カール・リヒター
Karl Richter
(1926 - 1981)


演奏補助者に指令を出すリヒター
    さて、今回取り上げるカール・リヒターは勿論ピアニストではない。優れたバッハ演奏で知られる指揮者である。しかしオルガン、チェンバロも非常に達者な人で、その演奏は今なお色あせることはない。 私にとってリヒターの数少ない鍵盤演奏の録音は数あるバッハの鍵盤作品の録音の中で最もよく聴くものである。下手なピアニストの演奏を聴くくらいならリヒターの演奏を聴いたほうが良いとすら考えている。それほどリヒターの演奏は説得力があり魅力的なのだ。かのグールドをして「最もユニークなバッハ演奏はドイツから生まれる」と言わしめたカール・リヒターの鍵盤奏者としての才能は底知れぬものがある。

 リヒターの最も有名な鍵盤演奏はアルヒーフで録音されたLP4巻からなるバッハのオルガン曲集であろう。有名な「トッカータとフーガニ短調」をはじめ正に名演ぞろいである。またデッカで録音された「パッサカリア」を含むモノラル録音も素晴らしい。

  チェンバロ演奏ではテルデックに残されたバッハの「6つのパルティータ」、アルヒーフに於ける「ゴールドベルグ変奏曲」等があげられる。またバッハの「ブ ランデンブルグ協奏曲」や「クラヴィア協奏曲」、ヘンデルの「オルガン協奏曲」でも卓抜した鍵盤演奏を聴く事が出来る。これらも実に優れた演奏である。し かし私はリヒターの演奏の録画を見て更に驚愕したのである。まず暗譜演奏であること。近年ピアニストですらバッハは楽譜を置いて演奏する事が珍しくないが リヒターは完全に暗譜である。しかも驚くべきはそのオルガン演奏であろう。両手、両足に加えオルガンのストップを替える演奏補助者にまで気を配っている。この驚くべき集中力、記憶力はおそるべきものであると思う。まさに「多声音楽」をこなすにはこれほどの能力を発揮しなくてはならないのではないかと感じたものである。

 

なんでも暗譜演奏
  リヒターの演奏の魅力はその明快さにある。どんなに演奏困難な場所であろうと装飾音の入り組んだ箇所であろうとその輪郭ははっきりとし、求心力を失わな い。ごまかしがないのである。勿論そのスタイルはオーケストラ、合唱にも生かされ合唱のドイツ語の語尾発音の指導まで行っている。その演奏は才能に加え徹 底した練習、鍛錬によるものなのであろう。
 リヒターの演奏は不思議と奇矯な天才性を感じさせない。グールドの演奏を「個性的」という人は多いが、リヒターの演奏を「個性的」「奇矯」と評する人は いないのではないだろうか。その僅か54年の生涯に残したバッハの作品、僅かながらヘンデル、グルック、モーツァルト、そしてブラームス、ブルックナーの 録音を聴くと今なお感動を覚える演奏である。オリジナル楽器が主流の現代に於いても規範となり得る演奏をモダン楽器、モダンチェンバロで成し得たリヒター はまさに「音楽家」とい呼ぶに相応しい人物であると言えよう。

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