東西不思議物語

澁澤龍彦

 

 私が中学生の頃この「東西不思議物語」に出てくる出典となった夥しい数の書籍、主に日本の古典、を抜書きして図書館でしらみつぶしに調べた事があった。地方図書館には勿論本書に出てくるような作品は大方置いてなかったのだけれども、角川書店の 「日本伝奇伝説大事典」で出版元を調べたりして、それだけでも満足したものだった。それほど本書には沢山の伝奇、奇談集の名前があがっており、それだけでも本作の魅力の一つとなっているようである。

 澁澤龍彦は徹底してペダンチックな文章を書いた人である。博識に加え独自の硬質な文体によってサドの翻訳をはじめ、エッセイ、伝記、小説を世に送り出した。その世界は万人に受け入れられるかどうかは判らないが、少なくともこの幻想の世界に魅力を感じる人は「龍の子」となって、澁澤龍彦の魔法世界にどっぷり浸かっているだけで最高の快楽を得られるであろう。勿論私もその一人である。

 本書「東西不思議物語」はそんな澁澤龍彦の決して少なくない書物の中でも「世界悪女物語」「妖人奇人館」と並ぶ「澁澤龍彦入門」に持ってこいの一冊であろう。私も中学の頃に読んだくらいだから内容は決して難解なものではない。49(連載時は48)のテーマに沿った東西の不思議物語の見本市のようなものである。特に日本の奇談と西洋の奇談の比較や類似などは澁澤龍彦の独壇場で他の追随を許さないものである。
 本書は最初に書いたように膨大な数の書物からのエピソードの羅列によって構成されている。これに類した本は他にもあるのだろうと思うが本書の最大の魅力は他ならぬ澁澤龍彦という稀代の文筆家の手による格調ある文章に最大の因があり、昨今流行の「怖い話」とは一線を画するものであるといえよう。そこに、はまるかはまらないかで「龍の子」になるかどうかがあると思う。

 後年河出書房新社から刊行された「澁澤龍彦全集」を入手した際巻末にインド文学の松山俊太郎氏による詳細な解題、本書の夥しい出典書の「素性調べ」を見て感慨深いものがあった。インターネットを通じ古書も入手しやすくなった時代である。いずれは入手して読んで見たいものである。

 本書は文庫版でも読めるし松山俊太郎氏の詳細な解題がある全集版でも読める


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