2002-06-04 (r1), 2002-06-10 (r2), 2002-09-05 (r3), 2002-10-14 (r4), 2004-08-08 (r5)

a batons rompus

ミニ連載「欧文組版を考える」

家辺 勝文

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Copyright (c) 2002 by YABE Masafumi


第2回 句読点の前後 — フランス語の場合

1. 約物の種類、用法、組み方

“EU公文書ルール”では、約物(ピリオド、コンマなどの句読記号、括弧類などの引用記号、ダッシュ、ハイフンなどのその他の区切り記号、いくつかの単位記号、数学記号など。総称するときは「約物」という用語を使うことにする)の組み方について“EU公文書スタイル”とも呼ぶべき独自の方法を決めている。

約物の用法というと、記号の種類とそれぞれの記号の使い方がまず大きな問題であるが、“EU公文書ルール”では、あえて独自な記号や用法を決めているわけではない。“EU公文書ルール”自体に書かれている言語ごとの約物の種類と用法の記述(おもに第4部の各言語の固有の事項の中に含まれる)は至って簡単なものであり[1]、各言語の慣用のうち、間違えやすいものを抜き出している程度にすぎない。これは後述のように出版プロセスの中での“EU公文書ルール”の位置づけにも関連しているのだろう。

それに対して、約物の組み方、特に約物に近接する文字との間の空き量の問題については、明示的に統一的なルールを示している(すべての言語に共通の取り決めである第3部の6.4.項)。このルールだけを見ていても、何がどう統一されたのか明らかではないが、個別の言語の慣用と比較してみれば、その内容が明らかになる。

そこで、ここでは、約物の組み方、特に“EU公文書ルール”が明示している「隣接する文字との間の空き量のとりかた」の問題に絞って、個別の言語の場合との比較を行い、その統一ルールの意味を探ってみることにしたい。個別の言語としては、フランス語をとりあげる。とりあげる約物の種類としては、フランス語版“EU公文書ルール”の6.4.項に示されているもののうち、単位記号、数学記号、“&”および注記の合い印を除く、句読点類、括弧類、その他の区切り記号類をとりあげる。

“EU公文書ルール”では記号そのものが記載されているだけであるが、そのHTML版で使われている字種から名称とUCSコード等を比定し、この連載で検討対象とする記号だけを表にまとめると次のようになる。

表1 フランス語版“EU公文書ルール”6.4.項の記号の種類(この連載での検討対象のみ)
記号フランス語名[2]本稿での呼称比定される UCS-2 code左記 code に対応する UCS character name対応する日本語通用名称(JIS)
,virguleコンマ002CCOMMAコンマ
;point-virguleセミコロン0038SEMICOLONセミコロン
.pointピリオド002EFULL STOPピリオド
:deux-pointsコロン003ACOLONコロン
!point d'exclamation感嘆符0021EXCLAMATION MARK感嘆符
?point d'interrogation疑問符003FQUESTION MARK疑問符
-trait d'unionハイフン002DHYPHEN-MINUSハイフンマイナス
tiretダッシュ2014EM DASHダッシュ(全角)
/barre oblliqueスラッシュ002FSOLIDUS斜線
(parenthèse ouvrante右開きパーレン0028LEFT PARENTHESIS始め小括弧, 始め丸括弧
)parenthèse fermante右閉じパーレン0029RIGHT PARENTHESIS終わり小括弧, 終わり丸括弧
[crochet ouvrant右開きブラケット005BLEFT SQUARE BRACKET始め大括弧, 始め角括弧
]crochet fermant右閉じブラケット005DRIGHT SQUARE BRACKET終わり大括弧, 終わり角括弧
«guillemet ouvrant右開きギィメ00ABLEFT-POINTING DOUBLE ANGLE QUOTATION MARK始め二重山括弧引用記号, 始めギュメ
»guillemet fermant右閉じギィメ00BBRIGHT-POINTING DOUBLE ANGLE QUOTATION MARK終わり二重山括弧引用記号, 終わりギュメ
guillemet anglais double ouvrant左ダブルクォーテーション201CLEFT DOUBLE QUOTATION MARK左ダブル引用符, 左ダブルクォーテーションマーク
guillemet anglais double fermant右ダブルクォーテーション201DRIGHT DOUBLE QUOTATION MARK右ダブル引用符, 右ダブルクォーテーションマーク
guillemet anglais simple ouvrant左シングルクォーテーション2018LEFT SINGLE QUOTATION MARK左シングル引用符, 左シングルクォーテーションマーク
guillemet anglais simple fermant右シングルクォーテーション2019RIGHT SINGLE QUOTATION MARK右シングル引用符, 右シングルクォーテーションマーク

