MUSIC REVIEW 1

佐野元春 ROCK&SOUL REVIEW

THE HOBO KING BAND WITH THERE FRIENDS
2001年7月15日/愛知厚生年金会館/17:00開演

〈ツアー案内より〉
21世紀最初の夏。佐野元春とTHE HOBO KING BANDがロードに戻ってくる。元THE HEARTLANDの古田たかしが参加。ホーン・プレイヤー・山本拓夫と、Vo. メロディー・セクストンを加えたスペシャルな編成による全国ツアー。ニュー・アルバムのリリースを控えた極めて限定的なライブ・アピアランスだ。これまでの楽曲のほとんどがこのツアー用に練り直され、次作アルバムからの新曲!も披露される内容となっている。

 
政治家やめます。
あの、SOMEDAYの佐野元春のライブ。

弥次:佐野元春のライブへ行くと言うと、必ず「あのSOMEDAYの」とか「まだやってたんだ」とか、ネガティブな反応が返ってくるんだよな。
喜多:ヒットチャートには全然出てこないからな。
弥次:確かに年々CDの売り上げは下降線。全公演ソールドアウトということもない。ほぼ同時期にデビューしたサザンオールスターズ桑田佳祐が、オリコン1位やラジオの公開放送に1万人も集めたという話を聞くと差を感じるな。
喜多:どこが違うんだろう?
弥次:道化になれるかなれないかだろう。先日のラジオの公開放送で桑田佳祐は浴衣にハゲカツラで登場したじゃないか。元春は絶対にやらないだろうな。
喜多:ちょっと見てみたい気はするが。
弥次:道化は他人を喜ばせるために存在する。時代のニーズに応える。元春も気取りを捨てて、もう少し道化になってもいいんじゃないかな。
喜多:お前さんのように熱心なファンは確実に存在するものの、矢沢永吉忌野清志郎と比べてもマスコミへの露出ぶりは地味だよな。
弥次:でもな、現在の音楽シーンにおける元春の影響の大きさも認めないわけにはいかないと思うんだ。
喜多:例えば?
弥次:DRAGON ASHに代表されるヒッポホップシーンには15年前、日本語によるはじめてのラップアルバムVISITORSをリリースし、先鞭をつけた。日本ではじめてアーティスト主導によるプロモーションビデオを制作したのは元春。ホームページにもかなり早くから取り組み、そのコンテンツの充実ぶりは後続のアーティストたちに影響を与えた。吉川晃司尾崎豊スガシカオGLAYTAKUROなど、メジャーシーンで活躍するフォロワーたちを生み出す。また、ジャンルは違うが、とんねるず石橋貴明武豊野茂英雄などへの影響力の高さも本人たちが語っている。しかし、マスコミへの露出、自らのメジャー化を極端に嫌うため、年々仙人化し、もはや「終わった」との評も甘んじて受けざるを得ない状況だな。
喜多:今回のライブEはCD発売のないものなんだろ。
弥次:新曲も未発表・制作中のものが1曲だけ。CDプロモーションのためではないライブだった。内容はMOTOクラシックスと呼べる数々の名曲を、時にはオリジナルに、時にはまったくの新曲のような大胆なアレンジで聞かせる。バックを努めるTHE HOBO KING BANDは、ソロミュージシャンとしても、スタジオミュージシャンとしても、またプロデューサーとしても業界では良く知られる凄腕揃い。
喜多:藤井フミヤTRUE LOVEでのアコギ演奏が印象的なギタリスト佐橋佳幸は、通の間では絶大なる人気を誇るよな。

弥次:特に、今回のライブツアーからは、以前に佐野が組んでいたバンド、THE HEARTLANDに在籍していたドラムス古田たかしが参加。
喜多:ユニコーン奥田民生のサポートもしてたな。
弥次:古田以前のドラムス、元レベッカ小田原豊が構えて溜めるリズムだったのと対照的に、前のめりに突っ込んでくる古田のリズムの方が、元春には合っている。躍動感があると思うよ。ゲスト参加のホーン、山本拓夫によるフルートの音色も心地よかったな。
喜多:まるでブルーコメッツだな。

ポエトリーリーディングとはなにか?

ツアーグッズいろいろ

 

 

