弥次:アメリカ同時多発テロ事件以来、いろんなアーティストが犠牲者追悼のチャリティーをやってるよな。
喜多:年末ということもあって、チャリティーが花盛りだ。
弥次:マイケル・ジャクソンもやったろ。ポール・マッカートニーもやったろ。
喜多:ポールはイギリス人なのに熱心だな。
弥次:前々から思ってたけど、チャリティーをやるアーティストって、もちろん自分でも寄付してるんだよな。
喜多:そりゃしてるだろ。コンサートやアルバムの収益の一部を寄付とかよく言ってるじゃないか。
弥次:でも、その収益というのは我々消費者が出した金だろ。
喜多:そりゃそうかもしれんが、本来はアーティストの元に入るはずだった金だから、寄付してると言えるんじゃないか。
弥次:三方一両損じゃないけど、消費者も出すなら、アーティストも身銭を切ってもらわないと。
喜多:おめえさん、ひねくれすぎだぜ。
弥次:大金持ちが呼びかけるチャリティーってのは胡散臭くて。
喜多:普段、性善説とか言ってる割には、善意を信じちゃいねえのかい。
弥次:ポール・マッカートニーのチャリティ・コンサートも、マイケル・ジャクソンのも、たまたま新作の発売時期と重なったんだろうけど、自分たちのアルバムのプロモーションも兼ねてんじゃねいか。それに、報復賛成と言ってるような気がしてな。
喜多:考えすぎだって。
弥次:ポールがチャリティーコンサートのために作った「FREEDOM」は、自由のために闘おうという内容だぞ。
喜多:まあ、ポールはあのN.Yの惨劇を目の当たりに見たらしいからな。
弥次:ニール・ヤングまでが、ジョン・レノンの「IMAGINE」を歌ったなんて聞くと、あまりにもストレート過ぎて引いちまうぞ。第一、犠牲者追悼で「♪想像してご覧。天国なんかないって」てのは間違ってないか?
喜多:まあな、犠牲者追悼を故意に報復と混同して報道しているきらいはあるよな。
弥次:そんな中でのボブ・ディランの新譜だ。テロ事件の翌日発売なのに、まったくと言っていいほど、ディランはチャリティーがらみには顔を出していない。
喜多:セリーヌ・ディオンのN.Y支援チャリティーアルバム「ゴッド・ブレス・アメリカ」には曲を提供しているじゃないか。
弥次:過去の曲、「風に吹かれて」を提供しただけだよ。オイラは、ディランの沈黙が気になって仕方ない。
喜多:コンサートでは、「風に吹かれて」や「戦争の親玉」など、メッセージ色の強い曲をリストに加えたらしいじゃないか。
弥次:ようするに、ディランは壊滅的被害を受けたN.Yには支援の気持ちはあるが、その後のアメリカによる報復には絶対反対という立場なんだよ。
喜多:またまた見てきたように言うなあ。
弥次:9/11以前も以後も同じようにネバー・エンディング・ツアーを続けているのが証拠だ。「テロでは何も変えることはできない。報復でも何も変わらない。戦争より音楽を」というメッセージだろ。
喜多:そこまで言ってるかね。
弥次:このアルバムをディラン自身は、「今までのどのアルバムにも似ていない。強いて言うなら、グレイテスト・ヒッツ・アルバムみたいな感覚だ」と語ってる。ブルース、フォーク、ロック、カントリーさまざまなテイストの曲がびっしり詰まったボブ・ディランワールドだ。どんなテイストを持つ曲でも、ディランが歌えばやっぱりディラン節なんだよ。
喜多:急にまとめに入ったな。
弥次:時代が変わろうが、風が吹こうが、本質は何も変わらない。ディランも何も変わらない。力では何も変えることはできないんだよ。
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