科学にわからないことがある理由

―不可能の起源―

ジョン・D・バロウ (松浦俊輔 訳、青土社、2000)

 

「科学(自然科学)にわからないことがある」といっても、超常現象や超能力を信じたがる人がよく口にする反科学感情とは関係ありません。本書は科学そのものの原理的あるいは実際的な限界の発見・自覚の歴史と、一方では限界や不可能性ということに関する科学的探究の歴史を振り返ることにより、結果的に現代科学という信念体系の持つ最大の特徴を浮き彫りにしています。つまり、科学は自らの限界を自覚しているということ。というよりも、有りえないことや出来ないことを一つひとつ明確にすることによって、我々は科学をここまで進歩させることが出来たのです。

20世紀の相対性理論と量子力学、数学と論理学がたどり着いた、有限と無限、不確定性、不完全性などの認識を踏まえ、また現代の宇宙論とコンピューター理論や複雑性の科学などを援用しながら、科学のさまざまな意味での限界が明らかにされていきます。そして、科学の限界性の一端は、人間自身にその原因がある。人間という生き物の大きさや能力や、脳の特性や、一生の短さ。

それはともかく、自らの限界を定位することが出来るということこそ、科学の最大の武器なのです。

言語的パラドックスやありえない立体、時間旅行の可能性や、自由意思の理論的根拠など、古くからある不可能の問題にも新たな光が当てられます。