「悪戯翼」

全作品

(2000.4.1掲載)




第一升 悪戯翼
兄者が輝く太陽ならば私は月になりましょう



第一合 花序


みやこ空小じおらしくも陽が落ちる 来れよ「愛ね」「暗いね」夜曲

凶景ぞむすんでひらき手を打てばおお仄白の桜猖厥

わがacroばっちくもある徒花は虎紋豹紋猛禽捕猿図

わたくしも《はばかりながら桜》ならば今こそ怒らめいざ修羅場いざ
(仰げば、尊い)

はたはたと鳴るものに眼をそば立てるmajorityさえ悲しむ春だ

花序通り花は花咲き現状をなべて肯い行く春である

ぎしぎしに満天星熟れて静かなり汝卑怯の多元価値論

ほめられも苦にもされざる生ならば永くもがなと誰が思うか

逸脱の肚、先見えて馬鹿めには脅しばかりの春ゆかんとす

 

ひとむらの短黄損黄に生意黄のざざわと揺れて春逝きにけり

 

 

 

第二合 継承と拒絶

 

 

絶色のつくばの裾の里いくさ偶像破壊イコノクラスム!尻尾は巻かねえ

 

功罪を水に糺していたるかなのっぺらぼうになれぬひとりの

 

令色の笑み極まれる《白牡丹》 状況論はおれは云わない

 

人恋えば左ぎっちょに奴を恋えばりんと音してトマト砕けつ

 

言い切れず(とても皆目一向に)然して書けり無慮何万字

 

共同体まほろば pull と push のせめぎにて異色も足らず礼節もなし

 

トップシェアやつら豪気の《サクラ買い》商業主義的党同伐異

 

止揚なるご都合笑止この頃は《継承》よりも《拒絶》に傾ぐ

 

冷や飯の食い方はなあ花の下  月ほんほろの淡淡あわあわの中

 

偏屈の椿となりてころぶかな《八重に咲く気》はさらにないので

 

 

 

第三合 過度と角

 

 

途轍などあらばやここに連翹の嫡嫡ちゃくちゃきにして死に近き黄きい

 

作歌なる片務契約つづけつつ色アセトンの男盛りや

 

錯雑はそうとも俺の表芸古流の批評諾なうものか

 

純理的高度理詰めの立論の里程のためのわれの拵え

 

夕雲のぽつり遅れてひと翔けりひとりおおかみ  自己完結ぞ

 

さあ行くぜ五合呑んだるついでなら保有資産をコートにつつみ

 

手の中のラ行のひとにさくら散るはんらはんらやあぶなうつし絵

 

区区まちまちになる筈もなし腰抜けのそろいそろうて腰抜ける座は

 

さ丹つらう君の心のその横の俺の心の蕁麻疹かな

 

色悪の騙之介かたりのすけの唇の少し淋しき夜明けなるか

 

 

 

第四合 

 

 

空間に《く》と静止せる光陰や厳城イツムラ投げしboomerangに(厳城は八歳)

 

噴水は池しゃあしゃあと非対称正しからざる批判こぼしつ

 

脳中の無辜ようように羽化をせり  能書きじゃねえ歌は力だ

 

ああ仲秋媚びない拗ねない曲がらない青細月あおほそづきのあだ涙かな

 

鬱血の十万億土思いおりとどのつまりは短歌は損歌

 

複線に消したる恣意もありしかな近世以来智は愚を責めず

 

そそり立つ赤爪族の短歌かな沈魚落雁閉月羞花

 

大公孫樹おとこ気見えてありしかど《欧羅巴にお江戸》ちりぢりとなれり

 

凄腕かすごすご腕か知らねども連打の腕の中にわが甲斐

 

この世こそフラッシュスリープ空回り奇貨おく汨羅離騒屈原

 

 

 

第五合 内なる狂歌師結城淋太郎君

 

 

黒月の紋柄かすむ有明や古来どんがら三十一文字

 

どんがらはぬくぬく肥えていたりけりぽえじいまこと処置なきままに

 

《三千大三千みちおおち》神備わざる人の道勿体無さに涙こぼれる

 

