BOOK REVIEW 4 

R.P.G. ロール・プレイング・ゲーム

宮部みゆき
集英社文庫/2001.8.25初版発行
本体価格¥476(税別)

〈作品紹介より〉
ネット上の疑似家族の「お父さん」が刺殺された。
その3日前に絞殺された女性と遺留品が共通している。(中略)
家族の絆とは、癒しなのか? 呪縛なのか?
舞台劇のように、時間と空間を限定した長編現代ミステリー。
宮部みゆきが初めて挑んだ文庫書き下ろし。

 
政治家やめます。
「R.P.G.」はオールスターゲーム。

弥次:オールスターゲームって見たかい?
喜多:野球? それともサッカー?
弥次:どっちでもかまわないけど。
喜多:野球は、ここ何年かはほとんど観てないな。
弥次:なぜだい?
喜多:そりゃおまえさん、あんまり面白くないからさ。
弥次:どうしてだい?
喜多:さてね。真剣勝負じゃないからだろう。
弥次:サッカーはどうだい。
喜多:観てるけど大して面白くないな。今年は少し面白かったけどな。
弥次:どうして、面白くないんだろうな。
喜多:そりゃおまえさん、真剣勝負じゃなくてお祭りだからだろ。野球のオールスターなんて第3戦まであって、テレビをつけたらたまたまやってて、「ああ、まだやってたんだ」って思ったぐらいだもんな。余計なゲストや演出過多も興ざめだな。
弥次:そんな感じなんだよ。
喜多:何が?
弥次:宮部みゆきの新刊「A.T.M」…

喜多:(すかさず)ムダボケ禁止!
弥次:すまん。「R.P.G.」。
喜多:「模倣犯」に便乗して売ろうとしてるね。よっ!集英社。
弥次:文庫書き下ろしの新作だそうだ。
喜多:その「A.R.B」と…
弥次:おまえさんまでボケてどうするんだ。
喜多:すまん。「R.P.G.」とオールスターゲームとどういう関係があるんだ?
弥次:ネタバレになるけど、過去の宮部作品の主要な登場人物が、この小説でも出てくるんだよ。
喜多:なーんだ、そういうことか。よくあることじゃないか。
弥次:よくある?
喜多:シャーロック・ホームズミス・マープル金田一耕助も、ミステリーなら同じ人物がいくつも事件を解決するぞ。
弥次:いやいや、名探偵シリーズとは違うだろ。
喜多:高村薫「マークスの山」から「照柿」「レディー・ジョーカー」にだって、名探偵じゃないけど合田刑事はずっと出てるぞ。出てくるたびに同一人物とは思えない描写が多くて、だんだんやおい系になるけどな。
弥次:ちょっと違うんだな。この「R.P.G.」では、過去にベストセラーになった「クロスファイア」と「模倣犯」に登場した主要人物が共演してるんだよ。
喜多:それでオールスターゲームか。
弥次:オールスターゲームって、ひとりひとりのスター選手は目立つけど、試合自体は大したことない気がしないか? 中には手を抜いてそうな選手だっているじゃないか。
喜多:まあな。
弥次:この小説も、読み始めると「おっ、こんな人が」「あっ、こんな人が」「おお、あの人の話題も」と、過去の小説のイメージがひろがって得した気分になるんだ。だけど、ちょっと待てよ、それは読者サービスの振りをした作者の怠慢なんじゃないかって気がする。
喜多:で、このオールスターゲームは凡戦だったのか?
弥次:うーん。期待ワクワクで見に行ったけど、肩すかしをくらった「マジンガーZ 対 ゲッターロボ」みたいな感じかな。
喜多:わかりにくい例えだなあ。

「アクロイド殺し」ってどういうこと?

