Archipel 4

作曲
演奏
 
アンドレ・ブークルシュリエフ
カトリーヌ・コラール(ピアノ)
 
  作曲家吉松隆氏だったと思うが、エッセイの中で「ゲンダイ音楽には沈黙系と絶叫系がある」と書かれていた。これはいわゆる前衛音楽に対する当てつけの意が込められているのであるが、本作ブークルシュリエフの「Archipel 4」は明らかに後者「絶叫系」ゲンダイ音楽である。

 ブークルシュリエフについてはあまり馴染みがないかもしれないがフランスでは有名な作曲家、評論家でパリ・エコール・ノルマルとエクス・アン・プロヴァンス大学で教鞭をとっていた人である。「Regard sur Chopin(邦訳「ショパンを解く!〜現代作曲家の熱きまなざし」)」や「Beethoven(邦訳「ベ−ト−ヴェン」)」等の著作がある。また、クルード・エルフェ、ジョルジュ・プリュデルマッシェール等によって演奏、録音されたこともありゲンダイ音楽ファンの間では名が知れている。1925年にブルガリアのソフィアに生まれ最初はピアニストを志しパリでギーゼキングに師事している。その後ダルムシュタットの夏期講習、ミラノの電子音楽スタジオと当時のヨーロッパ前衛音楽の中心地で活躍し、「偶然性の音楽」を積極的に取り入れた作品を発表する。1997年にフランスで没している。実際にブークルシュリエフの作品の演奏を見た人はそのショックは大きなもので、私はクロード・エルフェの弾く「Archipel」を聴いた事があるがとにかく唖然とするほどの迫力である。

 さて「Archipel 4」であるがかつてジョルジュ・プリュデルマッシェールの録音もあったのであるが、このLPの最大の特徴は1枚丸々が「Archipel 4」であると云うことであろう。作品はそんなに長いものではない。偶然性の音楽のため4つのバージョンが収録されているのである。聴いているだけではどのようなことになっているやらさっぱり判らないのであるが、弱音が共鳴しあう静謐な部分があり、嵐のような鍵盤全体を駆け抜ける超絶技巧部分があり、おそらく両腕での体当たりクラスターありと聴いていて退屈することはまずない作品である。とにかくこれでもかと現代音楽ピアノ奏法を詰め込んだ超絶技巧標本の様相をなす作品である。なお題名の「Archipel」は「群島」と云う意味である。詳しい経緯は不勉強で知らないが後年は「Anarchipel」と表記されている。これはおそらく「アナーキー」にかけたのではないだろうか。

 私はブークルシュリエフの作品の楽譜は「6 Etudes d'apres piranese」しか持っていないのでなんともいえないのだが、おそらくこんなものではないのだろうか(下図)。ちなみに写っているのはブークルシュリエフご本人である。

 なお「6 Etudes d'apres piranese」も「Archipel」に負けじ劣らぬ超絶技巧作品でクロード・エルフェの録音を聴きながら楽譜を見てもよくわからない事を言い添えておこう。

 ところで、本LPの演奏者カトリーヌ・コラールは1947年生まれ、93年に急逝したピアニストで通好みのピアノを弾く人である。ドビュッシーの「前奏曲集」が最後の録音となったが、メシアンコンクール優勝の実績もあり現代作品でも抜群の冴えを見せる。早世が惜しまれるピアニストである。

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