笠通山のキャシャ

 『遠野物語拾遺 113』によると、
 「綾織村から宮守村に越える路に小峠という処がある。その傍の笠の通という山にキャシャというものがいて、死人を掘り起こしてはどこかへ運んで行って喰うと伝えている。また、葬式の際に棺を襲うともいい、その記事が遠野古事記にも出ている。その恠物であろう。笠の通の付近で怪しい女の出て歩くのを見た人が、幾人もある。その女は前帯に赤い巾着を結び下げているということである。宮守村の某という老人、若い時にこの女と行き逢ったことがある。かねてから聞いていたように、巾着をつけた女であったから、生け捕って手柄にしようと思い、組打ちをして揉み合っているうちに手足が痺れて出して動かなくなり、ついに取り逃がしてしまったそうな。」
とある。

 キャシャとは葬式の際に棺を襲う妖怪で、猫が化けたものと伝えられている。棺の上に刃物を置く風習は、この猫の化け物から死体を守るためだといわれた。会津の志津倉山に棲んだというカシャも、同じく猫の化け物である。同類の妖怪「火車」の話は西日本に多いとされる。