活動報告3

2001年4月〜10月


0. はじめに

グァテマラに赴任してから、一年以上の時が流れた。 ちょうど一年が過ぎようとしている頃に、かなり精神的に落ち込む時期が重なった。

赴任して以来、状況の把握や改善計画の立案、プロジェクトの実施など瞬く間に過ぎていった感がある。 しかしながらふと気づくと職場内で信頼できる人間関係を築けている場合が非常に少ないことに気づいた。 もっともそれは実は自分だけではなく、配属先の組織そのものが抱える問題でもあることにはかなり後になって気づいたのだが。       

新年度以降何人かの職員が教育開発局に新たに配属となり、赴任当初に比べ随分賑やかになったように見えた。 しかしながら、実際には人手が増えてもそれぞれが孤立して仕事をしていることには変わりはなく、 効率的に業務が行われるようになったわけでもない。いったい何が問題なのだろうか。

精神的に落ち込んだと書いたが、その直接の原因がある。

6月中旬に女子教育プロジェクト の一環としてプロジェクト参加7県の教育事務所による協議会がケツアルテナンゴ教育事務所の主催で実施された。 それぞれの県事務所で実施されているプロジェクトを紹介することによって問題意識や優れたアイデアを共有しようとする試みである。

この協議会そのものは非常に有意義な体験であった。詳細は後述するが、いろいろ考えさせられることの多い研修だった。 しかしながら、この協議会に参加することで明らかになったのは、各教育事務所によるプロジェクト推進の姿勢の違いである。

教育事務所全体の活動として教育の向上のために積極的に取り組んでいる県がある一方で、 一部の限られた人間だけがプロジェクトに関わり、やっつけ仕事のように活動している県もある。 残念ながらアルタベラパス県教育事務所は後者に属すると言わざるを得ない。 協議会における彼我の違いにはかなり大きなショックを受けた。
この違いは何に起因するのだろうか。

赴任当初から気になっていたのが、配属先事務所における相互のコミュニケーション不足である。 この点に関しては前任者(10-1)の報告書でもしばしば指摘されていた。 その対策として彼女があげていたのは月例会議の開催および月間予定表の作成、ファイリングによる統計資料等の共有化などであり、 同時に県教育事務所あるいはプロジェクトチームの一員としての意識を持つようにすることであった。

残念ながら、月例会議や月間予定表に関しては赴任以来何度も提案してはいるものの、ほとんど実施されていない。 ファイリングに関しては秘書によって管理されてはいるものの、共有化までは至らないままである。

以下では業務内容の概要を述べるとともに問題点とその原因を考えてみたい。

配属先組織図2001年度(前回報告分からの変更) 
1号報告書からの大きな変更点は、以下の通りである。

プロジェクト担当官および学校視察官が加わったことと、PRONADE(教育開発自主管理プログラム)の所管部局が OSCからUDEに移行したことに伴って、担当官が加わったこと、また、 国全体のプロジェクトとして体育教育に取り組んだことにともなって、体育教育担当官が加わったことなどがあげられる
  
1. 業務内容の概要

1-1 受け入れ希望調査票との差異

【要請理由】

地方分権化により、教育省県事務所の権限は強化されてきている。 こうした状況の中で、教育の量的・質的拡大を目指す様々なプロジェクトを県単位で形成を予定しているが、 まだ十分な体制でない。特に県独自の教育プロジェクトを企画・実施するにあたって、 地域の社会的・文化的な状況および地域社会の教育ニーズを的確に把握することが必要とされている。
【期待される具体的業務内容および求められる技術の範囲】
隊員は、カウンターパートとともに同地域の社会・文化的背景や教育に対するニーズなどの教育関連の調査、 県内で行っている教育プロジェクトのモニタリングやインパクト調査、費用便益調査などを企画・実施し、 県独自の教育プロジェクトの立案につなげてゆくことが望まれる。 社会調査等のフィールド経験および教育社会学等に関する知識を有することが望ましい。

 書類上の要請内容と実際の業務との間に差異はそれほどない。ただ、実際に期待される業務としては、 調査よりもプロジェクトの運営、評価に関する助言に比重が置かれている。 協力隊の募集時における職種は「社会学」となっているが、派遣先における職種名はAsesor en Planificacion(プロジェクト・アドバイザー) であり、プログラム・オフィサーとして他の教育事務所に派遣されている隊員と同じものである。