なお、本連載では、右開きパーレンと右閉じパーレンを総称してパーレン、右開きブラケットと右閉じブラケットを総称してブラケット、右開きギィメと右閉じギィメを総称してギィメ、左ダブルクォーテーションと右ダブルクォーテーションを総称してダブルクォーテーション、左シングルクォーテーションと右シングルクォーテーションを総称してクォーテーションと呼ぶことにする。

また、括弧類の用法として、括弧書きの開始に使う記号を「始め括弧」、括弧書きの終了に使う記号を「終わり括弧」と総称する。

フランス語では右開きギィメを「始め括弧」に使い、右閉じギィメを「終わり括弧」に使うが、デンマーク語では、右閉じギィメを「始め括弧」に使い、右開きギィメを「終わり括弧」に使う。上記の「右開き」「右閉じ」の呼称は、記号の形だけを表現しようとしたものである。

これらのうち、コンマ、セミコロン、ピリオド、コロン、感嘆符、疑問符の6種類の約物を句読点類、パーレン、ブラケット、ギィメ、ダブルクォーテーション、シングルクォーテーションの10種類の約物を括弧類、ハイフン、ダッシュ、スラッシュの3種類の約物をその他の区切り記号類と呼ぶことにする。

上記の約物の内、今回は句読点類をまずあつかい、次に括弧類をあつかう。その他の区切り記号類については次回あつかう。

本連載では、各約物の用法の説明は特に行わない。文献解題の中の参考書などに詳しい論考があり、それだけで大きな研究テーマとなっている。

2. “EU公文書ルール”における約物の前後の空き

まず、フランス語版“EU公文書ルール”6.4.項の記述を見てみよう。

この項は、文章による説明がほとんどなく、一覧表の形式で組み方を示している。各言語バージョンに共通なのは、4列の構成であり、まず一番左の第1列に記号自体を掲げ、第2列にはタイプライターでの記号の組み方、第3列にはワープロソフト(Wordなど)での記号の組み方、第4列には印刷所および編集段階での組版ソフトによる処理における記号の組み方を示している。[補足2004-08-08:2004年3月の改訂でタイプライターでの記号の組み方が削除され、第2列にはワープロソフト(Wordなど)での記号の組み方、第3列にはWindows上で記号を表示するためのキーの組み合わせ、第4列には印刷所および編集段階での組版ソフトによる処理における記号の組み方、となった。下記のタイプライターによる代替表記法は削除されてしまったが、ある意味で貴重な情報なので、ここでは敢えて残しておく。]

この表の主な目的は、記号に隣接する文字との間の空き量をどうするかを示すことであり、句読点類と括弧類については、非常に簡単なルールになっている。ほかの項目におけるいろいろな記述を総合して文章で説明するとすれば、次のようになるだろう。

句読点類では隣接する直前の文字との間には空きを入れずベタで組む。記号の直後は、単語間の空き(ワードスペース)と同じで分割可能、調整可能な空き量となる。

括弧類では、始め括弧は直後の文字との間に空きを入れず、終わり括弧は直前の文字との間に空きを入れないでベタで組む。始め括弧の前、終わり括弧の後は単語間の空きとなる。句読点類または括弧類とベタで隣接する文字との間は行末に来たときも分割不可能である。