悖逆ばいぎゃくは悲しきかなや青空下せいくうか泣けよ中飛車七嶋髭雄

 

すすきかるかやいとも雄々しく立ち枯れぬ《剛毅訥近仁ちゃらちゃらするのはろくでなし》だぜ

 

ふつふつと鍋煮えてくる馬鹿未定みてえ《人生感意気あんたのためによろうじゃないの

 

黒と白 心遅れるものあれば烏鷺烏鷺烏鷺と烏鷺つきにけり

 

遺憾かな大手振りつつ歌の路地暗喩は上手酔うて蹌踉

 

手力ぞ 俺の没倒もっとうその上に美への狂倒わあ一辺倒

 

力竹矛竹箆竹のだけ女子竹卜部季武うらべのすえたけわれなべの妻

 

 

 

第六合  Be holonic!

 

 

目にはover山ほどの気障八月をはつがつお待てず煌たる男蕾おとこつぼみ

 

私の悪戯わるざれしたり芳醇乎極上品アウスレーゼの極みかなしみ

 

余念などなくてよかろう根無し草ティランジア待つ甲斐などはいずれにもない

 

脱個人しかしてときに火砕流われ男盛おざかりの戯曲的価値

 

この始末だれもつけねばああ何と五末六末七末もなし

 

森は緑  固体変異の敗亡やせめて泣け泣け白甲虫

 

研げば折れ銹れば太る目算ぞ水加えつつ阿呆寝て待つ

 

Be holonic!  カリスマなぞは死してよし小智過ぎての大智の時代

 

喩えれば罪重ねたる黒真珠異形の上に異彩あるとは

 

あじさいの交睫の上降るものは父遺したる雄の分別

 

 

 

第七合  憂慮

 

 

鎌倉の夏材木座忌避掴みむすめむさぼれ目下、土金水

 

komusumeの生猪口才なまちょこざいの口紅に淡あわの一忍かがやいており

 

おとめらのつるつる脚はまかがやき  ロマネスクともグロテスクとも

 

夫恋いにぶんむくれたるその節の静御前の凄みの極み

 

青がえる微がえるぬめと縮みおる俺の思弁は転結のとき

 

ああ単位  国も解体される頃企業虚業もそぞろほどける

 

あいつらは後発利益で食い荒しそしてすぐさま食い詰めたりき

 

冷媒になってみたけれど悲しくて荒れ荒れ荒れて荒れてみせていた

 

天空はあたふたふたと回りおり憂慮に切のわが上空は

 

星宿の一としてわが胸にある凛々しくしかし忸怩たるもの

 

 

 

第八合  短歌のカマ──島田修三の「短歌のタタキ」に返す

 

 

徹底は快楽の母蜂起せよ《島田修三》わが《淋太郎》

 

ぽってりと脂ののれば管理者のカマ首は向くエグゼキュティヴに

 

鉈は舌よりも弱し小癪小癪と叫んで女類に刃向かう

 

多国籍企業の窓辺《追う・得る》があらららあれれ修身を読む

 

轟笑を零しゆくかなそこいらここいら佳人理婦人礼不尽らは

 

ようように夢に打ち勝つ払暁の座右に凛乎《候そうろう悲歌集》

 

勝ち気なる鰤カマひとつ平らげん大日本の饐えをいといつ

 

格づけを絶えてせざれば上等のおお上等のわれの任侠あぽりあ

 

ぽえじいが吼えていやがらシカルニ  どろりシニカル解釈共同体はも

 

秋霜の速攻来たれ揺らぐものか吾真光輝つくづくばかな野郎yellow自大は

 

 

 

第九合  ワルサの翼

 

 

わしこそは異流諸白もろはく生一本女時の風よ心して吹け

 

わらわらと作歌koikeに遊ぶ花陰ぞ亜桜あおう異桜いおうや右往うおうに我往がおう

 

一汲みの意地を維持してさあ今日も自発尽瘁自彊奮励

 

わんざくれ飲んだくれかつ酔漢だりむくれわがひとひろのワルサの翼

 

「粋」とかさ、あわれむやみに明るくて意気の多くを俺は疑う

 

