南アルプス・三峰川兎台谷〜野呂川大仙丈沢下降


1980.12.29〜1981.1.2 永瀬、佐々木、山野辺

 当初は、三峰川兎台谷〜野呂川大仙丈沢〜藪沢〜アカヌケ沢という、いささか気の遠くなるような6泊7日の計画だった。しかし、年末の大雪のあとでラッセルに消耗し、後半部分は断念せざるを得なかった。兎台谷(とだいだに)遡行は獨標登高会の古い記録があるのみ。

 12月29日(曇りときどき晴れ) 中央線で高尾を過ぎると雪が現れ、山梨に入ると一面の雪、さらに上諏訪では1時間ほど電車がストップ。年末の大雪が続く中、冬の谷に入るのは不安でいっぱいだった。伊那市から早朝、タクシーで丸山谷の営林小屋まで入る。運転手は雪がどうのこうのとさんざんぐずね続けた。岳沢越へ向かう南沢沿いの道にはトレースがあった。最奥の営林小屋では、きのう岳沢を目指しながら引き返してきたという2人組が下山準備をしていた。ほかに東北からのパーティーも岳沢をあきらめて山をおりたそうだ。腰までのラッセルを強いられたという。

兎台谷大滝 トレースに従って急登にあえぐと、深い樹林に囲まれた岳沢越に着いた。ガスのため仙丈岳西面の荒々しい姿はよく見えない。三峰川へ向けて下ってみると、反対斜面でこんなにも違うものかと驚くほどの積雪量だ。雪に埋もれかかった三峰川は森閑と流れていた。雪は深く、木々に積もった綿帽子が幻想的だ。岳沢を目指したパーティーのトレースで岳沢出合へはすんなり到着。だが、ひとつ下流の兎台谷までは1kmもないのに2時間近くかかってしまった。雪を踏み抜いてオーバーシューズを濡らすやら、アイゼンを引っかけてオーバーズボンを裂いてしまうやらで初日から奮闘してしまった。出合着15時。

 12月30日(晴れ) 穏やかな晴天だがすごく寒い。凍ったオーバーシューズはバリバリだ。7時に出発し、15〜20分間隔でラッセルを交代していく。最初の滝は廊下状の奥に釜を従えて現れた。全面結氷はしておらず、右から慎重に越える。沢は明るく開け、右から枝沢がすばらしい氷瀑となって2本落ち込む。

 単調なラッセルのあと氷結した10m滝が出現。いよいよ滝場の連続らしい。ザイルをつけ永瀬トップで右からバンドを斜上して落ち口に抜ける。すぐ上の10mの氷瀑は簡単に越える。次の12mは下半分が雪に埋もれ傾斜はないが、上部が傾斜の強い凹角となっている。ここもザイルを使い山野辺トップで凹角を突っ張る形で上に抜けていく。見た目よりも難しい。

 最初の滝場は一段落したが今度は踏み抜きにも要注意だ。再び廊下になりおそらく雪の下は小滝と釜が連続しているのだろうが、雪をだましだまし通過する。左岸枝沢には50mもあろうかという氷瀑がかかる。傾斜も出てきて次の廊下手前で休んでいるとき、水を飲もうと滝に近づいた山野辺君の姿が突然消えた。踏み抜いて滝下に落ちたのだが、ずぶぬれになりながらも幸いケガはなかった。大岩のあるこの滝は、左から登って大岩に沿って回り込んで滝上に上がる。さらに廊下の中は雪のかぶった滝場で、釜にはまらぬようにラッセルしていくと傾斜は一層強くなり15m滝となる。氷は薄く水がシャーシャーと音を立てて流れている。永瀬氏は左から、山野辺、佐々木は右から取り付く。永瀬氏が苦労して登りザイルを下ろしてくれた。山野辺君が登ったあと、氷が割れ水が出てきて手袋がビショビショになってしまった。

 すぐ上にまた20m滝があり、シャワークライムさせられる。上部左の氷柱状を登るとき岩と氷が10センチも離れているのを見て肝を冷やす。さすがに疲れてきたので雪の廊下に入る手前の変形三俣にテントを張る。16時10分。水はポッカリ口を開けた沢身から楽に汲めた。どうやら核心部は抜けたようだ。