その他の区切り記号類については、ダッシュでは前後に空き(実際には単語間の空きと同じ、分割可能、調整可能な空き量)を入れて組む。ハイフンとスラッシュでは前後ともに空きを入れずにベタで組む。しかし、ハイフンの場合は空きを入れるケースがある。またハイフンはベタで組んでもハイフンのあとは分割可能である。これらについては次回検討する。

括弧類に戻ると、タイプライターなどで、目標とする括弧が打鍵できないときの代替表記法を決めているのも注目される。すなわち、ダッシュ、ブラケット、ギィメがなく、ダブルクォーテーション、シングルクォーテーションがそれぞれ一種類しかない(右、左の形を区別した2種類ではなく)ときは次のように代替表記を行う。

いずれにしても内側に隣接する文字との間には空きを入れない。ただし、言語バージョンが変わると括弧類の種類も変わるので、代替表記法も変化する。

言語バージョンが変わって、括弧類の種類が異なっても、空きの入れ方については共通していることが注目される。

3. どこが違うのか?

これだけを見ていれば、何が問題なのかはよく見えてこない。しかし、例えばフランス語の印刷物に慣れた目から見ると、“EU公文書ルール”に従ったフランス語版の文書の仕上がりは一目で普通とは違うという感じをもたせるようなものになっている。その差異を詳しく見ていくには、“EU公文書ルール”の背景にある、各言語・地域におけるデフォルトルールやそのバリエーションを参照する必要がある。

そこで、ここではフランス語の場合を例にとり、約物の前後の組版事情を概観してみることにしよう。

まず、具体例の比較から始めよう。図1は欧州共同体官報(フランス語版2002年5月28日付 L 138/1)の組み方の一例をPDF版からの画像コピーで示したものである(出典:EUR-Lex - Journal officiel)。

JOCE-L138/1
図1

図2はフランスの新聞 Le Monde(2002年5月28日付第1面)の組み方の一例を、同じくPDF版から画像コピーで示している(出典:Le Monde.fr - édition électronique)。

Le Monde 2002-05-28
図2

図3は書籍からの例で、Gallimard 社の Pléiade 叢書(Alain, Les arts et les dieux, 1968, p. 583)から狭い範囲でいろいろな約物が見られるページをスキャンした画像である。

Pleiade
図3

図2と図3の組み方例では、“EU公文書ルール”と異なり、疑問符の前、コロンの前、ギィメの内側などに空きが置かれている。後から見るように、空き量についてはいくつかの流儀があるものの、約物の種類によってその前または後に空きを入れるというのが、現代のフランス本国での仏文組版における共通したデフォルトルールになっている。

フランス語の組み方をあつかった主要なルールブック類[4]は、例外なく約物と隣接する文字の間の空きについて説明する項目を設けているが、ルールブックによって記述内容は必ずしも同一ではない。図4はその一例で、フランス国立印刷局(Imprimerie nationale)が出している用語集形式の『国立印刷局組版規則集』([LEXIQUE], p. 149)に記載されている、約物の前後の空き量一覧表である。

Regles IN
図4

文字との間を空けると言うだけでは、実際には不十分な記述である。それでは、ある種の約物は単独で一つの単語と同じようなあつかいとなり、単語間に空きを入れるのと同じように、その前または後に空きを入れるとも読めそうだが、実はそうでもないのである。

図4をよく見ると、“espace justifiante”、“espace insécable”、“espace mots”、“espace fine”などが対立する用語として使われているようだということが読めるが、空き量の問題を別にしても、行端における約物と文字との間の分割可能性は、約物の組み方の上で重要な要素である。“espace insécable”とは「分割不可能な空き」のことであり、疑問符やギィメには空きがともなうと言っても、疑問符だけを単独で行頭には組まない、右開きギィメを単独で行末には残さないといった“行頭行末禁則”が同時にはたらくことを示している。

