悲愁物語

1967

監督

  鈴木清順
製作
  梶原一騎
藤岡 豊
川野泰彦
原案
  梶原一騎
脚本
  大和屋竺
出演
 

白木洋子
原田芳雄

岡田真澄
仲谷昇
江波杏子

 


 

 鈴木清順の映画は大きく3つの時期にわかれている。まず数々のプログラムピクチャーを独自の美学で撮りあげた日活時代。そして「殺しの烙印」によって日活を辞してから10年間のテレビ作品。そして「ツィゴイネルワイゼン」以降現在に至る第3期である。本作は第3期の頭を飾る作品であり且つ鈴木清順フィルモグラフィーの中で最も過激に破綻した問題作である。

 物語は前半、駆け出しプロゴルファー白木葉子がスターになるまでをコーチ原田芳雄とのスポ根ものとして描かれている。問題は後半である。近所の主婦に顔を覚えてもらえなかったと逆恨みされ転落していき、弟に殺されるラストには初めて見たときは唖然とさせられた。近所の主婦を演じる江波杏子の鬼気迫る演技、精神状態によって色の変わる爪、何の脈絡もなく野呂圭介が天井から吊り下げられるシーン、妙なメイクで暴れる原田芳雄などほとんどオカルト映画である。勿論興行は大失敗。10年ぶりの監督作にも関わらず1週間での打ち切りであった。実際、鈴木清順10年ぶりの新作に期待した日活時代からのファンも戸惑いを隠せない作品であった。

 しかし私のこの作品への評価は高い。まず「巨人の星」の梶原一騎と「殺しの烙印」の鈴木清順という有り得ない組み合わせ、これだけで満点といってもいい。そしてこの二人がぶつかってできるものが普通の作品であるはずがないのだ。誰も鈴木清順監督に真っ当なスポ根ドラマなど期待していないのである。そして、「ツィゴイネルワイゼン」「陽炎座」「夢二」で重要な役割を演じる原田芳雄と清順のはじめての顔合わせの作品というのも重要である。この二人を結び付けただけでも価値ある作品であるといえるであろう。なお、映画後半での原田芳雄の妙なメイクは清順監督に請われて原田芳雄本人が提案したものだそうである。とある大学での上映会での後「あのメイクの意味は?」という学生の質問に清順監督は「原田君が勝手にやったから原田君に聴いてください」と答えたそうである。

 ところで、この作品は松竹配給である。鈴木清順は松竹でもう一本、梶山李之原作、萩原健一、沢田研二、田中裕子による「カポネ大いに泣く」という本作に負けじ劣らぬ怪作を撮っている。こちらも必見の作であるには変わりない。

 


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