 12月31日(晴れ) 7時15分、今日こそは稜線へ抜けようと張り切って出発するが、まだどんな滝が現れるかと不安。すっぽりと埋もれた小廊下を踏み抜きに注意しながらラッセルしていく。上部の方は単調で滝もない様子。しかし二俣から左俣に入ると、奥に今までで一番大きい滝が完全結氷して眼前に立ちはだかった(上写真)

 滝下まで行ってみると予想以上に大きい。周囲は岩に囲まれ高巻きも時間がかかりそう。永瀬氏が空身で8mほど登ったところで打ち込んだピッケルが抜けて落下、アイゼンも引っかけずにフカフカ雪に軟着陸した。だいぶ難しそうとのことで、右岸の急斜面から大高巻きへと変更。途中、大滝を見下ろすとゆうに30mはある。小尾根の乗越からは100m前方に手強そうな滝が待ち受けていたが、稜線も間近で天気も良く気分は上々だ。

 小尾根からトラバースして滝下にたどりつく。10m程度とはいえ傾斜が強く、永瀬氏が試みたあと、山野辺君が左から取り付く。右上し落ち口へ抜けるところで苦戦。ようやく2本目のアイスハーケンをがっちり埋め込んで突破した。この間、15分以上も粘っていただろうか。セカンドで登り始めたら素直にピッケルが氷に食い込んでくれずにやはり苦労する。ラストの永瀬氏は落ち口のハーケンがどうしても回収できずあきらめて登ってきた。

 すでに源流の様相となり、ややクラストしてきた。正面には稜線直下の岩壁が迫り、本谷は左から5mほどの滝で合流し二俣となっている。本谷をこのまま進むと大崩壊壁に突き当たるので、右俣正面に見える壁の右尾根か、左手に食い込むルンゼを登ることにする。直下まで進むとルンゼは一直線に伸び雪も詰まって登りやすそうなので、こちらをルートとする。ルンゼ上部は急で岩・雪のミックスを慎重に登る。両側は岩が切り立ちなかなか高度感がある。

 ハイマツ帯に出ると本谷と大崩壊壁が見えるが、ちょっと登れそうになさそう。夕日を浴びながら小尾根を辿っていくとわずかで仙塩尾根に抜けた。日没寸前、タイミングの良さと登り切った充実感で握手を交わす。少し下った凹地にサイト。16時55分。ラジオを聴きながら夜更けまで起きて正月を迎えた。

 1月1日(晴れ) 北岳の肩から昇ったご来光を仰ぎ、のんびりと撤収して9時出発。心配された大仙丈沢の下降も雪崩の心配はなさそう。スキーで下ったら最高とも思えるカールが広がる。ここはカモシカの棲みからしく、数頭見かけた。ジグザグに進んだり、ある時は戻ってみたり、カモシカの相手を巻く逃げ方が足跡で人目でわかる。気温が上がり、重い雪にアイゼンがだんごなって疲れる。野呂川林道のラッセルはいやだなあと言い合っていたが、単独行のワカン跡が林道についていた。単調すぎる林道歩きの末、北沢峠手前の工事現場の飯場にやっかいになる。15時50分。水も台所に流れており、快適な夜を過ごす。

 1月2日(雪) 夜半から続いている吹雪の中を8時5分に出発。北沢峠まではラッセルとなる。テント村となり人の多い峠をすり抜け、しっかりした雪道を戸台に下った。12時55分着。

 【コースタイム】 (12/29)丸山谷営林小屋7:50 岳沢乗越12:15〜30 三峰川本流12:45〜55 兎台谷出合15:00〜(12/30)7:00発 最初の8m滝上8:20〜35 10m滝上10:25〜35 12m滝上11:50〜55 変形三俣16:10〜(12/31)7:15発 大滝下9:00〜45 高巻き小尾根上10:25〜11:00 10m滝上13:05〜30 上部二俣14:10〜25 稜線16:50 B.P16:55〜(1/1)9:00発 野呂川林道12:45 北沢橋14:40〜55 飯場15:50〜(1/2)8:05発 北沢峠9:30〜40 戸台河原10:35〜11:00 戸台12:55


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