しとやかな獣

1962

監督

  川島雄三
企画
  米田治 三熊将暉
原作
  新藤兼人
脚本
  新藤兼人
出演
 

若尾文子

伊藤雄之助
山岡久乃

船越英二
山茶花究
小沢昭一
ミヤコ蝶々

 

 

 川島雄三、若尾文子コンビによる最後の作品にして川島雄三最高傑作とも呼ばれる作品。ピカレスク・コメディの傑作としてのみならず舞台は団地の一室のみに限られ、構図、カメラワーク、池野成による邦楽音楽、出演者ともに川島雄三の映像美学の頂点ともいえる作品である。

 団地の一室を舞台に繰り広げられる恥知らずで欲深い俗物達の饗宴。新藤兼人による見事な科白の応酬とテンポの良い編集、構図、カメラワークの素晴らしさなど、まさに「映画的」としか言いようがない。

 伊藤雄之助と山岡久乃のしたたかな夫婦が圧巻。全編にわたりこの二人が本当の主人公ではないかと思われる程である。若尾文子は妖艶さとドライさとしたたかさで二人に対峙する。他の出演者も皆自己中心的で恥知らず、守銭奴と来ている。川島映画の常連山茶花究、小沢昭一にミヤコ蝶々と脇役陣も大暴走で面白いことこの上ない。最も気が弱く、優柔不断な役柄の船越英二ですらここではその性格ゆえ事態を悪化させ最も悪い方向へ物語を進行させてしまう。映画終盤、ベランダに立つ山岡久乃のその複雑な表情と冷たさはこの映画を締めくくりに相応しい名演である。

 

 

 

 ラストシーン遠方に突き放されたように雨の中にそびえる団地。その視点は冷たく、醒めている。「戦後」の物質的豊かさと精神的貧困を軽く笑い飛ばした川島雄三の黒い笑いは今見ても新鮮である

 この1年後川島雄三は急逝する。享年45歳、あまりに早い天才の死であった。

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