弥次:いやー感動した!
喜多:その前に、ちょっと待てよ。
弥次:ん?
喜多:久しぶりだってのに、なんでモー娘。なんだ。
弥次:気にするな、気にするな。今やモー娘。はジャパニーズエンターテイメントの最先端だ。
喜多:単なるモーオタなんじゃないか。
弥次:違う、違う。
喜多:日本が世界に誇る高橋と言えば!
弥次:愛!
喜多:尚子だろ、日本が世界に誇るのはシドニー五輪マラソン金メダリストの高橋尚子だろ。
弥次:でも、『ミニモニ。じゃムービー お菓子な大冒険!』の高橋愛ちゃんは可愛かったぞ。
喜多:どうせ劇場内はそんなオタばっかりだろうよ。
弥次:ところがどっこい、劇場内は親子連ればかり。約1名、太って眼鏡でダサジャンを来た男がポップコーン両手に最前列に座っていたけど、『仔犬ダンの物語』になったらイビキかいて寝てた。
喜多:どうせ高橋愛ちゃんの子猫風コスチューム見に来たんだろ。
弥次:なんで、子猫風コスチュームを知ってんだよ。
喜多:気にするな、気にするな。そんなことより、大人が見ても耐えられるのか、この映画。
弥次:耐えられるどころの騒ぎじゃないぞ。まずCG撮影を中心に作られた『ミニモニ。じゃムービー お菓子な大冒険!』。これがよく出来てるのなんのって。
喜多:どうせ子供だましだろ。
弥次:監督は平成『ガメラ』シリーズの特技監督で特撮の流れを変えたと言われるヒグチしんじ(樋口真嗣)。現在の日本特撮界を代表するスタッフが集まっている。
喜多:スタッフは凄いんだ。
弥次:最高のスタッフに思う存分に腕を振るわせることができる、それは時代のアイコンでありながら中身が空虚なミニモニのいいところだよ。
喜多:ほめてんのか、それは。
弥次:ミニモニが経営するミニモニカフェに魔法の女王が現れて、ケーキの城を乗っ取っちゃうんだ。女王は甘いものが嫌いで、お菓子を次々と石に変えてゆく。ケーキを守ろうとするミニモニとケーキ大好き謎の少女高橋愛ちゃんの活躍はいかに。
喜多:バカバカしい。
弥次:そのバカバカしいストーリーを精密で美しいフルCGアニメーションで描くと、実写を超えた世界が現れるから不思議だねえ。おまえさん、映画版『銀河鉄道999』って見たことあるかい。
喜多:あるけど、それが何か。
弥次:ラスト間近に機械の星が崩壊し、その中を鉄郎とメーテルが逃げるじゃないか。
喜多:そうだっけ。
弥次:アルカディア号とクイーン・エメラルダスから砲撃があってな。
喜多:はっきり覚えてないけど、それがどうした。
弥次:魔法が解けてお菓子の城が崩れてゆく中をミニモニが脱出するんだけど、『999』より手に汗握ったぞ。
喜多:なんじゃそりゃ。
弥次:魔法の女王の声を元モー娘。の中澤裕子がやってるんだが、これが意外と上手くてな。エンドクレジットがでるまで気がつかなくて、上手い声優だなと思ってたんだ。
喜多:最近見ないな、中澤裕子。
弥次:だろ。でも声優として生き残れるぞ。
喜多:もう一本の方はどうなんだ。
弥次:『仔犬ダンの物語』は、目の見えない犬と転校生の少女をを中心に人々の愛情を描いた作品だ。監督は澤井信一郎。『野菊の墓』で松田聖子。『Wの悲劇』で薬師丸ひろ子。『早春物語』で原田知世を魅力的に描いた監督だ。
喜多:松田聖子は魅力的だったか? 女性アイドルを撮るのはお手の物なんだな。
弥次:ところがどっこい、モー娘。は、ほとんど物語には関係ない。
喜多:なんじゃそりゃ。
弥次:『仔犬ダンの物語』だから主人公は仔犬のダンなんだよ。犬と少女たちの物語にモー娘。のお姉さん方がちょこちょこ絡むんだよ。
喜多:スケジュールの都合か、演技力の問題か。
弥次:ひどいのになると通りすがりの女子中学生に扮した新垣里沙と小川麻琴。「目の見えない仔犬ね、かわいそう」というセリフだけ。モー娘。の映画だと思って見るとびっくりするぞ。
喜多:面白くないだろ、そんな映画。
弥次:ところがな、これを教育映画だと思ってみるとよく出来てるんだよ。昔、小学校の講堂で見ただろ、友達を大切にしようとか道徳的テーマの映画。
喜多:見た見た。「猫は生きている」とか「ぼく五歳」とか。
弥次:タイトル言っても誰も知らないぞ、きっと。
喜多:泣いたよな〜。
弥次:その教育映画にモー娘。がゲスト出演してると思えば腹も立たない。
喜多:いいのかそんなんで。
弥次:脇を固めるのは、主人公の少女の父親役で榎木孝明。その妻で離婚することになる母親に原田美枝子。
喜多:よく出たなあ、原田美枝子。
弥次:少女達が仔犬ダンを隠れて飼っていて、見つかって叱る団地の町内会長に柄本明。友情出演に杉田二郎。同じく友情出演でダンを飼うことに強硬に反対する団地の住人にばんばひろふみ。
喜多:モー娘。が友情出演じゃないのか。
弥次:最後まで反対するばんばひろふみに、主人公の少女が言うんだよ。「盲導犬は目の見えない人を助けるのに、目の見えない犬を人間が助けてはいけないの?」って。それを聞いてバンバンの目に涙…。
喜多:バカバカしい。
弥次:で、それを見ていた団地の住人の兵藤ゆきが。
喜多:兵藤ゆき!?
弥次:兵藤ゆきが「えー何、その子今なんて言ったの、聞こえなかったよ」と叫ぶんだ、わざとらしく。そしたら、町内会長の娘役のなっちが少女のセリフをもう一度大声で繰り返すんだよ。
喜多:無理矢理だなあ。
弥次:お前さんそう言うけど、今の世の中そこまで直球勝負に出るのって恥ずかしいぞ。クサイことはダサイ。真面目なことは面白くないって風潮じゃねえか。それを敢えて正面突破で正論を吐くことの勇気をオイラは讃えたいね。
喜多:一理はあるなあ。
弥次:そういう風にバンバンも改心したんだよ。ラストシーンで主人公の少女が離婚した父親と暮らすため街をバスで離れるんだよ。で、仔犬ダンを巡って仲良くなったクラスメート達が走るバスを追い掛けて「さようなら」って手を振るけど、そこにはモー娘。は一人もいないんだよ。あんだけ無理矢理物語に絡んでおきながら、最後ぐらい見送ってやれよ!
喜多:スケジュールが押してたんだろ。
弥次:その後に〈完〉と出たら、画面は変わってエンドタイトルのバックでモー娘。が唄う踊る。急にプロモビデオになってやんの。
喜多:最後に出しとかなきゃ観客が納得しないんじゃないの。
弥次:最後にモー娘。出しときゃ観客はどんな内容でも納得するんだろうな。
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