弥次:佐野元春のライブへ行くと言うと、必ず「あのSOMEDAYの」とか「まだやってたんだ」とか、ネガティブな反応が返ってくるんだよな。
喜多:ヒットチャートには全然出てこないからな。
弥次:確かに年々CDの売り上げは下降線。全公演ソールドアウトということもない。ほぼ同時期にデビューしたサザンオールスターズの桑田佳祐が、オリコン1位やラジオの公開放送に1万人も集めたという話を聞くと差を感じるな。
喜多:どこが違うんだろう?
弥次:道化になれるかなれないかだろう。先日のラジオの公開放送で桑田佳祐は浴衣にハゲカツラで登場したじゃないか。元春は絶対にやらないだろうな。
喜多:ちょっと見てみたい気はするが。
弥次:道化は他人を喜ばせるために存在する。時代のニーズに応える。元春も気取りを捨てて、もう少し道化になってもいいんじゃないかな。
喜多:お前さんのように熱心なファンは確実に存在するものの、矢沢永吉や忌野清志郎と比べてもマスコミへの露出ぶりは地味だよな。
弥次:でもな、現在の音楽シーンにおける元春の影響の大きさも認めないわけにはいかないと思うんだ。
喜多:例えば?
弥次:DRAGON ASHに代表されるヒッポホップシーンには15年前、日本語によるはじめてのラップアルバムVISITORSをリリースし、先鞭をつけた。日本ではじめてアーティスト主導によるプロモーションビデオを制作したのは元春。ホームページにもかなり早くから取り組み、そのコンテンツの充実ぶりは後続のアーティストたちに影響を与えた。吉川晃司、尾崎豊、スガシカオ、GLAYのTAKUROなど、メジャーシーンで活躍するフォロワーたちを生み出す。また、ジャンルは違うが、とんねるずの石橋貴明、武豊、野茂英雄などへの影響力の高さも本人たちが語っている。しかし、マスコミへの露出、自らのメジャー化を極端に嫌うため、年々仙人化し、もはや「終わった」との評も甘んじて受けざるを得ない状況だな。
喜多:今回のライブEはCD発売のないものなんだろ。
弥次:新曲も未発表・制作中のものが1曲だけ。CDプロモーションのためではないライブだった。内容はMOTOクラシックスと呼べる数々の名曲を、時にはオリジナルに、時にはまったくの新曲のような大胆なアレンジで聞かせる。バックを努めるTHE
HOBO KING BANDは、ソロミュージシャンとしても、スタジオミュージシャンとしても、またプロデューサーとしても業界では良く知られる凄腕揃い。
喜多:藤井フミヤのTRUE
LOVEでのアコギ演奏が印象的なギタリスト佐橋佳幸は、通の間では絶大なる人気を誇るよな。
弥次:特に、今回のライブツアーからは、以前に佐野が組んでいたバンド、THE HEARTLANDに在籍していたドラムス古田たかしが参加。
喜多:ユニコーンや奥田民生のサポートもしてたな。
弥次:古田以前のドラムス、元レベッカの小田原豊が構えて溜めるリズムだったのと対照的に、前のめりに突っ込んでくる古田のリズムの方が、元春には合っている。躍動感があると思うよ。ゲスト参加のホーン、山本拓夫によるフルートの音色も心地よかったな。
喜多:まるでブルーコメッツだな。
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