アール・ワイルド
Wild Earl
(1915 - )
   以前神戸でピアノ関係の友人と飲んでいる時、話がマルク−アンドレ・アムランとアール・ワイルドに及んだ事があった。2人ともタイプの違うピアニストであるが共通したレパートリーがあり、なかなかその比較は興味深いのだが、私の友人が「ワイルドはピアノのゴッドファーザー、アムランはピアノのターミネーター」と評した。2人のピアニズムの違いはこの一言に尽きる。
 ワイルドは日本での評判は今ひとつであるがアメリカでは大ピアニストである。1915年生まれというまさに「20世紀のアメリカンピアニスト」であり、古典的作品から派手なショーピース、自作、編曲そしてアメリカの現代作品の演奏と手広いレパートリーを常に現役で弾き続けたところが人気の秘密であろう。歴代大統領の前で演奏したピアニストはホロヴィッツをはじめ何人かいるがワイルドは6人の大統領の前で演奏している。この記録は今のところ破られていないらしい。
 ワイルドの演奏は意外に保守的である。間の取り方やルバートなどで彼独特の洒落っ気を見せるが(ワイルドも例にもれずゲイである)全体の演奏は決して型破りのものではない。煌くような音色と緩やかな叙情。それがワイルドのピアノである。現代作品(といっても前衛作品ではない)を弾いても非常に説得力のある演奏をする。ガーシュインに始まりストラヴィンスキー、バーバー、メノッティ、コープランド等の作品は十分推薦盤として通用するものである(これらの作曲家もほとんどゲイ)。それはショパンやベートーヴェンでもいえることで奇を衒った演奏ではなく彼のセンスによるところが大きく全体としては保守的な演奏である。そしてワイルドの最大の魅力は彼自身による編曲作品であろう。その洒落っ気とピアノの技法を駆使した編曲はゲイの賜物であろう。
 19世紀大時代的なものではなく近代的な演奏、しかし聴衆を楽しませる技巧的、音楽的なものを失わない点がワイルドの魅力であり「ピアノのゴッドファーザー」というに相応しいピアニストである証しであろう。

 しかし本稿の半分はゲイが強調されすぎている。バースタインは「アメリカのクラシックはゲイが造った」と言ったが、どうなのであろうか(勿論バーンスタインもゲイ)。

 

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