女の中にいる他人

1966

監督

  成瀬巳喜男
製作
  藤本真澄
金子正且
脚本
  井手俊郎
音楽
  林光
出演
 

小林桂樹
新珠三千代

三橋達也
若林映子
草笛光子

     
 

 成瀬巳喜男が晩年に撮った心理サスペンスの傑作。

 まず成瀬がミステリを映像化すると云うことに驚かされるが、更にベッドシーンにSM(といっても極めてソフトなものだが)、モノクロのネガの反転による映像といった実験的な演出など成瀬巳喜男と云う監督が生涯映画表現を模索した姿勢が伺える作品でもある。モノクロスタンダード画面に構成される緊張感あふれる心理劇そして新珠三千代の能面のように抑えに抑えた表情による母、妻、そして女を演じたわけた名演も素晴らしい。林光の音楽も忘れがたい印象を与える。

 小林桂樹と新珠三千代夫婦は小林の親友三橋達也、若林映子夫婦と家族ぐるみで親交があるが三橋の妻、若林が絞殺される事件が起こる。捜査は難航する中、小林は妻に若林との不倫、更にはSMごっこの果てに殺害してしまった事を告白する。小林が自首を決心した日新珠三千代は母としてそして女として小林に毒を盛る…。


 本作の最も不可解なキャラクターは小林桂樹であろう。不倫をし、その挙句快楽に身を委ね愛人を絞殺してしまう一見サディスティックな人物であるが全編を貫くのは後悔と懺悔である。これ故に本作は成瀬の「贖罪三部作」の一つとされるが、その態度はあまりに自己陶酔的である。小林は妻のみならず殺害した女の夫からも「許される」のであるが自首を決意する。それは良心の呵責とみれるだろうが、私にはマゾヒストのエゴイズムを感じる。彼にとって「許される」事よりも「罰せられる」事が重要なのである。

 先にも書いた新珠三千代の名演もさることながら殺害される若林映子の魅力も素晴らしい。煙草の火を小林桂樹に付けてももらう際に小林を見やるシーンは印象的である。ボンドガールの面目躍如たる所であろう。

 

film index

home