ああ花は美夫超然とあるごとくも娶らず生まず老いず散るべし

 

濁々と諾々とあり酒の道そうよ俺らは 恰あたか  劉邦

 

最深の反りもつ太刀を打たんかな美事為すmanと呼ばれついでに

 

青中あおなかの水中みずなかのああ自在片安本丹あんぽんたんの背鰭峻烈

 

「いい年だ」思いあふれて振り向けばああ金色の酒精停電ブラックアウト

 

 


 

第二升 残侠のエトス


しょばがいのちの男だて――昭和残侠伝


第一合 残侠のエトス残響編


おお寒やせなの唐獅子神去かむさりて暗澹とある夜半に冬雷

 

朝ぞらにりりんがりりんが雪が降るりりんがりりんが蓋しりりんが

 

雪片の固着恋着悶着はさすがに白の純の結末

 

電子的ギター咽ぶもむらさきの色したたかにやつの狂雲

 

どさくさの観音様に詣でては《知識創造》《善の研究》

 

死生観いやさ内裡の脂肪肝獅子身中に熟れて楽しも

 

ここ二年わが青筋にとどこおる或いは種火或いは火種

 

書き募る不評和音ぞかしこくも《と》は接続詞且つ隔絶詞

 

横ざまの歌を補う武技なるも奇戦苦戦と孤戦なりしか

 

白無垢に鉄火の業の身丈とや歪み由々しきわが薄雪駄

 

 

 

第二合  新春慕情編

 

 

うす明かりおまえはおれの優雅灯水に映れば水を渡らん

 

ああ二月遂行にしくものはなしあわれや募る木蓮の芽も

 

わが秘剣鸚鵡返しは背越し切り三十余音の胸鰭を断つ

 

左腰あるいは肩の骨近くおとこ気らしき微憂ひそむも

 

はらはらと降るもの多し天空の北の外れにありし思惟など

 

鞘離れ丁よ発止よひらり綺羅離陸愛染春来たるかな

 

くろがねも度胸も力も何にあらん春漂漾の慕情に接し

 

頭部を  ためつすがめつ見ておりぬ闘心さらに自律性など

 

見ておけよ細首坊主わしの背を《男一幕花火一閃》(坊主は四歳

 

《終焉への答え》などない生き急ぐこの世の俺は光弧一条

 

 

 

第三合  青陽華麗編

 

 

白蓮の華麗加齢のいや果てのはたり落下や唐突の機微

 

この春の蹲踞そんきょの上の花戦降り降り止まぬ二三千片

 

さめざめと言語に澱む歳月のメルクマールや満天星の白

 

刺青めくうつわの底の泡の影ぽつり休日豪侠不在

 

同義反復両説併記思い差しおしつけがましくあっちゃあならねえ

 

弓の月角を矯めれば歌は死ぬ春すべすべに月は降るべし

 

沖はるかとある過剰のひた寄せぞまがまがしきは心しんの水際

 

晒には晒の矜り発汗に犇々耐えて肝を巻くべく

 

濃緑の畝に紛々のもんしろや舌下腺には火急のきざし

 

日光の真下の歔欷は青みどろ幼日とおきわが分裂ふたごころ

 

 

 

第四合  朱陽海浜篇

 

 

GALIOAの飯になりたる賃借りの体たい浮かべつつ葉月綿津見

 

数旒の海月けざやに馳せぬけて晩夏残恨にぶき綿津見

 

海面にひるみ心は凪ぎてあり発止と撃つに必死とひびく

 

片男波嗄声しせいに呼びしかた恋や九尾の女のあとは知られず

 

大夏の桁ゆるがせて海の山に一哭二哭落暉沈々

 

眼の限り波は渾々の自己相似フラクタル微塵微小に裂け繰り返す

 

覇を唱えきららかにあるアメ車軍弱弱よわよわにしてかくも強強つよつよ

 

皮膚の傷痛みのあとのなま乾きsun tanたりき既往の盛夏

 

大らかに太陽と月  人界は判別差別区別分別

 

大海に水柱棲む男意気  青織物テクスチュアつよくよじれよ

 

 

 

第五合  白陽逡巡篇

 

 

