好きと不安が混じる・・好きなのに・・この気持ちって・・
第1話
何が欲しい?そう兄者に聞いた。
兄者は笑いながら「何もいらないよ」と言った。
だけれど、ちょっと真顔になって少し考えて俺に言った。
「お前は何かあるのか?」と・・・。
俺は欲しいモノがいっぱいある。
そう言うと兄者は少し困ったような顔をする。
「俺がいるだけじゃ・・ダメなのか?」
少し寂しげな兄者の顔が今も俺の胸に鮮明に焼き付く。
俺は不安なのだ。
兄者に愛されるようになってからというもの
俺は不安で仕方ないのだ。
兄者はみんなに優しすぎるのだ。
そこが兄者のいい所でありカッコイイ所でもある。
だが、俺だけに優しくして欲しい。
俺だけを見つめて欲しい、愛して欲しい。
もっと・・・もっと・・激しくと。
俺は我が儘なのかも知れない。
こんなに愛されて、しかも兄と弟の壁を越えてまで
愛してくれている兄者を・・・・。
もっと自分のモノにしたいなんて。
全てを・・・。
でも、そんな事、言えない。
こんな事を思いながら剣道の道具を揃える。
これから行く子供会の剣道の指導が億劫だ。
また、そこで兄者は多数の人に優しくされるのだ。
若奥様にだって・・・・。
こんな嫉妬みっともないのは解っている。
でも、でも・・・。
兄者は俺の気持ちなんか解っていないんだろうな。
そう思うと腹が立つ。
「俺は行かないからな」
そう兄者に言うと兄者は驚いて俺を見る。
「どうしてだ?」
「こんな一銭にもならないボランティア、俺はもうゴメンだ」
「何を言っているんだ?子供達が俺とお前を
楽しみに待っているんだぞ」
「知るかよ!俺は兄者みたいにお人好しじゃない!」
「一鍬、お前・・・」
昨日だって、いやその前だって
「疾風の奴らは元気だろうか?」なんて言う話しばかり。
俺の事をたまに話してよ。
キスしたり抱いたりする他に・・・。
俺はいつだって兄者の事ばかり話していると言うのに。
こんなに大好きだっていうのに・・・。
兄者のバカ・・・。
どうしていいか解らず俺は
兄者と剣道の道具を置き去りにして家を飛び出した。
行く当てなんか無いのに。
第2話に続く
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