東北・神室連峰・八森山〜火打岳〜小又山〜神室山


1976.3.23〜27 佐々木、高橋、渡辺、高山

 3月23日(雪のち曇り) 19日以来の冬型気圧配置の影響で雪が降り続いている。晴れていれば大堀からは、八森山(1097m)〜小又山(1367m)の主稜線が見えるはずだが、平野部でも一面の雪で、真冬に逆戻りしたようだ。未明の雪道を歩き続け、八森山登山口からワカンをつけ登り始める。膝くらいのラッセルでどんどん高度を稼ぐ。荒倉沢源頭を中心に稜線がかすかに見え る。やせた部分を過ぎ、ブナの原生林となると稜線も近い。主稜線に出るためには巨大な雪庇を乗り越す必要があるが、その張り出しのすごさに皆あ然とする。二重三重に張り出し、基部から5〜6mも高さがある。雪庇に沿って40mほど左にトラバースして高さ3mほどの場所を見つけ、アイゼンにはきかえて空身で乗っ越す。ザックはザイルで引き上げた。稜線は風が強く、体感温度がぐっと下がる。八森山手前の標高880m付近の荒倉沢側に雪洞を掘る。

荒れる火打岳 3月24日(雪ときどき晴れ) 出発時は吹雪いていたが、八森山に着く頃に青空がのぞき始めた。火打岳(1238m)方面はガスに包まれたままだ。ブレイカブルクラストしており、時々足をとられる以外、アイゼンが快適に効く。横殴りの強風で左ほほの感覚がなくなる。ダラダラの幅広い稜線が急にヤセ尾根に変わり刀刃沢の頭へと続いている。両側とも切れ落ち、雪庇が上に張り出している。刀刃とはよく言ったものだ。左側を巻くように通過。槍ガ先まで二重稜線となっており、ガスの中を方向を慎重に確認して進む。ヤセ尾根から開放され、ガスの合間から振り返る刀刃沢の落込みがすばらしい。1130m峰からは火打岳が見えてきた。たいした疲労感はないが、火打の下りが心配なので、大尺山(1184m)で今日の行動を打ち切る。3時間近くかけて小荒沢側に豪勢な雪洞を掘り、快適な一夜を過ごす。夜は星空だった。【写真=3日目、強風のなかを火打岳へ向かう】

 3月25日(雪時々曇り) 起きてみると視界が悪く、風雪である。ガスが切れるのを待って午前7時に出発。アイゼンを快適に利かせて火打岳に向かう。頂上に着くと視界がまた悪くなる。風も強くよろけそうになる。下りはかなり急で大横川側は要注意だ。渡辺がスリップしたが事なきをえた。最後はナイフリッジになっており、慎重にザイルを出した。典型的な非対照山稜なので左側の樹林帯を行く。下手に雪庇に近付くと落ち込む。特に1107mを過ぎたあたりがやせていやらしい。連峰の最高峰・小又山は快適に登る。振り返ると火打岳がパイフェンを上げて勇々しい。起伏が少ない天狗森(1302m)にはあっさり立つ。目ざす神室山(1365m)が乳白色の巨大な山体を見せている。重量感があり、さすがに盟主の貫禄がある。県境稜線直下の急登はつらい。神室の肩に着くと、それまでの雪が止み、落日の太陽が山頂を照らし出した。逆光神室小屋から小又岳に浮かび上がった真っ白なピークはまさに神室の名にふさわしかった。残念ながら虎毛山方面はガスで展望が得られない。ピークから台山尾根を50mほど下ったところに小屋があった。二階建ての立派な造りで、一階は雪に埋もれており、南側2階の窓から出入りする。神室山頂を踏んだ喜びをしみじみ味わいつつ夜を過ごす。星空でかなり冷え込み眠れなかった。

 3月26日(晴れ時々曇り) 相変わらずの強風だが、高曇りで視界が良い(写真=避難小屋前から小又山遠望)。鳥海山や月山が初めて見えた。台山尾根は幅広い真っ白な雪稜で実に快適。左手に歩いてきた主稜線を眺め、右に鳥海山を望みつつ辿る足取りは軽い。1058m峰から土内川の雷滝手前にのびる急な尾根を下る。この尾根の上部から見る火打岳は、とても1200m級の山とは思えない勇姿だ。途中、陽射しが強くなってアイゼンが団子になり、土内川におりる手前ではずす。今年は雪不足のため沢身がでており、右岸ぞいをトラバースしていくがなかなかいやらしい。雷滝を巻いても遅々として進まないのにしびれを切らし、思い切って沢身に入る。雷滝の下流1キロの屈曲点が廊下になって滝が現れ、再び沢から上がる。今日中に下山できると思っていたのにとんだ失敗をやらかした。1.5キロ進むのに4時間もかかった。時刻も午後5時を過ぎたので、ビバークとなる。食料は予備も含めて昨夜に平らげてしまったので、飯に塩をかけて食うというみじめさだった。最後まで何があるかわからないものだ。予備の食料はとっておくべきことを痛感。下半身はずぶぬれで辛い一夜となってしまった。台山尾根を台山(1078m)まで進めば楽勝だったものを…。夏道どおりに下ったのは計画段階のミスでもあった。

 3月27日(雨のち曇り) 眠れなかったが、今日こそ下山と張り切って出発。人里はもう目と鼻の先なのだ。夏道をはずさないように進む。イボア沢出合からは車も通れる道幅だが、深い雪に埋まったまま。雪崩のデブリで欠壊している部分もある。国定公園の標柱と案内板があるところまで来ると、両側はパッと開けようやく人里が近くなったことを知る。最近できたらしいつり橋を左に眺め、伐採の音やらブルドーザーの音を耳にしたとき、下山できた安堵感が沸き上がってきた。口々に驚きあきれたという言葉をかける山里の人々を尻目に、バス停のある仁田山までがんばった。その日の新聞を見ると、山はずっと荒れ模様が続き、各地で遭難が起きていたことを知った。

 
【コースタイム】 (3/23)大堀6:15 八森山登山口8:42〜9:15 稜線14:40〜45 880m地点15:15〜(3/24)6:25発 八森山7:05〜20 槍ガ先10:50 大尺山12:40〜(3/25)7:00発 火打岳7:38〜55 小又山13:30 天狗森14:50 神室山17:05〜20 神室小屋17:25〜(3/26)7:55発 雷滝13:15〜25 雷滝下流1.5キロ地点17:30〜(3/27)7:23発 イボア沢出合8:20〜35 土内10:20 仁田山11:05


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