南アルプス・甲斐駒ヶ岳黒戸尾根

1987.1.1〜3 佐々木(単独)

 1月1日(晴れ) 早朝の初詣の電車を池袋、新宿、高尾と乗り継ぎ、日野春で下車した。8時28分の横手行きバスが、年末年始の間は運休と知りガックリ。しばし茫然としたあと、仕方なく駅前から歩き出す。しょっぱなから運が悪い。雪煙をたなびかせる甲斐駒が、やけに遠く高く見えた。登山口の横手までは約10キロ。今日の予定が大幅に狂う。釜無川を渡り、牧原で国道20号線を横切る。タクシーに期待したが、元旦では無理な話だ。2時間半かけて駒ヶ岳神社に着いたときは、朝飯抜きだったためかバテてしまった。

 登山者名簿をみると、12月20日以降10パーティーに満たず、しかもその7〜8割は単独だ。初詣の人々が行き交う中、社務所の犬コロに吠えまくられながらスパッツをつけ、神社の左手の登山道を登り始める。このあたり日当たりがよく、雪は少ない。樹林帯に入って急登に一汗かくと見晴らし台だ。北側の眺望が良い。ササの生えた緩やかな尾根から斜面を絡んでいく。小崩壊を二カ所通過すると、大規模に沢が押し出されている。昭和57年夏の台風10号の影響らしい。1300m付近だ。崩壊に沿って道は急登を続ける。ササの中を行くと竹宇からの道が合流した。

 15時近いので、天場を探しながら進むと、ヒゲの単独行者が平坦地にテントを張っている。五合目まで登ったが、強風のため戻ってきたという。五合目小屋は氷瀑の連中でいっぱいで、テントを張っても吹き飛ばされるほどだったという。ということで、今日は五合目まで行きたかったがあきらめ、平らなササ地にツエルトを張って潜り込む。

 1月2日(曇り時々雪) 今日中に頂上を越えようと張り切って5時55分出発。幅広い尾根の急登である。町の灯りが美しい。気温は0度だから妙に暖かい。天候は崩れつつあるようだ。八丁登りを終え、ツガの原生林から前屏風の頭(三宝の頭)を越える頃には、すっかり明るくなる。刃渡りの手前にテントがあり、出発の準備をしていた。刃渡りは岩肌が露出し、尾白川側が見下ろせる。鎖がつけられているので、思ったほど緊張はしない。はしごを次々と越えて刀利天狗に着く。チラチラと雪が降り出してきた。黒戸山の右側をゆるやかに巻いていく。樹林帯から抜け出し、五合目小屋へ下りかけると、眼前に駒ヶ岳が高く遠くそびえている。見た感じは相当険しく感じる。空はすっかり曇ってしまった。小屋周辺にはテントが数張りあった。鞍部から100mほども屏風岩が立ちふさがり、はしご登りが始まる。

 鎖のついた不動岩を過ぎ、さらにはしごを通過中、10時15分ごろだ。ニブイ音とともに右足のタニアイゼンのジョイント部分が折れた。これで2回目だよ、勘弁して! 昨日につづいて全くついていない。アイゼンをはずし、スパッツの余分なひもとザックのサイドベルトで応急修理する。ぐらぐらするが、何とかはずれないようにと願うしかない。左山腹を巻き、キレット状となった渡しを過ぎると七合目小屋だ。五合目と違い頑丈な造りである。ここはすでに森林限界を越え、雪も深くなった。

 下ってきた連中がステップを崩すので、トレースの間隔が合わずに疲れる。右から左手に回り込んで着いたところは八合目の御来光場。花崗岩の鳥居がある。頂上はもう間近だが、岩場が多くなり時間がかかりそう。摩利支天を左に見ながら、岩と岩との間のルートを頂上に向かう。もはや鳳凰三山も目の高さになり早川尾根の向こうには北岳も望める。雲が頂上を洗い、天候は確実に崩れている。鎖場を過ぎ、三本剣のあるところが九合目で、頂上は指呼の距離に迫った。吹き上げる風が雪煙を舞い上げている。摩利支天尾根が合流し、六方石からの道を合わせると、着いた。自分一人だけの頂上だ。

 ガスってきたので、すぐ六方石への道に入る。吹き上げが強い中、雪が飛ばされザレた夏道どおりに下る。双児山の登りを敬遠して仙水峠に下ることにする。圧倒的な摩利支天を仰ぐ仙水峠に着くと、風はより強く北沢峠方面から吹く。ゴロゴロした岩原から樹林帯に入ったところでアイゼンをはずす。やれやれ、何とかもってくれた。疲れた体にムチ打って北沢峠の長衛荘までがんばる。17時着。2400円の素泊まりだが、夜半から雨となり正解だった。

 1月3日(晴れ) 出発のころには雨はほとんど止んだ。八丁坂では雪が全然なく、快調に赤河原へ。戸台へ向け、ひたすら河原を歩いた。

 【コースタイム】 (1/1)日野春8:30 横手10:30〜35 横手駒ヶ岳神社11:00〜30 見晴らし台12:50 竹宇道合流点14:47〜55 BP15:00〜(1/2)5:55発 刃利天狗8:25〜35 五合目小屋9:00 七合目小屋10:40 八合目12:05〜15 甲斐駒ヶ岳13:40〜50 六方石14:25〜35 駒津峰15:00 仙水峠15:55 北沢長衛小屋17:00〜(1/3)6:45発 赤河原8:05〜20 戸台10:30


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