会越・川内山塊・銀次郎山〜矢筈岳〜中ノ又山


1980.5.2〜6 永瀬、山野辺、執行、高坂、佐々木

 5月2日(小雨後曇り)  加茂で酒田から来た高坂さんと合流し、蒲原鉄道で村松へ。意外と冷え、雨が降っている。加茂駅で話をしたおばさんは、矢筈岳と言ってもそんな山は知らないらしく、粟ガ岳(1293m)や五頭山(913m)などは知っていた。熊の話などをしたが、しきりに「気をつけなせえ」を連発した。

 暮坪でバスをおりて、周囲の山に目を向けても雪など全然ない。雪解け水の豊富な早出川や杉川の奥に残雪に覆われた山々があるとは思えなかった。それだけ川内山塊は奥深いということだ。杉川に沿って進むと所々に残雪が現われる。前方にこれから登る尾根の支稜が見えるが、雪はほんの名残り程度。杉川が荒々しい峡谷となり、つり橋の対岸に杉川発電所取水口見張り所ある。この小屋からさらに杉川沿いに行くと「七郎平山へ約三時間」の導標があり、グシの峰への急登が始まる。

 尾根上に上がったところの大杉の休み場から道は反対側斜面をからむようになり、谷を隔てて木六山(825m)が大きく眺められる。標高が低い割に荒々しい山容だ。グシの峰から銀次郎山(1054m)、銀太郎山(1106m)方面の展望を楽しみながら、いったん下り登り返すと道は木六山の右山腹をトラバースしていく。木六山にそのまま登る道もある。道型は雪の影響で崩れ、所々雪渓に隠されており、かなり時間を食う。赤花沢の源頭、赤花尾根の手前で稜線にはい上がる。残念ながら雪庇は落ちていたが、かすかな踏み跡を利用して七郎平山(906m)へ向かう。この登りは雪が多く、ピークをちょっと過ぎた凹地でサイト。夜は星空で川内平野の街灯りが美しかった。

五剣谷岳から矢筈岳 5月3日(晴れ) 願ってもない好天。川内山塊の核心部を思う存分に眺めながら歩けることにワクワクした。朝のうちは雪が固いのではかどる。雪が切れていても稜線上にはまだ道があるので楽である。主に中杉川側の雪庇を利用していく。銀次郎山の手前のピークに着くと、行く手に銀太郎山、五剣谷岳(1188m)が盛り上がっている。粟ガ岳は予想以上に残雪で白い。日本平山(1018m)が早出川の向こうにどっしりと構え、御神楽岳も根張りの大きい優美な姿を見せていた。それに飯豊連峰の白い連嶺がひときわ印象的だった。矢筈岳(1258m)は五剣谷岳の向こうでまだ見えない。ブロック雪崩の音もむしろのどかな感じを受けたし、カモシカや熊などの動物の足跡が春山ムードをもりたてた。

 銀太郎山の雪稜をのんびり下っていく。雪の段はグリセードで飛ばす。五剣谷岳への稜線づたいはヤブがうるさそうで、北西側にベットリついた雪の斜面を登って肩に出た。初めて見る矢筈岳に軽い感嘆の声を上げる(写真)。西の粟ガ岳も立派だが、矢筈岳はやはり川内の盟主にふさわしボリュームと風格があった。これから進む尾根の意外な距離感にはグッと疲れが出そう。1000m前後の山々なのに、この立派さはどうだ。進めば進むほど山だらけのこの奥深さ! ゴールデンウイークで他の山域は人だらけなのに、ここは私たちだけの貸し切りみたいなものだ。

 青里岳(1216m)の登りにさしかかる手前のコブはかなりのヤブになった。ヤセて露岩も多く、枝にぶらさがるように鞍部に下った。青里岳は東西に細長く、冬に吹雪かれたら迷いやすいだろう。矢筈岳はいよいよ大きな姿で迫ってきたが、その登りのきつそうなのにため息がでた。青里岳からは250mも高度を下げたあとの急登にバテバテとなって矢筈岳に着く。ゴミや赤布もない清楚な頂上だ。300m進んだ雪庇上に幕を張る。南側にウネウネ、コチャコチャと数え切れないほどの山々が重なり合っている。ツブが小さいくせに急な岩壁に囲まれて手強そうに見える。目指す中ノ又山(1070m)はどこだろうと探すのは容易ではない。貉ケ森山の優美な山容が手招きしているようだが、そう簡単には行かせないぞとそれらの山は言っているようだった。浅草岳、守門岳、越後三山方面のベットリと雪におおわれた山々がうらめしかった。

