和賀山塊・堀内沢マンダノ沢上天狗沢


1987.8.8〜11 佐々木保(単独)


 8月8日(晴れ) 前夜発急行列車を大曲で乗り換え、田沢湖線神代駅へ。駅でタクシーを呼んでもらう。堀内沢へ入ると言ったら、駅長も5、6年前にイワナ釣りで入渓したという。「いい沢だ」としきりに強調していた。前日まで相当の雨が降ったとのこと。玉川を渡る堀内沢林道は車が通れず下車する。流されたら助からん、などと駅長が脅かすほどでもなく、膝上の徒渉ですむ。

 東北北部はいまだ梅雨明けしておらず、見上げる青空も本物の夏空ではない。林道を1キロほど進むと堰堤がある。玉川本流に比べ堀内沢の水量が少なかったのは、ここからダムに導水しているためだった。本来の水量となった沢に下りて溯行開始。

蛇体淵 渓相は穏やかで淵や小滝の巻道もしっかりしている。ネジレ滝で出会うシャチアシ沢を過ぎると、はるかに和賀岳の稜線が望まれた。二俣となり、右は八滝沢、目ざす左俣はマンダノ沢と名を変える。右岸にキャンプ跡があり、ゴミが散乱している。例のごとく釣り人の仕業である。マンダノ沢はブナのうっそうと茂る中を快闊に流下する。左側に大岩のある二段二条の10m滝はかなり手前の小沢から大きく高巻く。対岸の壁は高い。滝の前後は落差のあるあるゴーロ滝群となっている。ちょうど赤谷川本谷のようだ。次の二条10m滝も登れず左を高巻く。豪快な15m滝を右側の樹林帯から高巻いたら、おとなしいゴーロに、そして突然サラサラと流れる小川のような河原が出現した。その奥が2m滝とたった蛇体淵(写真)だった。淵手前の右岸段丘に良い泊まり場があり、ツエルトを張る。焚き火を盛大にやっていたら小雨がパラツイてきた。

 8月9日(小雨のち曇り) 朝から小雨模様。いやらしそうに見えた蛇体淵は右からすんなり越え、続く10mも巻き終えてワラジをはく。岩のがっちりした小滝の連続となり楽しく登る。左右の斜面が開けてくると、目ざす上天狗沢が左から合流する。出合から見える6m滝は右を小さく巻く。直登なら水流右だがヌメっている。トヨ状の流れをツッパリで越すと、ナメが150mほども快適に続く。沢は屈曲しながら2〜8mの滝をかけるが、難なくやり過ごして高度を稼ぐ。途中、太陽が顔を出しかけたが、すぐにガスに隠れた。視界のあまりきかない中を1時間のヤブこぎで朝日岳(1376m)の草原帯に出た。咲き乱れる花々をいとおしむように踏み跡をたどり頂上に立つ。

 風が強い。視界が得られないのは残念だが、清楚な頂きに感慨無量。踏み跡を拾いながら大荒沢岳(1313m)にへ向かう。覚悟してはいたが、鞍部に近付くにつれハイマツに悩まされる。枝ぶりのいいやつには木登りを強いられた。ガスの切れ間に読図しながら進む。ヤブの背丈の高い鞍部付近から大きなウシアブにつきまとわれてしまう。ようやく縦走路に出て安堵。ホッとしたら、午前中に滑って痛めた左ヒザ内側の筋が痛みだし、急に辛くなってきた。今日の予定はヒョウタン池だというのに戦意喪失だ。根菅岳との最低鞍部付近の切り開きで幕とする。

 8月10日(晴れ) 梅雨が明けたらしい。強烈な日ざしの下の縦走となる。和賀岳が近付くにつれ、暑さでペースダウン。頂上ではトンボとハエの大群が歓迎してくれた。足の痛みがひかず、白岩岳までの縦走を断念、薬師岳経由で下山にかかる。登山口の小路又キャンプ場が快適そうなので、陽は高いが泊まることにした。

 夜7時前、食事後の満腹感でウトウトしていたら車が3台やってきた。暴走族かと思ってビックリしたが、女の子たちが何やらキャーキャー言いながら、ぼくのツエルトのそばに幕を張り始めた。夕方まではいなかった蚊が猛威をふるっているらしく、カユイ、カユイと大騒ぎだ。そのうちツエルトのサイドの張り綱にひっかかったヤツがいてムカッときた。そして、ついにメーンロープにもひっかけてポールを倒されてしまったので、「気をつけろ!倒れたじゃないか」と怒鳴ってしまった。リーダーらしき男が丁寧にあやまったが、悲劇が直後に起きる。仕方なく張り綱の補修をしに出たわずか10数秒の間に、なんと右手だけで17か所、顔にいたってはボコボコに変形するくらい刺されてしまったのだ。ツエルトの中にも10数匹入ってしまい、安眠は絶望となった。

 8月11日(晴れ) 寝不足とかゆみで怒り心頭だったが、彼女達、某女子高山岳部員のあどけない顔を見たら「ま、いいや」という気になって、悪夢のキャンプ場を後にした。

 【コースタイム】(8/8)玉川徒渉点8:20 朝日沢出合10:40〜11:00 マンダノ沢出合12:55 蛇体淵15:20〜(8/9)6:00発 上天狗沢出合7:15〜7:25 朝日岳11:00〜11:40 大荒沢岳14:00〜14:25 最低鞍部15:40〜(8/10)5:40発 ひょうたん池8:35〜50 和賀岳10:25〜11:00 薬師岳12:33〜50 小路又キャンプ場15:30〜(8/11)5:20発 北野7:50


HOMEへ1970年代の沢1980年代の沢1990年代の沢