4. 仏文組版ルールでの基本概念

まず、約物の前後の組み方の詳細を検討する前に、そこで使われている組版上の基本的な概念を整理しておくことにしよう。

1) espace(空き[量])[組版用語として空き量をあらわす espace は女性名詞。通常の「空間」の意味のときは男性名詞。]

1/2 du cadratin (le demi-cadratin)“二分”
1/3 du cadratin (le tiers de cadratin)“三分”
1/4 du cadratin (le quart de cadratin)“四分”
1/8 du cadratin (le huitième de cadratin)“八分”

2) sécable, insécable(分割可能、分割不可能)

3) espace-mots(単語間の空き[量]、ワードスペース)[6]

4) espace justifiante(1行を両端揃えで組むとき空き量が調整可能な空き)

5) espace fine(固定量の狭い空き、英語の thin space に近い)

5. 約物の前後の空きの組み方に関わる基本的な選択肢

約物の前後の空きの組み方は、いくつかの基本的な選択肢の組み合わせで記述することができそうだ。フランス語の組み方のルールブック類は必ずしもそのような分析的記述を行っていないが、筆者の観点から総合的に整理すると、以下のような約物の組版上の基本選択肢を抽出できると思う。それらの組み合わせ方で、いろいろなルールブックの間での組み方の流儀の違いをも記述することができる。

a) 約物の前または後が行末で分割可能かどうか。

b) 約物の前または後の空きが、1行を両端揃えで組むとき単語間の空きのように、その空き量が調整の対象になるかどうか。

c) 空き量の値の種類。

c-2)、c-3) の空き量の値としては前節で示した既定値が一例となるが、実際には諸説があって、必ずしも統一されているわけではない。逆に、ここでどのような空き量をとるかが、印刷所や出版社のハウスルールとして差異化の対象となる余地がある。c-2) は単に空き量を指すだけではなく、a-1) と b-1) が合流した概念として使われることが多い。

次に、このようなルールの組み合わせとして、句読点類・括弧類はどのような種類に分かれるのか順番に見ていこう。

6. 空きの組み方から見た仏文句読点類の種類

前に来る文字との間の空き量の違いによって、仏文組版(従来からの印刷上の慣行。ワープロソフトなどによる文書作成、電子文書の場合については後述)での句読点類の組み方は3種類に分かれる。なお、句読点類の後は、終わり括弧が来ないかぎり、単語間の空きとなり分割可能である。単語間の空きと区別される、それより長い空き量をとることはない。

1) ピリオド型

2) セミコロン型

3) ゆるいコロン型

仏文組版では、句読点類に関して、いわゆる「高さのある記号」(または形の上で要素が重なっている記号)、つまりセミコロン、疑問符、感嘆符およびコロン(さらには後述のギィメを含めて)の組み方に特色がある、という言い方をされることがある。ルールブック類からは上記のような組み方の型が区別されてくるが、図3のように疑問符や感嘆符が少し広めの空きをとるケースもあり、多様なハウスルールによって細部で上書きされているのが現実である。

以上を表にまとめると次のようになるだろう。

表2 空きの組み方から見た仏文句読点類の種類
記号の前後記号の前記号の後
分割可能性不可
空き量調整不可
空き量の値なしespace fineespace-motsespace-mots
種類ピリオド型  
セミコロン型  
ゆるいコロン型  

“EU公文書ルール”では、以上のすべての句読点類がピリオド型としてあつかわれることになる。

7. 空きの組み方から見た仏文括弧類の種類

括弧類については、フランス語文に特徴的なギィメとそれ以外の括弧類で組版方法が異なる。いずれにしても、始め括弧の前と終り括弧の後は「単語間の空き」と同じで、分割可能、空き量も調整可能である。

