BOOK REVIEW 3

THE MASK CLUB

村上 龍
メディア・ファクトリー/2001.7.13初版発行
本体価格¥1,400(税別)

〈帯より〉
村上龍の新しいミステリー。案内人は「死者」
恋人を追って侵入したマンションの一室で殺された主人公の男。
犯人は? 殺しの理由は?
7人の女性たちの再生をかけた物語。

 
政治家やめます。
この本は本当にミステリーなのか?

弥次:しかし、これほど面白くない小説も珍しいぞ。
喜多:ミステリーらしいじゃないか。でも面白くないのか。
弥次:どうして村上 龍は面白くなくなっちゃったんだろう。
喜多:今や日本経済から教育問題まで幅広く取り組んでいらっしゃる先生様だから、小説には力を入れてないんだろ。
弥次:この小説は、1997年に有料のアダルトサイトtokyo DECADENCEで連載がスタートしたものだ。
喜多:アダルトかね。
弥次:そのサイトを見るための登録料がいくらかは知らないけど、金を払ってこんなものを読まされた日にゃ。
喜多:お前さんだって金を払って買ったんだろ、この本を。
弥次:だから、怒ってんだよ。エロサイトを見るのは、所詮エロが目的なんだから、小説なんてこの程度でいいんじゃないのと言わんばかりの出来だな。
喜多:tokyo DECADENCEとは、
どんなサイトなんだ。
弥次:知らない。今では閉鎖されちゃってるから。でも、純粋にエロを楽しみたい人には、セクシャルでもなんでもないぞ、この小説。まあ、何にエロを感じるかは各人の嗜好だから何とも言えないけどな。
喜多:どうして、村上龍はSMの話ばかり書くのだろう。
弥次:閉塞的なシステムである現代日本の中で開放的なのはSMだけとか、SMには何かを変えていく前向きな意識を感じるとか、いろいろ言っているけど、単に自分が好きなだけなんじゃないか。
喜多:好きこそものの上手なれだな。
弥次:店頭ポスターなど宣伝では、この本はミステリーと紹介されているけど、全然ミステリーじゃないぞ。誇大広告に騙されちゃだめだ!

主人公を殺したのは誰なのか?

龍氏イメージ

けして悪気があって
やってるんじゃ
ありません。

弥次:主人公は死者。付き合っていた女性の秘密を探るうち、知らずに7人の女性たちが繰り広げるSMパーティに潜入。見つかって殺される。自分を殺したのは誰か、それを探る主人公の死者。そんな書き出しではじまる。
喜多:けっこうミステリーしてるじゃないの。
弥次:殺される前の主人公は実にさえない奴で、もてなくて、SMパーティーの出席者であるひとりの女に振り回されてる。でも、殺されてからは妙に哲学的になったり、化学的な難しいことも知ってたりと、その落差に違和感。
喜多:あの世に行って、悟ったんだよ。
弥次:主人公である死者の独白のくだりは、科学や生物学の専門用語を並べて、小難しくして雰囲気を出そうとしてるけど、ちっとも面白くない。読み飛ばしちゃったよ。
喜多:人は死んで始めて心理を得る。
弥次:主人公の設定と言動が遊離しすぎてる。死者だから何でも知ってる、なんでもわかるというのは安易な設定。その癖、自分を殺した女が誰かわからないなんて、ご都合主義も甚だしい。
喜多:結局、主人公を殺したのは誰なんだ。
弥次:最後の最後に、一行だけ書かれてる。当初連載していた有料サイトが途中でこけて、雑誌のダ・ヴィンチに連載されるようになった関係か、後半は語り手が変わっちゃうんだよ。
喜多:主人公が変わるんだな。
弥次:SMパーティーを開いてる7人の女性のうちの一人に変わる。なんの必然性もなく、とにかく話を終わらせたかったかのようないい加減なストーリー展開だ。

帯を読めばすべてがわかる。

弥次:語り手が変わったあたりから、話は幼少時に受けた性的虐待が現在の自分に及ぼす影響について語られる。
喜多:殺人事件はどうなったんだ?
弥次:もう、どうでもよくなってきたらしい。7人の女性たちは、とあるフリースクールで知り合い、幼少時になんらかの性的虐待を受けていることが明かされる。性的虐待を受けた主人公たちがSMパーティーで自分たちのトラウマに向き合い、解放されようとする物語だそうだ。
喜多:性的虐待を受けた人はみんなSMに走るのか?
弥次:村上龍はAmazon.comでのTHE MASK CLUBに関するインタビューで、「トラウマが現在の行為を必ずしも決定しているわけではない、と最近思うようになったんですが…」て言ってるけど、これまではトラウマが現在の行為を規定していると思って書いてたんだな。
喜多:すべてはフロイト流の、何でも性に結びつける
悪しき心理学の影響だな。しかし、幼児虐待のニュースは最近多いよな。
弥次:今や小説より恐ろしい話が、毎日のように報道されている。性的虐待は、暴力的虐待以上に当事者が口を閉ざしてしまうことが多いから、ニュースでは取り上げられないけど、
事例は多いんじゃないかな。
喜多:で、殺人事件の方はどうなったんだ。
弥次:すっかり忘れ去られてる。アダルトサイトでの連載と雑誌連載との間があいているから、その間に方向性が変わったんだろ。後半はミステリーのミの字もなく、SMねーちゃんの告白小説になってる。
喜多:宣伝文句では、女性たちの再生を賭けた物語みたいな書き方されてるけど。
弥次:あの帯のコピーを書いた人は苦労したと思うよ。無理矢理ストーリーを要約して、内容を見事に伝えてくれてるもん。あの帯に書かれていることが、この本のすべてだな。
喜多:本文を読む必要がないじゃないか。
弥次:ミステリーはどこへ行ってしまったのか、そこがミステリーなんだよ、この本は。

01.7.27 (C)YAJIKITA NET
〈RETURN〉