東北・神室山地禿岳ダイレクト尾根



1991.3.16〜17 佐々木、永瀬


 3月16日(曇り時々雪) パミール遠征のトレーニング山行である八ケ岳・旭岳東稜が中止になり、急きょ計画した。かねてから登りたかった禿岳(1232m)ダイレクト尾根は短いがきれいな雪稜だ。始発の新幹線に乗り遅れ、1時間遅れで永瀬氏と鳴子で合流。すぐバスに乗り禿岳登山口の原台で下車。11時50分、一本松キャンプ場へ向け歩き出すが、小雪がちらつき禿岳の姿は見えない。キャンプ場からも尾根末端が見えるのみ。火の沢堰堤の100m手前で沢を渡り、13時40分、ダイレクト尾根に取り付く。

 雪は結構締まっており、植林帯からすぐブナ林と変わる中をぐいぐい高度をかせいでいく。風もなく汗ばんでくる。1時間も登るとブナ林を抜け、ヤセ尾根となった。視界は数十mしか効かない。崩壊した雪庇の右下を通過するが、はまらないように注意する。尾根上に上がるとなかなかのリッジになっている。左下をトラバースしていくのだが、アイゼンをつけなくてもキックステップがよく効き、そのまま進む。20mくらい急登を潅木をつかんで慎重に登ると、今度はすごいナイフリッジとなった。馬乗りになるようなところもあり、両側はスッパリと切れ落ちている。晴れていたらさぞかし眺めがいいのだろうが…。

 いよいよ核心部で、次のピークは左の支稜上に雪庇が乗っかっており、切れ落ちてはいるが潅木のついた右側から越える。不安定な足場にヒヤヒヤしながら回りこんで、稜上の枯れ木頼りにリッジに上がる。ザイルが欲しいところだった。ここが核心部だろうとホッとする。アイゼンもザイルも必要無かったなんて思ったのが大間違いだった。

 ヤセ尾根から一転、70度くらいの雪壁となる。慎重にステップを切って登り、あと3mほどで乗っこせるという時、後ろの永瀬氏がアッと叫ぶや、あおむけに頭から落ちていき、不動沢側に消えて見えなくなってしまった。あっ、やってしまったとがく然とする。「永瀬さ〜ん」と2回叫んだら、かなり下から応答があったので、とりあえず4m下の潅木まで必死に下り、セルフビレーしてザイルを下ろす。姿が見えたときは安堵した。50〜60mほど落ちたそうだが、ケガひとつしなかった。今度はザイルをつけ、ダブルアックスで気合いを入れて乗っこす。ザイルなしだったら、自分が落ちたかもしれなかった。滝の直登でもそうだが、ザイルなしで行っちゃえ行っちゃえとやるのは厳に戒めねば、と大反省。ぼくは人一倍、気が小さいんだから。

 尾根は一旦緩くなって再び急になるが、稜線は近そうだ。18時20分、時間切れで稜線下30mの斜面をならしてツエルトを張る。夜半、風が強まり雪が吹き込で寒いし、おまけに花粉症で鼻がつまり、午前3時ころまで眠れなかったのにはまいった。永瀬氏は横になって30秒でいびきをかいていた。強さに脱帽。

 3月17日(曇り時々雪) 稜線に上がり、ガスの中を禿岳頂上へ。中峰尾根下降点に着く頃には晴れてきた。ザイルをつけ雪庇が一番小さい部分からおりる。中峰尾根上部は積雪次第で雪崩の心配もある斜面だ。原台への道から振り返るとほんの少しだが、禿岳の姿が見え、すぐガスに消えた。

 【コースタイム】 (3/16) 原台11:50 ダイレクト尾根取付13:40 700m地点14:20〜30 稜線直下18:20〜(3/17)6:35発 禿岳7:00〜05 中峰尾根下降点7:55 原台10:00



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