東北・虎毛山塊・間ノ岳〜虎毛山〜須金岳



1976.4.18〜19 佐々木(単独)

 【1232m付近から見る万滝(左下)と虎毛のドーム】
万滝 4月18日(晴れ) 鳴子から乗ったバスを田野原で降り、国道108号を歩く。左手には禿岳が大きく美しい。穏やかな春の日和で、うららかな気分。農作業に精を出している人々も、どことなくのんびりとしている。須金岳が豊かな残雪をまとい、たおやかな稜線をのばしている。好ましいアプローチを1時間ほど歩いて大森平に着いた。間ノ岳登山口には最近設置したらしく、案内板や標識があった。

 山腹を横切る山道から仙北沢に下ると対岸の道に移る橋がある。急登から一息で尾根に上がり緩やかな登りと変わる。このあたりはスギ、ネズコの自生地である。700m付近からは一面の雪で、スパッツをつける。再び急な登りとなる。水沢森には小雪庇を乗っ越して到着。狭くなった尾根には雪庇が張り出し、夏道も出かかっている所もあるが、少々歩きづらい。最後の急登にあえいでいると突然、とてつもなく広い間ノ岳の一角に着く。そこは山頂とは思えないほど広く平たんであった。

広大な斜面 残念ながら虎毛山はまだ見ることができない。1238m峰の後ろに隠れているのだ。風が冷たく、虎毛へ向かって急ぐことにする。間ノ岳から虎毛山へは夏道があるわけではなく、1日行程のヤブこぎだ。この時期が最高で、豊富な残雪の上を自由に歩ける。1238mを越えてみると、驚いたようながっかりしたような、だだっ広い丘がただ緩やかに盛り上がっているのみで、ピークなどどこにあるか分からないほどだ。右側の方からゴーゴーという音を聞き、万滝だなと直感で分かった。緩い起伏をさらに進み、県境ジャンクション手前のピークに至る。ここから青い屋根の山頂小屋がはるかに望まれ、意外な近さにうれしくなった。西に神室連峰の銀屏風が美しく、逆光に映える。

虎毛山頂 小屋の裏手から回ってみるとドアが吹き倒され、吹き込んだ雪が1mも積もったままだった。ピークからの眺めはさすがにすばらしい。北に高松岳、東に向かって焼石、栗駒、西側はと見ると出羽富士の名がぴったりの鳥海山、そして神室連峰、南は禿岳、はるかに月山、葉山など、東北の名山が一望のもとだった。特に目を引いたのは虎毛山の衛兵のように立つ、北側の前森山である。1189mながら、鋭く尖ったピークは登ってみたい意欲にかられる。小屋ではシートを敷いても雪の冷たさがじかに伝わり、なかなか眠れなかった。

 4月19日(晴れ) 夜明けと共に出発。雲ひとつないすばらしい快晴となった。雪面は適度にクラストして、コンクリートの上を歩くように心地よい。昨日と同じルートを小躍りするように駆け下る。県境ジャンクションに着くと、神室連峰のモルゲンロートにしばし足を止めて見入る。須金岳からの虎毛山東面の展望が期待され、胸が高鳴る。姿は見せないが、カモシカの足跡がよく目につく。

虎毛東面 間ノ岳を通過したあたりで、それまでの単調で柔和な稜線が、すばらしい変化となって眼前に展開した。虎毛東面の600mの落ち込みは、荒々しいとまでは言えず、気品あるスロープとなっており、柔和な山容と溶け込んでいた。しかし、1237m峰の直下までくると喚声を上げざるをえなかった。万滝が全貌を現したのだ。優美な山容の一部をまるでこそぎとられたような万滝の景観は予想だにしなかった。

 須金岳の頂上にドッカリと腰を据えて見入っていると、この3月に登った鹿島槍について、深田久弥が「ああいう構図はどんな天才的な画家も思いつくまい」と、その美しさについて書いているのを思い出した。虎毛のこの眺めを見ていると、鹿島槍のような端正さはないが、複雑怪奇な前衛芸術をみているようだ。

 【コースタイム】 (4/18)田野原10:15 大森平11:15〜11:20 水沢森13:25 間ノ岳14:05〜20 虎毛山16:17〜(4/19)5:00発 1237m峰6:10〜50 須金岳7:10〜30 須金岳登山口8:55〜9:05 田野原11:03



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