1) ギィメ以外の括弧型

2) 狭いギィメ型

3) ゆるいギィメ型

フランス語では図2、図3のように、ギィメで囲まれた引用文はその前にコロンで区切られるのが通例であり、括弧類の中でも特にコロンとギィメ周辺の組み方に大きな特色があり、またこだわりをもっているとも言えるだろう。同時に空き量については諸説がある[11]

以上の括弧類について一覧表にまとめると次のようになるだろう。

表3 空きの組み方から見た仏文括弧類の種類
記号の前後記号の前記号の後
分割可能性不可不可
空き量調整不可不可
空き量の値なしespace fineespace-motsなしespace fineespace-mots
種類ギィメ以外の括弧型の始め括弧      
狭いギィメ型の始め括弧      
ゆるいギィメ型の始め括弧      
ギィメ以外の括弧型の終わり括弧      
狭いギィメ型の終わり括弧      
ゆるいギィメ型の終わり括弧      

括弧類と句読点類を比べると、空き量の組み方の種類が似ていることがわかる。

括弧類の場合、括弧類どうしの重複、終り括弧と句読点類の重複が起こりうる。その場合は、括弧で囲む範囲から見て外側に来る記号の空き量のルールが優先する。

ここで、固有の固定した空き量をもつということは、結局その記号の字幅として決まっているのと同じことではないかという疑問もおこる。確かにセミコロン型の句読点類についてはそのように見なしても不都合はないように見えるが、コロンやギィメの空き量は、組版の流儀やハウスルールによってそれぞれの決め方がありうることを考慮すると、一律に字幅の問題として処理することには無理があるだろう。

“EU公文書ルール”では、以上のすべての括弧類が「ギィメ以外の括弧型」としてあつかわれることになる。

8. 電子文書における約物の組み方とノーブレークスペース

以上の約物の組み方は、活版以来の伝統の上にある従来型の印刷における仏文組版方法を、実例及びおもなルールブック類を参照しながら、筆者の観点で整理したものである。

手書きやタイプライターで原稿を書き、編集・印刷プロセスにまわす、という作業の流れが主流であった時代には、書き手自身が約物周辺の空き量などに注意する必要はなかった。そのようなことは限られた数の編集・印刷のプロが仕上がりの整形として引き受けていたからである。確かに美しいタイプ原稿の作り方というような話はずっとあったわけだが、所詮、約物まわりのファインチューニングはタイピングとは別の世界の問題である。

ところが、パソコン上のワープロソフトによる原稿作成が主流となってきた現状では、書き手自身にまで仕上がりの整形への関与が多かれ少なかれ期待されるようになり、かつては専門的な工程での技能であったものが、共有されるべき知識として、新たな技術的リテラシーの構成要素になりつつある趣さえある。しかし、いま問題にしている仏文組版における約物まわりの空きの調整というものも、活版以来の道具立てに依存して蓄積されてきた技術であり、ただちにコンピュータ上の道具立てに移転されているわけではない。

一つの解決策は、新しい道具立てを既定の技術条件として、それによる文章の組み方のモデルを創り出していこうとするものであろう。“EU公文書ルール”は、タイプライター執筆の時代からの“読みやすく合理的なタイプ原稿の作り方”の延長線上にあるようなもので、電子文書の時代には、そのままで仕上がりに近い形にまでもっていってしまう、そのような方針をもつものであろう。ノーブレークスペース[13]はなるべく使わない、という方針も中途半端な印刷技術の模倣はしないということにつながる。仏文組版で言えば、約物まわりの空き量の調整が不要になって、簡単といえば簡単になるのである。