深紅ふかべにの秋草の花騙るらくころびしものは美しき哉

 

舐めんかなレッセ・フェールの解として麻乱れたるあとの祭を

 

厳しくも両罰規定なか空に機体の糞の白くかすれつ

 

黒柄の刀とうをせせりて夜もすがら男多恨をわずかに制す

 

おまえらの三原則の上高くほうら雁行須臾の匕首

 

恩讐の対価もしくは抜け殻ぞおれの取り柄はひとつ真心

 

足どりを女性の幅に踏みかえて紅葉の色に恋語りせし

 

木犀は誇りを誇れひたすらに《高樹悲風》の命運をこそ

 

白陽下軽羅しきりにかがよえば女林じょりんを俺はしばし畏れつ

 

剥いで剥ぐ昨日に続く大波のあくなき作動紺布一面

 

 

 

第六合  やわらかな侠気(好漢山口卓逝く)

 

 

短夜を千々に砕きて思うかな間近に在りし朱の存在を

 

七夕のシグナス叫おらぶその奥の銀漢まさに万斛の涙るい

 

男盛おざかりは仕事あそびと歌いくさ腕先端の食指光陰

 

軟弱の《十四代》を含みたる貴公要の腰椎拾う

 

むざと散るかっ散るさくら見ていたる破顔の貴公芯は独狼

 

二種の酒交互に流す独酌ぞ俺の胸裡と兄けいの矜恃に

 

相棒よやるかたもなき悲しみを俺にのこせるまぶの相棒よ

 

破顔の  山口虚空荒肝は《新走り》まで持たざりしかな

 

悲しみは朱を震わせて天がける朱それは俺の口蓋垂ぞ

 

夢で打て打ち残したる大花火五十路侠骨きょうこつさらば合掌

 

 

 

第七合  剣魂歌心

 

 

見られよ  剣魂歌心逐々と連翹伸びる痛みのほどを

 

おお気流水素は燃えて水になりこころに及ぶ男気だんき断片

 

巨費燃えて東京白し半世紀燃えに燃えたる生きの喘ぎや

 

喘ぎこそ原動力ちからであった性能の且つ品質のはては納期の

 

わが身こそ世に降る長雨花結びおとめさびせる歌への依存

 

腹中にそよ、一片の青石マラカイトことと次第で貴公を斃す

 

ややありて二寸七分の大とろに中指伸ばすわが捕食かな

 

往年の汗のまどろむ舗道なるやりすぎたれど悔恨はなし

 

晩年の父昂ぶれる強音を虎徹発する火花と呼びき

 

夕あかね剣魂歌心男の指に武道の朱はささめくばかり(春日井建

 

 

 

第八合 逃げ吠えの生───四十八歳

 

 

四めぐりのわが闘争の暦には黄吠え青吠えおびえ吠えもあり

 

逃げ吠えは月にかかりていたりけりああこれほどに駄犬、犬けんたり

 

蕭々と刀とうひっさげる木強や時分の花をはるか離れて

 

吠え返る波かなされどしかすがにわが似非太刀はとり落とされず

 

おお他日男ごころ熟れて豊頬の吠え面せるを掻き抱きにしよ

 

正面に夕焼け焦げていたりけりセマンティクスは歌にめり込み

 

手裏剣の十四五本もありければ頼みて立てん奇異の勇みを

 

吠え続け白牙びゃくが二本の燃え落ちしかの瘠せ犬の美しさかな

 

飲み干せよ荒天強雨そのさなか妙薬ならで劇薬をこそ

 

吠え哮る信濃の祖霊中天は月夜つくづく神吠かみぼえ尽きよ

 

 

 

第九合  司馬楽多恨編

 

 

荒事はほゞ童心に拠るそうな  少し青くも海は和海なごうみ

 

引き潮は無道横道非道にてとんぼもんどり波は解体

 

荒々とまかりつん出て見たきかな天地しらけきる世紀末の日

 

化粧声けしょうごえあつかましくも荒事の黄なる口真似口拍子かな

 

擦り足に我の間合いを拓くときまわりもおれも明らかに秋

 

「間接」を思い詰めにき「間接」は至上したたか強靱の手管

 

