじが)叩き切った。深沢を過ぎてすぐの二つ目の隧道の入り口が終点だった。中にはテントが張ってあり、すでに朝食の準備をしているらしい。ぼくらもテントを張って一時間半ほど仮眠し、6時55分に出発。

北岳 小雪が舞って山の上部は見えないが、風が強くゴーゴーとうなりをあげている。下降点から一気に野呂川へ400mの急降下。凍り付いているのでスリップに気を遣う。吊り橋は骨組だけしかなく、丸木橋を渡って対岸へ上がる。登山口への途中、死んだ鳥をピッケルでつつこうとしたら、「やめて下さい、あとでたたりがありますよ」と小野が言う。「おれは、縁起をかつぐんですよ」だと。さほど、登りにくくもない急坂をつづら折れに快ペースで登る。鳳凰三山はガスの中で、ゴーという音がして雪煙が上がると、やがてその強風がこちらの大木をガーッとゆさぶって枝についた雪を吹き飛ばす。

 いったん弛んでて再び急登となったら、眠気を覚えてだるくなる。荒川方面からのトレースを合わせ、池山の山腹を緩やかにトラバースしていく頃にはふらついてきて、やたら長く感じた。雪原状に建つ池山小屋の内部は予想以上に痛んでおり、粉雪が気ままに入り込んでいる。奥の隅にドームテントが一張り。後続4人パーティーもここに泊まるようだが、僕らは気乗りせずもう少し頑張ることにする。寝不足と急登に苦しみ、2372mピークまで上がると、狭いが何とかテントを張るスペースがあった。

 12月28日(晴れ) 星の輝きを見ながらヘッドランプをつけ出発。富士山から陽が上ると素晴らしい快晴となり、間ノ岳、農鳥岳のモルゲンロートはひときわ厳粛だ。森林限界を抜けて、目の前に広がるボーコン沢の頭の大斜面を登り切れば、バットレスが眼前に展開するはずで、気が急く。アイゼンは小気味よく効き、ケルンが立つ頭に着くと、ああ、出た。すごい迫力だ(写真)。いつもチッコイ山をゴソゴソ歩いているためか、大きい山は新鮮だ。

 ボリュームある白峰三山の眺めを楽しみながら、なだらかな雪稜を八本歯の頭へ向かう。八本歯はザイルを使うほどでもなく、コルへの岩稜を慎重に下ってハシゴを登り返す。吊り尾根分岐への急登となると、風に叩かれてクラストしているためジグザグにかせぐ。それでも風が当たらないので太陽光線は強烈で途中一本立てたとき、岩にはりついた氷がトロトロと融けていった。分岐から休まずに北岳へ向かう。ガラガラの夏道をはずし、左の急な雪の斜面に引き込まれる。途中までステップがあったためうっかりしてしまった。氷化しているのでカッティングを強いられる。この11月に中年男性が滑落死したのだが、ここではないのかと思った。小野はちょっと恐怖を覚えたようでなかなか進まなかった。

 頂上で仙丈岳をバックに記念撮影後、夏道に忠実に下りる。北岳山荘へは、氷化した急傾斜の夏道を避け、一段上の岩稜を進む。一カ所足元が切れ落ちたトラバースがあり、念のためザイルを張る。そのまま急斜面を下って夏道に戻ると岩稜の緊張から解放された。山荘の冬期入り口は二階で立派な造りだ。関西の学生パーティー4人が先着していた。

 12月29日(曇り一時雪、強風) 風が強い。中白根の登りではよろめき、しばし耐風姿勢をとってしのぐ。小野はこの強風に仰天したらしく、耐風姿勢のまま先に進めない。合宿だったら、さっさと進めよ!と怒鳴るところだが、「このくらいの風は冬山ではふつうだよ」「陽がのぼって来るとだんだん弱くなるから」と言うにとどめる。

 伊那谷方面のどす黒い空が不気味に迫る。すると、あっという間に仙丈岳がガスに包まれ、北岳をも覆い尽くそうとしていた。膨大な隆起といった感じの間ノ岳を越え、雪のあまりついていない急な斜面を左へ左へと下ると農鳥小屋。屋根近くまで雪に埋まり使えそうもない。西農鳥岳へは岩稜基部で夏道は右にトラバースするが、そのままリッジを直上。すっかり視界が悪くなった中、右斜面をからんで岩場を回り込んだりしていく。最後の登りをふんばり農鳥岳頂上で関西の学生パーティーに追いつく。下りの岩稜から左の斜面に入ったところで、先行する学生パーティーが迷っていて偵察を出して右往左往していた。磁石頼りに右寄りに進んで夏道のペンキと赤旗を見つけ、彼らにコールしてやる。

 下降点に着くといきなり視界が開けたが、トレースは全くない。下降尾根がはっきりするところにある赤旗まで行き、あとは赤布を見つけていきながらラッセルしていく。樹林帯に入ると太ももまでもぐるが、軽い雪でワカンは不要。右手の尾根が尽きるあたりで左にトラバースしていくと尾根上の夏道と合流する。学生パーティーと交代で途中までラッセルする。沢に下りた頃にはかなり雪が降ってきた。樹林帯をひたすら下り続けて大門沢小屋に辿りついた。ここも感じのよい小屋で板間に泊まれる。明日、農鳥に向かう3人パーティーと単独行者がいた。

 12月30日(晴れ) 穏やかな好天。稜線で朝を迎えたかったが、下山は相当のアルバイトになるし、やっぱり昨日がんばっておいてよかった。今日は奈良田までのんびり下るだけだ。ゆるい下りのあと、八丁坂の急坂を経て河原に出て、吊り橋を三回、枝沢二回ほど渡る。上下の多い小尾根の乗っ越しをすませると、やがて堰堤の工事現場が現れ車道に出た。奈良田温泉は正月前の準備をするのどかな風情がよかった。

 【コースタイム】 (12/27)深沢隧道6:55 池山尾根登山口8:20 池山小屋12:00〜45 2372mピーク14:10〜(12/28)6:00発 ボーコン沢の頭8:30〜40 八本歯の頭9:45〜10:10〜吊り尾根分岐11:25 北岳12:05〜45 北岳山荘14:05〜(12/29)6:30発 中白根7:20〜25 間ノ岳8:35 農鳥小屋9:35〜10:00 西農鳥岳11:15〜25 農鳥岳12:10〜30 大門沢下降点13:20 大門沢小屋16:15〜(12/30)7:00発 奈良田10:20



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