もう一つの解決策は、現在おそらく仏文の電子文書作成でかなり一般的に行われている方法であり、パソコンソフト上で使える道具立てによって、従来型の約物まわりの組版方法をできるだけ模倣しようとするものだろう。もっとも単純なのは、約物の前後に空き量があって分割不可能とされてきたケースに対して、ノーブレークスペースを使うという方法である。この場合、従来型では区別されたコロン型とセミコロン型の組み方が同じになってしまい、コロンの前では空き量の調整ができない。ギィメについても同様である。ノーブレークスペースは、空き量の値が定義されているわけではないので espace fine になるとは限らない。

ここで、実務家の間では意見がわかれ、セミコロン型で espace fine が実現できないなら、ノーブレークスペースでなくベタで組んだ方がいいとする意見[14]と、普通のスペースで空きを入れた方がいいとする意見[15]の両方がある。後者をとると、裏技的なテクニックで espace fine をつくることも不可能ではない。

こうした議論は、フランス語を処理するとき、ISO 646 と ISO 8859-1 (Latin-1) までの文字種(あるいは Windows, Macintosh で Roman script 用に実装されている文字種)でまかなおうとすることが前提になっているが、UCS/Unicodde では、GENERAL PUNCTUATION というブロックの中に、次のような空き量を表現するコードポイントもある。

表4 UCS - GENERAL PUNCTUATION から抜粋
UCS-2 codeUCS character name
2000EN QUAD
2001EM QUAD
2002EN SPACE
2003EM SPACE
2004THREE-PER-EM SPACE
2005FOUR-PER-EM SPACE
2006SIX-PER-EM SPACE
2007FIGURE SPACE
2008PUNCTUATION SPACE
2009THIN SPACE
200AHAIR SPACE
200BZERO WIDTH SPACE

また、和文組版を引き合いに出すなら、例えば仏文におけるコロンやギィメは行頭行末の禁則処理という別系統のルールで処理できる問題で、空きの特性の問題ではない、というふうに考えることもできる。

また、ウェブページであれば、CSS で引用文という要素の前後に pseudo-elements を設定して括弧の種類をスタイル指定で決めることもでき、そのとき同時に前後の空き量を指定することもできる。この方法によれば、ノーブレークスペースを使わずに、約物ごとに空き量の数値指定もある程度可能になる[16]

いずれにしても、本格的な仏文組版ソフトを設計するなら、いろいろな手法を使い分けることによって、従来型のファインチューニングも、あらたなデザインポリシーによるファインチューニングも全く可能になるはずである。

そのような展開において、問題はもう一度、原稿執筆から編集・出版プロセスへという作業の流れの新しい形態へと戻ってくるように思う。書き手が最初から高機能な組版ソフトを使うこと、そのような仕事の仕方が一般化するとはとても思えない。それはソフトの使い勝手とかインターフェースのよしあしとか、そのようなレベルの問題ではなく、仕事の内容そのものの専門性の違いというレベルの問題なのである。

かつてのワークフローになぞらえて言えば、原稿段階での中途半端な仕上がりの模倣などかえってノイズであり、仏文組版の約物関係で言うなら、“EU公文書ルール”のような割り切りで書いてもらった方があとからのチューニングは簡単なのである。例えば、Pro Lexis のような欧文用組版ルール校正ソフトがすでに存在しており、約物まわりの空き量などを各言語別にチェックすることができる。このような校正ソフトの使用自体も、よく考えてみれば、書き手自身が背負い込むことはないのである。

このような電子文書ベースの発展型ワークフローを視野に入れると、「タイプ原稿清書規則」型とも言える“EU公文書ルール”がもちうる現代的な効用が見えてくるのではないだろうか。すなわち、全体の作業の流れを通じて、一方で書き手自身にも関わる共通性の高いルールを書き出しつつ限定し、同時にその後の編集作業を区別しながらその間のつながりをよくしていこうとするものである。