弥次:ここ何年かのツアーで必ず指摘されていた、声が出ないという問題は、キーを下げた新しいアレンジで歌うことで解消。
喜多:キーを下げると曲の印象が変わっちゃうだろ。
弥次:キー下げは、ホームページ上でもオリジナル重視のファンには評判が悪いよ。曲への違和感は確かに感じるけど、前回ツアーまでのように無理なファルセットを多用することがないから、オイラは安心して聞いていられたな。
喜多:ヘビースモーカーなのに煙草をやめたそうじゃないか。
弥次:流石に本人もやばいと思ったんだろ。ホント、ひどかったもん。今回は低音から高音まできれいに出ている。音域は狭いと思うんだけど、シャウトにも安定感がある。
喜多:そこまでファンに心配されるアーティストというのもどうかと思うけどな。
弥次:今回のライブツアーの目玉は、自ら実験と宣言したポエトリーリーディング。1950年代のアメリカでビート詩人たちにより始められた、このアートフォームをステージ上で披露した。
喜多:ポエトリーリーディングって大層な言い方だけど、詩の朗読だろ。
弥次:そんな風に言ったら身も蓋もないじゃないか。凄腕ミュージシャンの演奏をバックに、元春の声で詩が聴けるんだよ。
喜多:あばたもえくぼだな。
弥次:元春がポエトリーリーディング・カセットブック、エレクトリック・ガーデンを発表した1985年当時、その斬新さから驚きのみを持って迎えられたが、1999年あたりからポエトリーリーディングはユースカルチャーのひとつとしてクローズアップされている。この面でも元春の先進性は語れるよな。
喜多:早すぎた不幸だな。
弥次:コンサート前半は、この実験パートをクライマックスに、大人のためのソウルフルなロックンロールショーが繰り広げられた。バンドメンバーのソロをフューチャーし、音楽の楽しさを感じさせる内容だけど、リ・アレンジによってまったく変わってしまった曲にとまどうファンも多かっただろうな。
喜多:佐野元春のコンサートでは大胆なリ・アレンジというのも売りなんだろ。
弥次:コンセプトはおそらく、元春自身も大好きなTHE BANDをイメージしていると思う。ロックンロールが成熟している欧米では、アダルトなロックショーも多いだろうけど、ロックがいまだにティーンエイジのものである日本では希有なライブじゃないかな。
喜多:例えて言うと。
弥次:緊張感のあるリンゴスター&ヒズ・オールスターズ
喜多:それはイケテルのか?イケテナイのか?
弥次:元春のファンサイトでも、このリ・アレンジとソロ重視は賛否両論で、退屈だという意見もある。だけど、3時間立ちっぱなし、踊りっぱなし、歌いっぱなしについて行けないおじさん世代には、リラックスして聴けたけどな。

お約束の拳突き上げ観客ノリを斬る。

弥次:後半は、数々のヒット曲がほぼ原曲に忠実に演奏される。約束の橋So YoungHappy manSOMEDAYアンジェリーナ。会場は大盛り上がり。
喜多:しかし、20年前のヒット曲で大盛り上がりってのは、現役ミュージシャンとしてはまずいんじゃないか。
弥次:確かに一番新しいベスト10入りの曲、約束の橋でも1989年、今から12年前だもんな。
喜多:昔のヒット曲だけで食べてる歌手はいるよ。でも、絶大なる先進性と影響力を見せつけた佐野元春だもん。過去の遺産だけで食ってちゃダメだよ。
弥次:元春自身あるインタビューで、「第2、第3のSOMEDAYならいつでも作れる。でも、それはやりたくない」と言ってる。だけどファンとしては、できるんなら作ってよと思っちゃうんだけど。
喜多:言い訳、言い訳。
弥次:コンサートでも、観客の方は相変わらずの拳突き上げ状態なんだよ。SOMEDAYの歌詞のどこを読めば、元気に拳を突き上げられると言うんだ? アンジェリーナの「♪今夜も愛を探して」というフレーズをどう解釈すれば、ノリノリで拳を突き上げられるんだ? 今回は演奏されなかったけど、ガラスのジェネレーションをやれば、相も変わらず「♪ハローシティーライツ」のところで、チャッチャッチャッ3拍子が会場中にこだまするんだよ。元春=青春応援ロックという図式から離れられない人が多いんだよな。
喜多:みんな何かと一体になってつながっていたいんだよ。
弥次:ジャニーズ系やビジュアル系バンドのようにお約束のノリをするのは、元春ファンよ、もうやめにしないか。みんな一緒なんて、気持ち悪い風景だよ。ロックンロールとは、体制をうち破ることじゃないのか?
喜多:それこそ、古いよ。
弥次:それに、隣りの奴が振り上げた拳がオイラに当たるんだよ。
喜多:まあまあ、悪気はないんだから。
弥次:ヒップホップ、テクノという時代の流れにコミットした1999年秋のStones and Eggsツアーという良い意味でキレたライブはあったものの、近年の元春のライブツアーは声の出なさ、相変わらずの選曲でマンネリ化していたのは事実。2000年春の20周年記念20th Anniversary Tourはその最たるものだった。
喜多:デビュー20周年のお祭りなんだから、それはそれでいいんじゃないか。
弥次:でも、今回のRock& Soul Reviewでは、久々に上昇気流を感じた。大人のロックンロールに一筋の光明を見た。年末発売予定の次のアルバムでは、John LennonStarting Overで垣間見せてくれたような、成熟したロックンロールが聴けそうな予感がするよ。

01.7.20 (C)YAJIKITA NET
〈RETURN〉