KUZMIN encores...

演奏
 
クズミン(ピアノ)
 
  ロシア出身のよく指の動くにぃちゃん、クズミンによるアンコール集。珍曲ぞろいではないもののその選曲、技巧、音楽性どれをとってもピアノ好きには堪らないもので、合格点以上の楽しいアルバムである。煩雑を承知で曲目毎に感想を列挙してみよう。

 シュルツ=エヴラー「美しき青きドナウ」、最初の序奏をカットした演奏はヨゼフ・レヴィンへのオマージュか?極めてヴィルトーゾ性の高い演奏。この曲が最初に来ている事がこのアルバムの性格を象徴しているといえよう。
 スカルラッティ、ソナタからL286、L164。軽く速く明るく3拍子そろった軽快な演奏。クズミンの演奏は基本的に明快である。ロマン派以降の豪快な技巧もさることながらさらりと弾きこなされるスカルラッティの愛らしさはクズミンの魅力の一つである。
 シチェドリン「バッソ・オステヌート」「フモレスケ」「アルベニス風に」。ロシアの代表的作曲家シチェドリンから3曲。そのどれもがピアノを鳴らしきる豪快な箇所があり、特に「バッソ」の盛り上がりと迫力は凄い。
 ブゾーニ「ソナチネ6番 カルメンによる」、数多い同曲の録音中でも最もエンターテイメント性の高い演奏ではなかろうか。中間部の熱っぽい歌い回しなどクズミンの面目躍如たるところである。
 シューマン「トッカータ」。まさにクズミンの真骨頂、快速で飛ばす飛ばす、ピアノは鳴り切り、その闊達な指捌きを満喫できる。
 スクリャービン「練習曲」作品2−1、42−5、8−12「ソナタ4番」。練習曲の選曲は押さえるべきところを押さえた選曲。ホロヴィッツへの思いいれもあるのだろう、歌いまわしも十分でスクリャービンのこの3曲だけを聴くだけでもこのアルバムの価値はあるといえる。特に42−5はなかなかいい演奏。
 ドビュッシー「練習曲 オクターヴのための」「亜麻色の髪の乙女」「ミンストレル」。突然通俗名曲が挿入されるが、さすがはクズミン、小技を効かした演奏。ややあっさりとしているが「ミンストレル」はやりたい放題、とまでは言わなくても自由奔放な演奏。
 バラキレフ「イスラメイ」、ドビュッシーから一変、一気に爆裂系に持っていく。その闊達な指捌きもさることながら、一瞬の間の取り方、クレシェンド、アッチェレランドのかけ方などクズミンの真骨頂。コーダ直前のクレシェンド、一気呵成に弾ききるコーダはこの手の演奏の好きな人には堪らないだろう。
 モシュコフスキー「火花」これはホロヴィッツへのオマージュか?軽く速く明るいクズミンの明快なアプローチ。
 ローゼンタール「パピヨン」、このやたらと弾きにくい曲をさらりと弾ききっている。キラキラとした音色と変幻自在な表情、クズミンが単なる指のよく動くピアニストでないことはこの1曲からも窺い知れる。

 さて以上が「クズミン・アンコール」の全貌であるが、クズミンというピアニストの魅力満載の極めて密度の濃いアルバムである事が伝わっただろうか。クズミンの魅力は解説中にも書いたが軽く速く明るいキラキラとした音色と変幻自在な表情、時によっては、特にロシア物で見せる熱っぽい歌いまわしにある。

 現在このCDは入手困難であるらしい。私は一時6枚このアルバムを持っていたが、それで在庫がなくなった訳ではない。

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