24 Preludes in Jazz Style

作曲・演奏
 
ニコライ・カプスチン(ピアノ)
 
  先ごろ(2004年11月)楽譜も出版され音源もオズボーン、ルデンコ、アムランといった名手によって演奏、録音されすっかりメジャーになった感の強いロシアのニコライ・カプスチンであるが今だその膨大な作品の全貌を捉える事は難しいようである。まず、彼の作品は非常に難しい。初期の傑作「8つの演奏会練習曲」が彼の作品のなかで最も簡単な部類に入るというくらいであるから、その作品の演奏の困難さは計り知れよう。カプスチンの作品は全て持っている訳ではないので断言は出来ないのだが、ソナタ1番から10番を見る限り、おそらく7、8番あたりを頂点として彼独特の複雑なピアノ書法が極められており以後テクスチュアは幾分軽くなっているように思われる。しかしこれは簡単になった、と云う訳ではなく複雑さを通り越した上での洗練であり、ある意味初期の作品よりも弾きにくい作品となっているのである。これを円熟と云うかどうかは別として、とにかくカプスチンと云う稀代のロシアピアニズムとジャズを結びつけた作曲家、ピアニストが今まで誰も到達し得なかった境地に至ったことだけは事実であろう。

 さて、今回紹介する「24の前奏曲」は比較的初期の作品であるが、前述の「8つの演奏会練習曲」とならんで最もとっつき易い作品である。初期のカプスチンの作品はビッグ・バンドのピアノ編曲の如き様相をなしているものが多い。「変奏曲」や「古典組曲」などを見るまでもなく「サウンド・オブ・ビック・バンド」というそのものズバリの作品さえある。以後、彼独特の多声的に複雑な書法へと進んでいくのであるが、見方によれば初期の作品の方が好きだという人がいてもおかしくない。このあたりの評価はこれから彼の作品の出版、演奏、録音を持たなければならないのであるが、少なくとも現在入手できる範囲の作品から考えると初期の作品の方が聴衆にはウケがいいのは事実であろう。この「24の前奏曲」も1988年に書かれた様々なジャズスタイルによる24の調による前奏曲集であるが、全曲通して聴いても抜粋で聴いても楽しめる作品である。

 全音から楽譜も出版され自演もCD化された本作であるが、演奏は極めて困難である。1番の豪快な鍵盤を縦横無尽に走るパッセージに始まるこの曲集はLPではA面1−12番、B面13−24に分かれており、片面はほとんど一気に録音されたようである。ここでのカプスチンの演奏はとにかく自作とはいえ凄まじいものがある。このあたりにカプスチンの作品が作曲家の手を離れない最大の原因があるのだが、まったく躊躇いのないはっきりとした打鍵、静かな曲での歌い回しなどは稀代のテクニシャン、アムランをもってしてもこれほどの効果をえられたであろうか。そこにはカプスチンの血と肉があり、作曲家=ピアニスト、カプスチンのテクニックと分かち難いものがある。勿論自身作曲家として「作品」を作曲していると明言している人物であるから、その作品がいかように解釈、演奏されても構わないのであるが、あまりに作曲家自身の演奏が素晴らしすぎるのである(本稿も「My favourite pianists」に書こうかと迷った)。これは聴くものにとっては嬉しいことであり、また作品の演奏の普及と云う点では残念なところでもあろう。いずれにせよ、カプスチンは演奏は引退を表明したそうである。ピアノソロ作品以外にもおそらく彼以外弾きこなせる事ができるかと云うべきピアノ協奏曲2番など残された作品は数多い。いずれせよゴドフスキの真価を引出したアムランの如く、カプスチンを弾きこなす人材が出てくる時代を持つしかないのだろうか?

 本作は「24の前奏曲」として他の小品とともにCD化されている。楽譜も全音から出版されたので是非一聴一読をお勧めする次第である。

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