<続く>


▼参考文献解題

  1. 基本的なルールブック
    • [LEXIQUE] Imprimerie nationale. Lexique des règles typographiques en usage à l'Imprimerie nationale. Paris, 4e éd., 2000; 5e éd., 2002.
      * 国立印刷局で使われている組版ルール集(アルファベット順の用語集形式)。句読点の空き量に関しては [CODETYPO] [ABREGE]などのルール集のベースになっていると思われる。[補足2004-08-08:2002年に通貨単位ユーロの書き方を追加した改訂版が出ている。]
      Imprimerie nationale
    • [CODETYPO] Fédération de la communication CFE/CGC. Le Nouveau Code typographique. [alias Code typographique]. Paris, 1997.
      * 出版新聞労組の“組版ルールブック”。規範的なルール集。1946年以来17版を数えたが、半世紀を経て1997年にリニューアル。新版では DTP での処理なども意識している。
    • [ABREGE] Centre de Formation et de Perfectionnement des Journalistes. Abrégé du Code typographique à l'usage de la presse. Paris, Éditions du CFPJ, 6e éd., 2000.
      * CFPJ(ジャーナリスト養成・研修センター)による [CODETYPO] の要約版。入手しやすく内容もコンパクト。「記者ハンドブック」のような趣旨。
    • [MEMENTO] Charles Gouriou. Mémento typographique.. Paris, Éditions du Cercle de la Librairie, reprod., 1998. [(c) Librairie Hachette, 1973].
      * 「校正必携」のような趣旨の本。[LEXIQUE] [CODETYPO] [ABREGE] とは違う系統のルール記述方法を読むことができる。

  2. フランス国外の仏語圏で出版されたルールブック
    • [GUIDE] Groupe de Lausanne de l'Association suisse des typographes. Guide du typographe. [alias Guide du typographe romand]. Lausanne, Éditions de l'École romande des arts graphiques, 6e éd., 2000.
      * スイスの仏語圏における組版ルールブック。
    • [RAMAT] Aurel Ramat. Le Ramat de la typographie. Édition 2002. Montréal (Québec), 2002.
      * カナダのケベックで出版されている組版ルールブック。疑問符、感嘆符、セミコロンの前は、espace fine でなければベタ組みにするという説。[補足2004-08-08:情報の所在の更新。]
      Le Ramat de la typographie

  3. 19世紀の活版印刷における組版方法
    • [LEFEVRE] Théotiste Lefevre. Guide pratique du compositeur et de l'imprimeur typographes. (Première partie 1855, deuxième partie 1872; nouvelle édition en un seul volume, Librairie de Firman-Didot et Cie, 1883). Paris, L'Harmattan, reprod., 1999.
      * 19世紀の活版印刷の教科書といった趣旨。当時は、コンマの前にも空きを入れる場合があったことが記述されており、この本自体、その実例となっている。
      ponctuation 19e siecle
      図6 [LEFEVRE] p. 46 より

  4. 入門書
    • [PERROUSSEAUX] Yves Perrousseaux. Manuel de typographie française élémentaire. Reillanne, Atelier Perrouseaux, 6e éd., 2001. [(c) Yves Perrousseaux, 1995 et 2001].
      * フランス語組版の入門書という趣旨。[LEXIQUE] [CODETYPO] [ABREGE] とは一部異なるルールを記述している。活版時代からの説明もあり、DTPでの処理も強く意識している。疑問符、感嘆符、セミコロンの前など、espace fine がなければ、可読性のためにふつうのスペース(単語間の空き)を入れた方がましだとする説。
      Atelier Perrousseaux

