ベルナール・リンガイセン(ランジェサン)
Bernard Ringeissen (1934 - ) |
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アール・ワイルド、レイモンド・レーヴェンタール。この手のピアニストは一般的に「大好き」か「知らない」に大別されるタイプの音楽家である。ベルナール・リンガイセンも例に漏れず局地的な知名度の高いピアニストである。しかしリンガイセンの録音は予想以上に多く、比較的有名な録音はアルカンの「長調練習曲集」であろうか。アビアートのソナタの録音などもあるがこの作曲家、私は存在自体知らなかった。かといって単なる珍曲マニアなのかというとそういう訳でもなくショパンやサン・サーンス作品集、ストラヴィンスキーのピアノ曲全集なども録音している。 ただ、演奏は妙である。一言で言えば「妙」という言葉に尽きる。例えばショパンのファンタジー。恐らくこの作品を実際に弾いた方が聴くとかなりおかしな演奏に聴こえるのではないだろうか。ストラヴィンスキーの「ペトリューシュカからの3章」。これも変だ。ポリーニの録音と比べるとまるで別の曲のようである。何がおかしいのか判らないが妙なのである。 |
恐らくそれはリンガイセンの音楽性というよりも真面目さによるものではないかと思われる。突然のディクレシェンドによる浮遊感はチェルカスキーもよく使う手だがリンガイセンの場合はそれを真面目に行っているのである。チェルカスキーのような相手を引っかけたいたずらっぽい笑いが見えてこないのである。あくまで真面目に妙な演奏をしているのである。ペトリューシュカの2楽章などは、ほとんど操り人形の糸が切れたような演奏である。これほど真面目におかしな演奏をした人はいないのではないだろうか? 一方で第14回ショパンコンクールの審査員に入っていたりブラジルでヴィラ=ロボスの録音により賞を受けたりと一般的知名度のわりにはまともな仕事もこなしている。不思議なピアニストである。 確かにリンガイセンの演奏は聴く前にある種の期待がある。どんな変な演奏をするのか、という期待である。しかしそこにはシフラの興奮もチェルカスキーのウィットもなく割合ドライな「妙」な演奏になっているのである。ご本人はきっと真面目な方なのだと想像する。あったことはないが。 |
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