弥次:イヤー、黒いねえ。
喜多:ノリが?
弥次:観客の服装だよ。スーツだろ、Tシャツだろ、タンクトップだろ。基調はみーんな黒。
喜多:エーちゃん=黒ってイメージはあるもんなあ。
弥次:あと、怖いねえ。
喜多:エーちゃんが。
弥次:観客がこわもて。リーゼントだ、族だ、ゴールドのアクセサリーだ。
喜多:もちろん、E.YAZAWAタオルは。
弥次:必需品。でも、今回のライブは、アコースティックで観客もとまどってたみたい。タオル投げはご遠慮くださいというお達しがファンクラブ内では事前にあったそうだ。
喜多:オイラみたいなエーちゃん素人でも。「矢沢、ロックンロール、マイクスタンド、タオル投げ、ヨロシク」ってイメージが強いもんなぁ。
弥次:ところが、どっこい幕が上がると15人編成のストリングスをバックにアコギ、ウッドベース、キーボード、ドラム、プラス少年少女合唱団。
喜多:リーゼントたちは面食らったんじゃないか。
弥次:そうだろうな、「エーちゃん、ミュージカルかよ」という声が聞こえてきたもん。
喜多:素直な反応だなあ。
弥次:ライブが進んでも、みんな座席に座りっぱなし。というか立てない。「エーちゃん!サイコー!」って客席から声がかかるけど、なんか浮いてる。
喜多:サイコー!じゃないんだ。
弥次:サイコーだったよ、オイラには。矢沢永吉クラシックで過去の曲をアコースティックアレンジ聴かせてくれるんだけど、ジャズっぽいのやカントリー調やボサノバ、アカペラなんかもあって、オイラはすごく楽しめた。
喜多:他の観客は楽しんでないのか。
弥次:なんか乗り切れないカンジだった。
喜多:フラストレーション溜まったろうな。
弥次:その反動か、1曲の中でも歌のパートが終わると、自棄のような拍手。たとえどんな素敵なギターソロやサックスソロが奏でられてても、誰も聞こうとしない。「聞けよ、お前ら」って言いたくなっちゃったもんな。
喜多:エーちゃんとそのバックバンドのメンバーってカンジなんだな。
弥次:名うての、名前を聞いたことあるミュージシャンも何人かいたんだけどな。
喜多:みんなエーちゃんしか見てないんだ。
弥次:歌あとの拍手や、「エーチャン!」という声援を聞いてると、ライブというよりもリサイタルだな。「ひばりちゃん」亡き今、後を継ぐのは「エーちゃん」しかいないぞ。
喜多:越路吹雪リサイタルの正統な後継者。
弥次:ちょっとノリのイイ曲だと、すぐに観客は「エーちゃん!エーちゃん!エーちゃん!」コール。
喜多:揉み手しながら?
弥次:音楽聞きに来ると言うよりも、族が集会で騒ぎに来るカンジなんだろうな。
喜多:コエーよ〜。
弥次:女房が友人に、「昨日、亭主がエーちゃんのライブに行って…」と言ったら、その友人たちが一斉に「エーッ!」て引いたらしいぜ。
喜多:それぐらいあぶないイメージがあるんだなあ。
弥次:引いた後は、笑われたらしいぜ。
喜多:失礼だなあ。
弥次:けどな、エーちゃんはもしかすると日本で一番過小評価されているアーティストかもしれないと思うんだ。
喜多:あのエーちゃんが?
弥次:新しいことにチャレンジしていても、大多数のファンが着いて行けてないし、求めてもいないんじゃないかな。
喜多:永遠に「矢沢、ロックンロール、マイクスタンド、タオル投げ、ヨロシク」か?
弥次:セクシーで艶のある声。カリスマ性のあるステージアクション。様々なジャンルを、軽やかにパワフルに歌いこなす優れたアーティストで、ライブも楽しかったけど…。
喜多:…けど?
弥次:観客のノリにはついていけなかった。
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