雁の寺

1962

監督

  川島雄三
製作
  永田雅一
原作
  水上勉
脚本
  新藤兼人
出演
 

若尾文子
三島雅夫
高見国一
木村功
中村鴈治郎

 

 

 川島雄三は晩年東宝に所属しながら大映で3本の映画を撮っている。1961年の「女は二度生まれる」、1962年「雁の寺」「しとやかな獣」。この3作に主演したのは当時29歳だった若尾文子である。この3作だけでも若尾文子の名は映画史に残ったであろう傑作である。

 「あたり外れ」のある監督というイメージの川島雄三であるが私は基本的に彼の作風、自らを昭和軽佻派と称した、が好きである。シリアスを廃し、軽く馬鹿馬鹿しくありながらどこか暗い影のある作品群は今なお一部の熱狂的ファンを魅了している。
 本作「雁の寺」は川島雄三の作品の中では「重い」作品である。禅寺に住職の愛人として住み込んだ女と若き禅僧との愛憎劇は川島特有の覗きこむようなアングル、圧迫的な構図によって淫靡に時として暗澹と深く抉られる。

 本作での若尾文子の妖艶さは圧倒的である。若尾文子は増村保造とのコンビが有名であるがどことなくドライな感じの保村作品、かわいらしい市川崑作品とは違いここでは噎せ返るような色気を演じている。川島コンビと製作された後2本がそれぞれ違うタイプの女性であるのを見比べるのは面白いし、また若尾文子の魅力を存分に引き出した川島雄三の手腕も恐るべきものである。
 映画終盤の真相を知った若尾文子が寺に戻ってからのシーンはまさに息を呑む緊張感と美しさである。

 この重い雰囲気の暗澹とした作品に原作とはまったく違う人物として造形され、見事に演じきった山茶花究小沢昭一も忘れがたい印象を与える。黒澤明は悲しい場面に楽しい音楽を流すことによって悲しみを印象付ける手法を「対位法」といった。唐突な印象を与える二人であるが川島雄三は高度に「対位法」を使いこなした監督でないかと私は思う。

 



山茶花究と三島雅夫

film index

home