まなざしは水溜りなるかゆったりとかくも重たくも雲映すとは

 

反骨の意志はきちりと空に在る極度に黄なる上弦の冴え

 

へっぽこのちょうちん面を張りとばす以後旬日は何もほざくな

 

遊侠の人たりうべき骨格を実に背広に埋めて久しき

 

 

 


 

第三升 乱連射

 

弾倉が尽きるとともに衣川の命も尽きた───凶銃ワルサーP38

 

 

 

第一合 乱連射

 

 

緑林を蒼林をはた杳林を楚々と来たりてひらく一飯

 

《もともと》が《ますます》になる曲り角性根よじれもやや理屈めき

 

ああ日暮れ悪歌が良歌を駆逐してさても楽しきえんぴつの香や

 

《差を以て貴しと為す》驕雲は空にぴしゃりと雲らしからず

 

ひたすらの反骨として俺はただ縮みに縮むpicoのかなたへ

 

いかんとも安易な女化めかに添い難くひたぶるひとえわが乱連射

 

満月が「くわう」と吠えおれば山陰にばばじじたぬき寝られざりけり

 

破竹川傍流または棒流のささめ言聞け石の間間あいあい

 

空を切る予の直情の高邁のうす錆かかる片手撃ちかな

 

夕焼けよ奴には奴の所場がありああ猩紅の現状維持ステイタス・クオ

 

 

 

第二合 盤根錯節

 

 

俺は俺の方形に水を満たす肩先の破れから水が奔る

 

波に浮く俺の五体に接しつつやや傾ぎたる青アルゼブラ

 

腕を組む盤根錯節脚を組む怨恨錯綜神色自若

 

この雨の打っきら棒や棒暗記嘗める辛酸眺飲み干す苦杯

 

急にさ  急に飛び出す性癖さ鼠は決して月を見ない

 

一巻の五七五七七は人肌の経験主義的無原則なる

 

市に近き蛙の声のsing singしんしんとああいつまでも短歌みじかうたする

 

わが手には利剣、口には異見なく股間にかすむ沽券なりけり

 

俺はなあ生半尺なまはんじゃくに生き飽いてそぞろそろそろ頑なと化

 

間脳も明歴々に錆び初めてrevisionistに至る年代

 

 

 

第三合  意志はべら棒──五賀祐子「石にブラボー」に返す

 

 

《空には星》贅なき宴の尊さや《馬鹿を承知のこの渡世》にて

 

猿真似は自己存立のモロ否定歌い難きを歌い出さねば

 

ひっぱずせば鎧の下に赤滲み力戦などは知者はせぬという

 

大星を降り降りくる鉛直や又候またぞろ俺にひとつの痛み

 

夕焼けのちと荒くれし片急ぎ高波相次ぐ難破の時代

 

ゆくりなくも難行道に至りける形判らぬ極意も知れぬ

 

海に刺すキーのしろがね高澱みやおら差し込む海を開くべく

 

貴殿とは何の御縁ぞこのように懸け賭け駆けてせいいっぱいに

 

痛飲に徐々に矜恃の濁り立つ富士の白雪溶ける瀬戸際

 

世の中をくゆりくゆりとくゆらすかかかる折りしも意志はべら棒

 

 

 

第四合 黄色黄光

 

 

冬至の日長髪清くなびかせる君にささやく弓馬ゆめ物語

 

陽は往路  しばし東南西北の世をしみじみと見つめておらんか

 

落ち葉等の重なるほどのかなしさやいつしか登るふいの奥山

 

《極楽道》この世にたどる道ながらわが黄色おうじき黄光おうこうあれよ(松延謙次)

 

たやすくも便道に拠るやつらかな飽食の果て青白の星

 

矜りありて思惟にぼろりと欠けがある、中途偏頗の部分食である

 

がんがら、がんがらと行くかするすると行くかkillingの脚の長さよ

 

空は青 憂いあるゆえに備えざる朝まで踊るひとつ男心dancing

 

白昼月しろひるづき物憂ものうゆたゆた消光の手すさびなるや《驕》の錬金

 

凹凸の凸に明るき日差しにてわが人中を貶めにけり

 

