大姥山の山姥伝説

 金時(金太郎)を育てたという大姥山の山姥伝説の中で猫又が登場する。猫又の大きさや姿などはわからず、神がかりな山姥を盛りたてるための材料となっているにすぎない。

 更級郡大岡村の聖山に猫又がいて付近の人を食ったり作物を荒らして困らせていた。これを退治するため八坂村の山姥様の夫が行ったが、逆に猫又に食われてしまった。そこで山姥様は女の身ながらこれを退治して夫の仇をとり、大姥山に居を構えて金時を育てたという。(参考:『北安曇郡郷土誌稿』長野県北安曇教育会、1979)

 大姥山には山姥が金時を育てたという「岩穴」や産湯に使った「産池」がある。中腹に建つ大姥神社は金時にあやかって子供の健やかな成長を祈る守護神を祀っている。

 大姥山のある八坂村には「化け猫退治」という伝説もある。「昔八坂村字野田の坂井左喜吾という人の家へは毎日夕方になると山猫が化けてはいった。そこで村中の者が集まって隅から隅までさがしてとうとう見つけて殺した。ところが左喜吾はその後病気になった。いくら薬をのんでも治らないので多分猫の祟りだろうといって、神主を頼んで拝んでもらったらだんだんよくなった」(『北安曇郡郷土誌稿』長野県北安曇教育会、1979)。山猫が何に化けたのか、村人に簡単に退治されるほど弱いものかなど、疑問の残る伝説である。化けることはできるが猫又ではなく、まだまだ妖力を持ち合わせていなかったのだろう。せめて、どこの山から下りてきた山猫なのかを知りたいものだ。