宮部ワールドの数々

弥次:解説を清水義範が書いていて、それだけで独立したパスティーシュになっていて面白いんだけど。
喜多:パスティーシュってなんだ?
弥次:簡単に言えば、文体のパロディのこと。この「R.P.G.」自体が宮部みゆきのこれまでの小説のパスティーシュに思えるんだなあ。そこまで意識して清水
義範に解説を依頼したのなら、それは「模倣犯」ならぬ確信犯だな。
喜多:なんだ、結局誉めてるんじゃないか。
弥次:解説でも語られていて、オイラの読後感も一緒だけど、この小説はミステリー舞台劇のような感じなんだよ。
喜多:どんなところが?
弥次:ほぼ一幕もので、非常に限定された空間を舞台に演じられる演劇のような小説なんだな。近いところだと「刑事コロンボ」とか、それを意識した「古畑任三郎」みたいにな。
喜多:面白そうじゃないか。
弥次:面白いよ。宮部みゆきだもん。
喜多:面白いなら、もっとはっきり楽しそうに言えよ。
弥次:解説で清水義範が触れていて、オイラも読み終わって同じことを考えたが、アガサ・クリスティ「アクロイド殺し」のイメージがプンプンするんだよ。
喜多:と、言うと。
弥次:ミステリーマニアなら「アクロイド殺し」と言っただけで、「ああ、そういうことね」とわかると思う。著者本人も意識してやってるけど、ミステリーのルール違反を犯してるんだな、この小説は。
喜多:オイラにもわかるように言えよ。
弥次:うーん、ネタバレにならないように言うのは難しいんだけど、つまり、最後のどんでん返しが、なんじゃそりゃ!ってことになってるんだよ。
喜多:それは面白いのか?

ベストセラー記念のメモリアル小説。

弥次:まあ、百聞は一見にしかずで宮部みゆきファンなら十分楽しめるから、読んでも損はしないと思うよ。ただ、純粋にミステリーとしてみると、犯人が途中でバレバレだし、殺人の動機や手口も疑問符なんだけどね。
喜多:じゃあ、面白くないんじゃないか。
弥次:「模倣犯」の時にも思ったけど、宮部みゆきの作品は、出版社側はミステリーとして売ってるけど、著者自身はそんなつもりはないと思うんだな。時代批評と人間を描くということに主眼がおかれている気がする。
喜多:ミステリーという範疇には収まらないんだ。
弥次:もう〈文学〉といってもいいんじゃないかな。小説本編の最後にあたる294ページに、西条八十の詩が引用されているんだけど、読んだ時はドキッとしたな。この文学的なラストを書くために、それまでのお話があったという感じだった。
喜多:ラスト前までは293ページもの長〜い前振りか?
弥次:ところで、最近特にインターネットは犯罪の温床みたいなイメージってあるじゃないか。
喜多:ネオ麦茶とか?
弥次:ネットで知り合った男女の愛憎のもつれによる殺人とか、自殺薬の販売とかな。この「R.P.G.」ではそんな世界を舞台にしてるんだけど、もうひとつしっくり来てないんだよな。
喜多:ネット上で知り合った疑似家族が犯罪に巻き込まれるんだろ。
弥次:疑似家族という設定なら宮部みゆきには「理由」があったな。そうか、「模倣犯」「クロスファイア」に続いて「理由」もパスティーシュになっているんだ、きっと。
喜多:つまり、「Smac」みたいなものか。
弥次:なんだいそりゃ。
喜多:知らないのか? SMAPの新曲で結成10周年記念シングル、過去のSMAPの曲名や曲の一部が歌詞やサウンドに散りばめられているんだよ。
弥次:いわゆる、キャンディーズ「微笑みがえし」か。
喜多:ふるー。
弥次:そういう隠れキャラ的な遊びが、まだ気づかないけど、もっと隠れてるんじゃないかな。
喜多:だからこそ「「R.P.G. ロール・プレイング・ゲーム」というタイトルなんだな。
弥次:結局、今回は宮部みゆきの「模倣犯」ベストセラー記念のメモリアル小説というのが正直な感想かな。
喜多:それってイケてるのか? イケてないのか?
弥次:ほら、アイドルやスターの熱心なファンって、多少疑問符がついてもメモリアルグッズて思わず買っちゃうじゃないか。
喜多:あるある。LIVEなんか行くと「記念に」とか言いながら、後で使うにも捨てるにも困る恥ずかしいグッズ買っちゃうな。
弥次:永ちゃんのタオルとか、SMAPのうちわとか。そういう思い出の一つや二つはあるだろ。
喜多:ちなみにオイラは昔、飯島真理のミニコンサートへ行ってサインをもらったことがある。
弥次:それはイケてないだろ。まあ、「R.P.G.」は宮部ファンなら持っていたい、持っていて損はないという小説なんだろうな。

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