  5. 句読点関係の解説書
    • [CATACH] Nina Catach. La ponctuation. "Que sais-je?" 2818. Paris, PUF, 2e éd.,1996. [(c) Presses Universitaires de France, 1994].
      * ヨーロッパにおける句読法の歴史と現代の用法を言語学者の目から簡潔に解説。句読点の種類の使い方が歴史的に変化してきたことを示す。空白を含む句読記号についての記号論的説明もある。
    • [DRILLON] Jacques Drillon. Traité de la ponctuation française. Paris, Gallimard ("Collection Tel"), 2001. [(c) Éditions Gallimard, 1991].
      * 実例による句読点・括弧類の用法バリーションの集大成。組版方法についての注意書きがついている。ただし、ギィメ・コロンについては、[LEXIQUE] [CODETYPO] [ABREGE] [MEMENTO] のいずれとも違う説を出して(空き量 espace fine で固定)、かつこの本自体をその組み方で組んでいる。

[注]

  1. フランス語版では10.1.項に各言語別の約物の用法として説明がある。フランス語版ではコンマ、ピリオド、セミコロン、コロン、パーレン、ブラケット、ギィメ、ダッシュ、中断符(points de suspension)[これについは次回検討する]、スラッシュの10種類について短い説明がある。種類としても網羅的ではなく(疑問符、感嘆符、ハイフンなどの項目はない)、説明もごく簡単なものである。言語バージョンが変われば、項目番号も約物の種類も変わる(英語版の場合は10.2.項)。

  2. フランス語名のうち、単数形・複数形で注意を要するもの。
    • point-virgule の複数形:points-virgules
    • deux-points:単数複数同形

  3. ISO 646 のフランス語版では、ISO 646 IRV でブラケットをあらわすコード位置が別の記号になっている。

  4. 文献解題の中の「(1) 基本的なルールブック」の項を参照。

  5. 印刷におけるポイントは、特に断りがない限り、Didot ポイント(1 m = 2660 points didot, 1 point didot = 0.3759 mm)である。DTPソフトでは、USインチの72分の1を1ポイント(Pica活字の12分の1で定義されたPicaポイント 1 point pica = 0.3514 mm の他、正確に1インチの72分の1を計算した DTPポイント 1 point PostScript = 0.35278 mm がある)とする計測もある。“EU公文書ルール”がポイントという単位の定義などについて触れていないのは、各言語・地域による違い以上に、出版プロセスの中での編集・印刷段階に固有の問題だという認識があるからかもしれない。

  6. ハイフンを入れずに espace mots と書くこともある。本連載では、引用箇所以外はハイフンを入れて綴ることにする。

  7. [LEFEVRE] p. 29 などを参照。この本自体、そのようなコンマの組み方になっている。

  8. [PERROUSSEAUX] p. 94 を参照。

  9. [ABREGE] p. 63 を参照。

  10. [PERROUSSEAUX] p. 94 を参照。

  11. [LEXIQUE] においては、ルールの記述として、ギィメの内側は“espace mots insécable”となっているが、この本自体の実例におけるギィメの組み方はどう見ても「狭い空き」である。
    exemples du Lexique
    図7 [LEXIQUE] p. 50 より

  12. 出典: Michel de Certeau. L'invention du quotidien, 1. arts de faire, Introduction générale, p. xi (Collection Folio/Essais, Gallimard, 1990)

  13. UCS-2 code で 00A0 の NO-BREAK SPACE であり、non-breaking space などとも呼ばれる。JIS X 0213 での日本語通用名称は「ノーブレークスペース」(面区点コード 1-9-2)。例えば、Macintosh 上では、Roman script が選ばれている状態で、Option + space bar で入力できるが、入力方法も含めて必ずしもよく知られているわけではない。

  14. [RAMAT] p. 169 を参照。

  15. [PERROUSSEAUX] p. 93 を参照。

  16. CSS2 を使って約物の空き量を指定した実例はこちらを参照。Netscape 6.2.3 および Mozilla 1.0 で表示を確認済み。実例では疑問符の前とセミコロンの前の空き量を四分、コロンの前とギィメの内側を三分(の近似値)と指定した(指定方法はソースを参照)。[補足2004-08-08:Netscape 7.1 および Mozilla 1.7.2 で表示を確認。Mac OS X 上の Safari 1.2.2 は正確に表示できない。]