 5月4日(快晴後曇り) 昨日、太陽に日輪が出ていたにもかかわらず、また素晴しい快晴。炎天下のヤブコギを想像するとちょっと辛い。少しでも涼しいうちに少しでも距離を稼ごうと午前5時出発。雪の割れ目をうまくつなぎ、下矢筈岳(1241m)からスパっと切れた斜面を慎重に下る。小ピークを二つ越えると、次のピークは正面が岩峰となっていやらしそう。完全に岩盤の露出した鞍部から、正面の岩の左からヤブにぶら下がって登る。矢筈岳南面の沢の食い込みも素晴しいが、今早出沢から1241m峰の東に突き上げている枝沢は周囲に岩壁を張り巡らし、100m以上もある一条の大滝が落ち込む様は圧巻だ。

矢筈岳遠望 魚止山(1079m)への分岐を過ぎると、いよいよ本格的なヤブコギかと思ったが、やや広い尾根なので雪が利用できる。ところが、938m峰を越えた最提鞍部付近は手強いヤブこぎを強いられた。駒形山(1072m)分岐ピークまでは苦しい登りが続く。これから向かう中ノ又山への稜線だが、低い割には明瞭な尾根筋を目で追っていくと雪はなく、立派なヤブでおおわれていた。これから本当の苦しみが始まるのだと観念するものの、焼けつくような5月の太陽と抜けるような青い空がうらめしくなった(写真=矢筈岳遠望)

 992m峰を越えるとうまい具合に崩れかかった雪庇がブリッジとなっており、水がしたたり落ちている。炎熱地獄で水を飲みすぎ、各自のポリタンも底をついていたので補給する。915m峰の登りはリッジ状で雪が不安定にひっかかっている。右手に見える毛無山(1044m)の方が立派。この山塊は主稜線より枝尾根の山の方が高いことがあり、読図するにもちょっととまどうことがある。高坂さんのひざの調子が悪くなり、裏の山を下った尾根が直角に曲がるところの雪堤上に幕とする。まだ午後3時前なので、灰色のスラブが発達した山々に感心しながら、のんびりすごす。夜は雨となった。

 5月5日(雨後曇り) 雨具をつけてのヤブこぎでうっとおしいが、涼しいので昨日までの炎天よりはずっと楽だ。915m峰への尾根は下から見ると、二つの小ピークになったかなりの急なリッジとなっている。室谷川側はスッパリと切れ落ち、右手は急峻な雪渓が突き上げている。木の根、ヤブを頼りに登り始める。ガスの中でさほど高度感はない。上部は左側に回り込むように露岩を登り急な雪渓を詰めるとピークに出た。中ノ又山まではまだ数個のピークを越えねばならない。ブナ林を中なのでヤブは楽になる。左の急な尾根の岩棚に雪渓から駆け上がったカモシカが身動きもせず、ぼくたちをじっと見ていた。

 中ノ又山の東斜面は雪が多くなかなか感じのいい、今回のフィナーレにふさわしい山だ。ヤブのうるさい尾根上を避け、左をトラバースしていく。まだかまだかと緩い登りが尽きると頂上だった。「埼玉大wv、54.7.31」の赤布と、新潟峡彩山岳会の上村幹雄、佐藤一栄両氏の名刺がビニール袋に入れられ、三角点の上におかれていた。我々もガッチリと握手。

 下る尾根には二つのトレースが続いていた。このあたりは地形が複雑となり、尾根が入り組んでいる。神楽山付近から断続的に踏みあとがあり助かった。もろい岩峰を越え、五平小屋を過ぎると、県境尾根と別れる。940m峰からヤブをこいで下り、雪の斜面をグリセードで下ると左手に先ほどのトレースを見つける。岩峰状のピークが続いて時間を食う。明瞭となった山道となると足が軽くなった。862m峰から夏道沿いに下り林道に出た。

 5月6日(晴れ) 林道上に泊まった後、大谷川沿いに車道を笠堀へ。笠堀からダムが遠望され、逆光に輝く下田の山がその奥に見えた。

 【コースタイム】 (5/2)暮坪9:50 杉川発電所取水口見張り所11:35〜55 七太郎山16:25〜(5/3)4:50発 銀次郎山6:05 五剣谷山の肩8:35〜50 青里岳11:40〜50 矢筈岳15:40 矢筈岳東峰付近15:45〜(5/4)5:00発 駒形山の肩10:10〜50 992m峰11:55 裏の山13:40 裏の山を下った地点14:45〜(5/5)6:20発 915m峰8:35 中ノ又山11:20〜12:25 林道18:05 林道上18:10〜(5/6)7:00発  笠堀8:45


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