1959

監督

  市川崑
製作
  永田雅一
原作
  谷崎潤一郎
脚本
  市川崑 和田夏十 長谷部慶治
出演
 

京マチ子

仲代達矢

叶順子

中村鴈治郎

 

 谷崎潤一郎の同名小説を市川崑が脚色監督した文芸ドラマ。夫婦の日記を交互に並べる事によりその複雑な心理を描き出した谷崎の原作は作品そのものが実験的な作品であり、日記と日記の間に潜むエロティシズムは強烈な印象を与えるものである。これは文学にしか成し得ない効果であって映像化は作品の冒涜となる可能性が高い。この難しい素材を市川崑は宮川一夫という稀代のカメラマンを得て見事に映像化した。中村鴈治郎、京マチ子、仲代達矢、叶順子もまさに怪演と呼ぶに相応しい妖しい演技で監督に応えた。

 美術鑑定によりなんとか生活を支えている中村鴈治郎とその妻京マチ子。その一人娘叶順子は仲代達矢と結婚を前提に交際している。中村鴈治郎は経済的困窮に加え老いを強く意識するが妻を愛しその性生活が失われる事を恐れていた。「若さ」を取り戻すため妻と娘の婚約者を近づけるが…。

 登場人物4人は誰一人として共感出来ない程エゴイスティックでお互いを騙しあっている。特に夫婦と娘の関係は異常ですらある。
 仲代、叶コンビは他人事のように自らの欲望を満たしている。特にふてぶてしい中に母への嫉妬、欲望を秘めた難しい役を演じた叶順子は見事である。

 

 

 

 京マチ子は内心夫の事を嫌悪している。夫にはその事はおくびにも出さないが至るところで嫌悪を露わにする。夫の死に際して「死んだ…」と呟きクスリと笑うシーンは殊更印象的である。
 中村鴈治郎は「眼つき」で演技する。妻の身体を見る時の眼つきは好色であり欲深くそして崇拝の眼差しである。

 本作品は原作者谷崎潤一郎への市川崑からの挑戦状ではなかろうか。文字と云う媒体から生み出された観念的エロティシズムを映像によって再構築したのである。市川崑の自信と映像テクニック溢れる作品であろう。

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