 

 

第五合 悲しき癇癪玉

 

 

鯉こくの説話じみたる白びかり気圧はじょじょに下がるというか

 

半夏生口汚なくも新鮮に佳人がひとを謗る声する

 

史的過去を担いて食らう昼飯や間違えていない君も文弱

 

急々に瞋恚しんにが腹を通過する過敏性腸症候群なる

 

夕焼けの雲もとどろに吹き飛ばす過換気症候群に喘げり

 

別れんよ君の酒量も頂点ほどほどのふんべつヶ丘三番地にて

 

水量の増えざる川を歩むかな修羅夕焼けを caption として

 

頼むから《カラスの野郎退いていな》悲しいおれのたんかが通る

 

隠し持つ癇癪玉のその黄色ざらりごろごろわれのあらたま

 

悪しき日の病倒やまいだおれのシナリオのまがまがしき世を独り噛むねん

 

 

第六合  look&feel

 

 

あいつは  ひとり狂気の水槽にしずしずとある俺は刃を濡らす

 

晩春に、そう、気紛れの水潜り  片ただれたる男気ぞ佳き

 

剛愎は直りゃぁせんよ滔々と白水青水俺の上ゆく

 

九天の直下に俺を居座らせ俺は意を注ぐ俺の器に

 

碌々と川は流れて痩せ細り銀河に至り永久死する

 

女の横に古往今来纏綿と男はありき何と不調和

 

銀髪の海兵末期秀才の痩せて淋しき二時の酒なる

 

高男波たかおなみ俺こそ白きImpulseざざざと低く剥けもこそすれ

 

ぼくらは雲から学ぶ  力の起こりと力の末路を

 

《交叉》とは神変不思議なさまであるそのときその場出会い断絶

 

 

 

第七合 遊秋律

 

 

夏の尻美しい魔は俺を去りすず虫ちぢむ朝を残せり

 

村肝の思慕ひとむらは半殺し霖雨がせばめる俺の領域

 

淋太郎俺の中なる淋太郎初秋遊意にふるぼけるなよ

 

《瞬白》は求心力をもつゆえに本来的に芸術である

 

おお秋気ことのおこりは桐一葉告訴告発投書風評

 

鳥の音もっと響けよ奔放で緑が好きな僕等のために

 

味噌に糞和えて敢えなき夕べかな凶器の技に正気の値札

 

長々と日向に延べし三寸ぞ刀創もなきわが志

 

ずばり富士  ダイヤモンドは単結晶午睡一劫地底力神

 

驕風や美脚一対早朝の樹林の中にぬうと青きよ

 

 

 

第八合 侘月

 

 

侘月の下旬中空夕月の少し傾げる白の趣き

 

命運や空では雲の巴投げ白の噛み合う秋の変転

 

雪白の佳人清楚の胸元にスローでブルーなブローひと撃ち

 

夕焼けに赤犬吠えていたるかな「止めねえ聞かねえ黙らねえ」その貌

 

俺の気持ちを少し高ぶらせて帰って行った  やつはいいやつ

 

滅びゆく体たいの一部を占めながら両脛骨は錚々とあり

 

切れ長の愁いを持てばおそ秋の空の高さに涙るいの雲ゆく

 

ときどきはかさにかかりて物をいうこれが卑怯のはじめ?なるか?

 

己が頭をかるく叩きてみたるかな小判を猫に見せし不覚に

 

寡軍にて滅びしもの下手戦さしゃしゃららと降るはつ冬時雨

 

 

 

第九合 驕を限りの

 

 

夢に入り夢の色彩見飽きたるほの白の朝花は炎々

 

少年のこれぞ紅顔口笛にはやほそぼそと片恋宿る

 

こころもち疲れたままに音を拾う和音の中のその低い方だけを

 

あの仁も桜の枝の狭隘に《驕》を限りの命であろう(仙波龍英)

 

突風はどうと浚いてゆきにけり桜花一切Madonnaの屁も

 

快晴を鳥叫ぶ朝やがて時化  勝ってはならぬ鍔競りもある

 

高処より望めば川の銀刀に寒晩春さむおそはるの錵がかおるも

 

