バッド・テイスト

Bad Taste
1967

監督・製作・脚本・撮影

  ピーター・ジャクソン
     
出演
  ピーター・ジャクソン
ピート・オハーン
マイク・ミネット
     


 

  2004年度アカデミー賞において「ロード・オブ・ザ・リング」が、11部門受賞。この作品を撮ったニュージーランドの鬼才ピーター・ジャクソンもすっかりメジャーな人になってしまった感がある。しかしテレビ等メディアでピーター・ジャクソンのプロフィールはよく語られるが、その作品は1本も放送されないし、レンタルビデオ店でもピーター・ジャクソンコーナーなど設けられていないのを不思議に思った向きがおられるのではないだろうか?その答えは案外単純である。彼の今までの作品はグロテスクでインモラルでB級テイスト全開の家族向きの作品ではないからである。しかしそこには彼の悪乗りといでもいえるサービス過剰さとアイデア、創意工夫、そして彼の才能が刻み込まれているのも事実である。

 彼の事実上のデビュー作「バッドテイスト」はおそらく彼のフィルモグラフィーの中で最も重要なものであるといえる。自主制作(おそらく無予算)でここまでやるというのは並大抵の努力では出来ない。監督自身2役をこなし、第1作目にしてサービス過剰全開である。物語は宇宙から人間狩りに来た宇宙人と人間との攻防であるがそんなことはどうでもいい。全編グロテスクな描写と悪乗りのお祭り騒ぎである。これはどう考えても一般作としてテレビ放送は出来ない。頭は弾け飛ぶはかなづちが頭を叩き割るは宇宙人の嘔吐した吐瀉物を食べるはやりたい放題である。挙句の果てはピーター・ジャクソン演じるデレクは崖から落ちて頭が割れて脳みそをこぼしながら走り回るという破天荒さである。ちなみに左の写真で脳みそを食っているのはピーター・ジャクソン監督自身(二役のうちの片方宇宙人役)である。

 こう書いてしまうと具にもつかないグロテスクホラーであるかと思われるかもしれないが本作が面白いのは事実である。スピード感のある編集と次から次へとまくし立てるような物語、意表をつく展開、到底自主制作の無予算映画だとは信じられない。邦盤DVDについている「グッド・テイスト〜メイド・バッド・テイスト」というメイキングを見ると数年にわたり友人たちと協力し仕事をしながら撮影を進めていった事が語られている。このメイキングは少々いい話に作られすぎのような気もしないではないがピーター・ジャクソン監督が10代のときに撮影したコマ撮りによる怪物のアニメーションなどをみると本当に才能のある人なのだと思う(彼はストップモーション・アニメーションのレイ・ハリーハウゼンの信望者でもある)。とにかく映画は金ではなく情熱である、ということを見る者に感じさせる作品である。

 




 

  この作品は今のところ監督唯一の出演作である(最近「ブレインデッド」を見ていて監督が出演しているのを確認した。やはりキれた葬儀屋の役であった)。二役のもう一人デレクは実に監督らしいキャラクターで私はすっかりファンになってしまった。一目見てそれとわかるマニアックな風采は天性のものだろう。事実映画内でも一番はじけているのは監督自身である。玉の切れた機関銃を「イェイイェイイェイイェイ」と叫びながら撃つフリをするシーンは笑いを禁じえないであろう。左写真は割れた頭をベルトで固定しての宇宙人との攻防戦の最中であるが、こんなシチュエーション自体、そうそう思いつくものではないだろう。

 最初にも書いたが結構過激なグロテスク描写ゆえに全ての人にお勧めできる作品ではないが、是非見ていただきたい作品ではある。

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