ロジャー・ウッドワード
Roger Woodward
(1942 -)
    映画「シャイン」の中で主人公ヘルフゴットをオーストラリアのコンクールで抜いて優勝した男としてロジャー・ウッドワードの名前があがったことをご記憶の方も多いのではないだろうか?私が初めてウッドワードの録音を聴いたのは武満徹のアルバムだったかなんだったか記憶が曖昧なのだが、とにかくその第一印象は現代音楽のスペシャリストというものだった。クセナキスの「ミスト」を献呈されているし、武満主催の「ミュージック・トゥデイ」でも来日しているはずである。最近バラケのソナタを含む現代作品のボックスレコードを買って更にその感は強くなったのだが意外な作品も録音している。たとえばラフマニノフの「前奏曲集」。今回ウッドワードについて書くために久しぶりに聴いてみたのだがこれが意外にいい演奏だった。以前の印象では「なんかもたもた弾いてるなぁ」といったものだったが「もたもた」しているのではなくその演奏の立脚点がほかのピアニストと全然違うのである。ラフマニノフのヴィルトーゾ的なピアニズムを極力抑え、少し遅めのテンポで孤独なラフマニノフ像を描いている。選曲もあえて派手な作品を避けている。比較的派手な作品はOp.32-5、6ぐらいだろうか。
 さらにもう一枚、ベートーヴェン、リスト編曲「英雄」。この録音も聴き返してみるとなかなか面白かった。カツァリスのような曲芸的超絶技巧は現れないのだが、純粋なピアノ曲−あたかもベートーヴェンの新発見の「グランドソナタ」といった感じである。曲そのものを知っているからどうしてもオーケストラ原曲やカツァリスの演奏と比べてしまうのだが先も書いたようにそもそもウッドワードの立脚点はぜんぜん違うところにあるのである。この編曲作品に対してもあえてヴィルトーゾ的アプローチではなく極めて批評的な眼差しで演奏しているようである。このレコードの帯には3人の音楽家のコメント書かれている。参考までに紹介しておこう。
 「末梢を磨くことに細心な音楽家の多い中でウッドワードの巨きさはここでも際立っている」(武満徹)
 「オーケストラがピアノになった。私も弾いてみたいし、多勢の人に聴いてほしいレコードです」(神谷郁代)
 「ウッドワードは終始ベートーヴェンとは何かと問いかけ、そうすることにより現代における〈演奏〉の可能性をもさぐっているようにみえる」(尾高忠明)
 神谷女史のコメントはなんともピアニストらしいというかなんと言おうか…。
 

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