たとえれば受雷の刀とうの青細り豪語の果ての井々せいせいの愁

 

《幼》の日々わんにゃん眠るふる里にあさ緑揺れて深夜 流星

 

わたくしの双球体にやどりたる鎌倉、それの惜春の空

 

 


第四升 情動律

あまりにも背きそむきて世中の月と花とに又むかひけり───香川景樹

 

 

 

第一合 虚の父

 

 

鳥の声《りょうふりょうふ》は古来今  歌体に活けんふつつかの意思

 

父はblueただひとたびの強悍の赤をも鎮めとことわのblue

 

晩年の柔和温顔その下の不可視域なるmagma赤しも

 

固練りの夏かな既に鎌倉の寺の極みに蝉傾ける

 

夏空に返せ返せと鳥は呼ぶ吐けば帰らぬ呼気であろうに

 

暮れ明けのその間際なる覚め際や新涼にわか新寥となる

 

はつ風の心残りの一端は倒しきれざるその暈草くららぐさ

 

あき蝉に感じるものは何であったろう晩年米寿実体の父

 

虚の父の笑い嗜み気障衒い数の知れたるその虚数解

 

夏草や兵ならで去りしもののその兜緒の結び目のいろ

 

 

 

第二合 黄の位

 

 

年少の内に秘めたるもののふの起爆未遂をとどめおくべし

 

黄の位ながめながめる早春にふと垂下せる俺の一睡

 

げそり月なんだこれしきバイパスの妻の左手ギアを引き抜く

 

不図あげる額にひたと潰れたる雨の始まるその初しょ一滴

 

ロビンソン狂いそうなる四月午後ひばりりゅりゅりゅりゅ仰角高く

 

目薬の一滴ふかく沁みるとき記憶の皮がひときわ縮む

 

横溢かはた横着かしらねどもわたくし内に募るひとむら

 

父の手を握りかえして目覚めたるおおやわやわし父即是空

 

空棲くうせいの時代に俺は生き延びてようようひらり燕とはなる

 

おそらくは筑波の里の校庭にうなだれておる思春のジラフ

 

 

 

第三合 Survival Games

 

 

寸毫をpiconanoよと圧してゆくかく哀切の輪廻転生

 

困ったなあ不惑すぎての人未処理ひとみしりあげくの果ての人間儀礼にんげんぎれえ

 

ラッダイツ以来、技術は常に敵役日立製作 Tarzanの石

 

何の木だこの木ぼろぼろしかれども《ボロボロノキ》に強壮効果

 

春秋に富むとや珠玉総会の全天候型質疑応答

 

あわれ秋風  男が魚に涙するとぞ斯界必死に鯖威張るなり

 

あわれ秋風  汝こそは見つらめかの家の死ねず輾転反則のさまを

 

鯖威張るその尾の勢せいにゆくりなく脊柱反らすおれの仲秋

 

東京におれはいたのだろうかいやおれはただ傾いていただけだ

 

豪語佳き「K」特有の物語唖然の経緯依然の事情

 

 

 

 

第四合 純と粋

 

 

報復リベンジの高精密な段取りが四月の雲の雅量に懸かる

 

《純》にして《粋》なるものをたばさみて《猥》なる街を罷り通りつ

 

《猥》にして《雑》なる街に立ちすくみ《風》なるものに男さびおり

 

《風》にして《狂》なる歌のいくつかをひた捧げおり意中の美形シャン

 

《純》と《狂》しばしからめていたりけり朱あけゆう雲の奥のその朱に

 

岸柳はほうとやさしい岸柳はおお束の間を生きて果てたる(巌流とも書く)

 

くちなしの男結びの絶麗やわれの愁いの浚渫しゅんせつをこそ

 

ほころびてその後におうくちなしやMesよ救えよ押忍おすの悲哀を

 

とんがりや過度がわたしの命なら機能拡張エンハンスせん息のしどろも

 

わが意思に過剰伸展ありてより心はいつも憂愁ぶくみ

 

 

 

第五合 外連

 

 

《秋上がり》は碧波白波と及びけり予の六髄の隅の隅まで

 

