上信越・魚野川本流〜小ゼン沢


1975.6.15〜17 佐々木、日比野、柿本、小野

 白砂川から帰った数日後、大きい沢に味をしめて今度は魚野川に出かけた。しかし、入渓するには時期的に早く、梅雨時の増水の怖さをまざまざと見せつけられてしまった。まさか泳ぐことになろうとはつゆ知らず、防水対策を怠ってラジオ、カメラを台無しにした。

 6月15日(曇り) 長野原から野反湖行のバスが今週から運行し始めた。日曜日とあって観光客でにぎわう野反湖をあとに、地蔵峠から白砂山への道と分かれ魚野川に下りる道に入る。横切る小沢にはまだ雪がつまっていた。西大倉山から急な大倉坂をかけ下る。分岐を左にとって沢に下り、千沢にしては大きいなと思いながら対岸に徒渉してヤブにとりつくがどうもおかしい。そのままヤブを漕いでいったら渋沢ダムに出てしまった。結局、千沢だと思って下りたのは魚野川本流だったと知り、さっきの分岐までダムを回って戻る。沢におりるのが早すぎたのだった。千沢を徒渉して小尾根を乗り越すように、さらに本流に沿って踏み後をたどっていくと桂ゼンの瀑布が対岸に見えた。桂カマチと呼ばれるところだ。その水勢には圧倒され、身のすくむ思いだ。少し先で沢におりワラジをつける。17時30分。

 季節柄、水量がとても多く流れは速い。流されたらと思うと恐ろしくなるほどの急流である。時刻も遅いので早くサイト地まで行かなくてはならないというあせりも感じた。右岸を進むと両岸が狭まってU字廊下の箱淵となるが、スタンスを探ろうとしたとたん足をとられ急流にもっていかれた。ちょうど段差のある淵で、二転三転とくるくると回されてなかなか水中から抜け出せない。息苦しくなったのでメチャクチャに泳いで気がついたときは対岸のテラスに這い上がっていた。あっけにとられている皆をすぐ戻らせ、一度は試みて止めた太い流木をまたがせて左岸に渡らせる。この大木がひっかかっていなかったら、ずっと下流にいかない限り対岸には渡れなかっただろう。

 廊下の巻き道を見つけ高巻き、再び沢床に下り左岸のやや高みをへつるが、今度はKが落ちて10mほど流されながらも浅瀬に泳ぎついた。皆、水の恐さを感じたらしくこれ以上の行動に危険を感じる。水面から1.5m上のへつりから下の砂地に下りるところではザックを投げ、空身で飛び降りる。自分のザックは軽いのでバウンドしてしまい、あやうく流されてしまうところだった。すぐ不動コイデの廊下となってまた巻き道にはいるが、その直前、Kが一枚岩でスリップして頬を打ちメガネを割る。すでに薄暗くなってきており、巻き道上のテラスでビバークとする。ちょうど19時。焚き火跡があり、釣り人の泊まり場所らしかった。

 この付近の本流は廊下状で急流をなし、徒渉、水際のへつりなど及びもつかない。カメラ、ラジオも使い物にならなくなったのはしょうがないが、両岸は高く山は深く心細くなる。6月中旬という時期の怖さをまず思い知る。皆、先行き不安からか口数も少ない。焚き火の炎がせめてもの安らぎであった。疲れた体に腹一杯メシを詰め込んで眠りにつく。びしょ濡れのままシュラフカバーだけではとても安眠できなかった。

 6月16日(晴れのち曇り) 4時に起きて空を見ると雲一つない快晴。雨など降っていようものなら、増水で身動きがとれなかっただろう。6時、巻き道からすぐ沢におり、身の切れるような冷たい徒渉で右岸に渡る。太股上までの深さだが、ともすればバランスを失いかける。浸食部を右岸のヤブを漕いで巻くとイタドリ河原となると、今までの暗さもどこへやら、のびのびとした気持ち良い流れとなる。何回となく徒渉を繰り返し、あるいはへつっていく。陽もまもなく沢まで届きそうだとなってきて、現金なもので気持ちも高揚する。7時20分、高沢出合。出合左岸を高巻いて先に下りて水流を見ているとき、「ラークッ!」の声で振り向くと頭大の石が30センチ横をかすめていった。全く沢中では油断すると何が起きるか知れたものではない。

 やがて本流の見せ場である大ゼン5mを迎えてその豊富な水量に驚く。川幅いっぱいに落ちるさまは見応えがある。これは左岸から巻く。さらに徒渉を繰り返し黒沢出合でゆっくり昼メシとする。10時10分。岩菅山の稜線が高く望まれる。このあたり陽をいっぱいに浴びて全くのんびりしたくなる所だ。白水沢手前の大釜は平常なら通過可能であろうが、いまは深すぎて容易に寄せ付けない。巻き道もなさそうで、思い切って全員泳いで突破する。さらに大岩がゴロゴロしてくると、この沢一番の滝場が始まる。魚止ゼン7mに始まって、カギトリゼン5m、イワスゲゼン3m3m、スリバチゼン、ヘリトリゼン2mと左岸を巻く。魚止ゼンは右壁を登れるとあるが、とても水量が多くて登れる代物でない。連続する一枚岩の大ナメ帯は深い原生林とあいまってなかなかの景観だ。

 奥ゼン沢を入れ、巨岩累々のところをからツバクロゼン5mを見る。目指す小ゼン沢も右岸から落ち込んでおり、水勢強いツバクロゼンを左岸から高巻いていったん本流に下り、さらに小ゼン沢の左岸側から尾根の末端を乗り越すと小ゼン沢のネジレの滝上部に抜ける。釣り師の仮小屋があった。少し進んで釣り師の泊場でサイト。15時10分。釣りを試みるも腕が悪く?あたりなし。大きな焚き火を囲んで夜を過ごす。

 6月17日(晴れのち曇り) 6時5分、今日も晴れわたり張り切って出発。すぐスノーブリッジがあり上を乗っ越す。六段の滝は右から取り付き、中段から左を巻き気味に越す。傾斜が増したあと平坦な流れになるが、通常は伏流となるあたりだろう。すぐスノーブリッジを四つ乗っ越したら流れも細くなった。平ナメの赤い岩床に変わると稜線は近い。忠実に詰めてササに覆われた稜線に出た。8時45分。尾根上の踏み跡は不明瞭な部分もあり、赤石山まで4時間かかる。大沼、四十八池を経て熊ノ湯には15時10分に着いた。今回は小ゼン沢を詰めあがったのだが、稜線に出てからの長さを考えると本流遡行でも時間的にはあまり変わらなかったのではないかと思われる。

 【コースタイム】 (6/15)野反湖12:30 地蔵峠13:00 北沢13:12〜25 西大倉の肩14:20 標識(千沢・魚野川水位計)14:55〜15:05 渋沢ダム16:20〜30 魚野川本流(桂カマチ先)17:20〜30 不動コイデ巻き道19:00〜(6/16)6:00発 高沢出合7:20〜35 黒沢出合10:00〜11:00 奥ゼン沢出合13:47 小ゼン沢出合14:20〜40 ネジレの滝上15:10〜(6/17)6:05発 稜線(オッタテ)8:45 ダン沢の頭10:07 湯沢の頭11:05 赤石山13:00〜10 熊ノ湯温泉15:10


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