予と椿の外連けれんが燃えていたること、願わくば、その、多分に漏れよ

 

風こそ緑りょくと朱の意気書いてよりあぶなの牙やわが正式儀礼プロトコル

 

ああ曙光かがやくような突出に張り極めたる左團次の見得

 

困ったことだ文化は山を造らずに暗溝を掘る至極陰微に

 

生智恵の夢の切れ切れなつかしや例えば胸に黒釉緑釉

 

今日の空は美しいけど少し変《論理は普遍情緒は特殊》

 

正と奇と或いは順逆陽と陰尭と舜との接続部分

 

古いなあ決定的に古いなあやつ渾身の著述だろうに

 

 

 

第六合 暗落暉

 

 

十月とつき余を温められてしかるのち別個ぞ母とそれの分身

 

観念の中に突然叫きょう一糸母の眠りのとことわとなる

 

もともとはわれも海の子この夜は二種の波音それぞれに聞く

 

西に向く路上にずだん暗落暉高気圧より空気零れる

 

そのかみの坊やの頃に見つめたる空の夕焼けそのへりの黒

 

思いきや我が手に母の髪洗うとは空前にして金輪際絶後

 

かつてわが十倍なりしかの母はわが一割の重みとなりぬ

 

怯えるなおまえの父は軽捷の香車なれどもまだ逝きはせぬ

 

胸板より汗誘き出す夏風をそのことゆえに寒々と見る

 

もともとはわれも母の子闇中に肺なきごとき俺の欠損

 

 

 

第七合 音の世界

 

 

この午後の離任のひとのため息をアイソレートの虹と名づける

 

われとわが左鎖骨に弓を当て古調哀調奏ずることも

 

生体の紫蘭 俺との結界まで凛然とあるきみの声域

 

春鳥の翼よくの作動を見果てたるぼくとあいつは音の世界へ

 

急暖気《傾杯楽けいばいらく》はほころびぬ余剰の爪と閏の牙に

 

ひとしきりふたしきりまで笙冴えぬ白木蓮の過剰叙情に

 

耳底にはかなしきものの残るなり季節はずれのかなかな  瑞夢

 

白虎吠え天空返す夜に向け滝壷は砥ぐ独心ひとりごころ

 

篠竹を吹けば振り向き振り仰ぐ口ではなせぬ音の加工に

 

うおうりゃああ男一期の恋痛に空ぴしぴしとひびわれにけり

 

 

 

第八合 不如意を開き

 

 

さるすべり凝固纏綿わだかまり光って揺れて白の収縮

 

嗅覚のために息砥ぐはつ秋や左右ふたつの細い流れで

 

雲に雲 接着すべき積極論雲が雲しか生めぬ世ならば

 

この朝は信天翁しんてんおうたいまんを押し斬るような歌になり候え

 

ひさびさに心よ伸びろ窓を開け、大気を開き不如意を開き

 

やむを得ず土を払いて立つときの無念の位置は下方鉛直

 

近点の極一点を思うとき先端に迫るあらゆる焦眉

 

藪から 棒を出すごとき短切の眼なりきしかして眼光なりき

 

おれという旅人すでに色乾く時の劫掠花はあだ花

 

しおらしや武門の意地に砕けたる颯々さっさつ楚々の獅子のくるぶし(上野彰義隊)

 

 

 

第九合 水色の史観

 

 

宿願の子細を惟うこともなし多くひと逝くこの夏と秋

 

晩秋の気体のきしむ夕まぐれ一通りなりわが哀憐の首尾は

 

水の味大気の味をわきまえてようよう知命さあれど乱秋

 

切崖に立ちて見下ろす水色や鳥瞰史観泡だちやすし

 

何ものぞ有難そうにわが知恵を損いながら駆けてゆきしは

 

ことさらの海の強風にわが族のへの字の口と一の字の口

 

波先にけむりけむりて見えぬもの現代とよぶ罪深きもの

 

海洋が人史を支配するというその強弁の凡そに諾す

 

海ごころ開いて閉じて閉じたまま祖を納めたる鎌倉を出る

 

海洋を概念として持つ耳の奥処にしかと本日の潮音