 この間の経緯に関して、前任者の報告書には以下のように書かれている。
「隊員募集時の職種としては社会学となっているが、実際にはプログラム・オフィサーと同じと考えてよい。 これはプログラム・オフィサーの欠員を社会学枠で補充したためである。 したがって、実際に期待されているのは教育関連プログラムの実施にかかわる業務である。」

基本的に後任であるため、通常であれば前任者の業務をある程度引き継ぐことになるのだが、 前任者の主要な業務の一つであった「女子教育協力」関連プロジェクト業務は、 プロジェクト枠組み内での派遣が隊員活動の幅を狭めてしまう可能性があるという配慮から、要請理由から外されている。

赴任当初、カウンターパートである教育開発局UDEの局長であるサマヨワ氏からは、 主要な業務として前任者の立ち上げたドナー間会議(アルタベラパス県教育諮問会議Consejo de Desarrollo Educativo A.V.) を継続して担当してほしい旨を伝えられた。
 前任者の主要な業務は、以下の通りである。
      
  • 教員研修プロジェクト(女子教育協力プロジェクト)
  • UDEの年間業務プランの推敲    
  • 他援助機関による援助プロジェクトの調整(ドナー間会議)    
  • CNR法によるクラス分析    
  • 他ONGによる朝食プロジェクトへの協力    
  • 数学分野における教員研修       

このうち赴任時点で継続していた業務は女子教育プロジェクトおよび援助プロジェクトの調整であり、 後者を引き継ぐことが期待されていたのである。

しかしながら、ドナー間会議による援助プロジェクトの調整は、赴任間もない隊員の業務としては荷が重く、 また、国際援助機関によるプロジェクトの調整業務にかかわることの、立場的な難しさから2002年3月に実施された会議を最後に 運営には直接携わっていない。

かわって立ち上げた業務が、県事務所による月刊情報誌の発行である。同任地の先輩隊員(11-3)の活動時、 広く点在している現地の学校に対して十分に情報が行き渡っていないことを聞いた。彼から示唆を受け、 情報を広く伝えるための情報誌発行と、それを利用した情報網の構築プロジェクトを立ち上げた。 この情報網によってドナー間会議を側面から支援することも可能になると考えてのことである。 現在に至るまでこのプロジェクトが業務の中心となっている。

あえて問題点を見いだすならば、現地のニーズを考慮しているとはいえ、 現地スタッフを巻き込んだニーズ調査などを経て立ち上げたプロジェクトではないことがあげられる。 このことが、いまひとつ事務所の支援体制を得られないことの一因となっている。

また、女子教育教員研修プロジェクトに関しては、前任者や専門家を含む関係者の助言により、 当初は距離を置いていたが、やはり事務所側としては後任という意識が強いことから参加を要請され、 2001年度からIndicadorとしてプロジェクトに対して評価、助言等を行っている。

1-2 配属先同僚の技術レベル

1-2-1 行政分野

 行政分野としては、主にプランニングと組織の運営体制および相互のコミュニケーションに問題が見受けられる。 しばしば文化的な要因によるものか、個人の資質の問題とされがちであるが、 行政システムの問題や組織の運営に未熟であることから来ている部分も多いように思われる。 地方分権化にともなう現在の枠組みのなかでの教育事務所業務が開始されてさほど時間がたっているわけではないこと および人員不足等を考えあわせると、仕方のない部分も多いのかもしれない。

 散見される具体的な問題およびその原因の分析から技術レベルがどのようなものかは推定できる。 以下は、主に教育開発局におけるその分析である。基本的にこれらの分析は、JICAによる1997年の報告書の分析枠組みをベースとし、 地域的、組織的特性を考慮にいれながら行った。

問題点 原因 対策
a. 教育事務所のイニシアチブの欠如 ノウハウの不足によるプロジェクト実施体制の不備
プロジェクトの必要性・重要性に対する認識不足
上位開発政策における優先度の低さ(中央政策の優先)
人材不足
b. 具体的な活動計画にそった中長期的な展望の不在 教育統計の不備
教育目標の不備
立案におけるノウハウの不足
c. ロジスティクス(物流)の不備 在庫管理を含む中長期的な計画の不備
各部局、職員間の連絡不足
予算の不足
d. 業務分担の非効率性 職員の不足と場当たり的な人材の投入
職員間の連絡不足
専門知識の不足
e. 省庁/部局/学校間の連絡不足 省庁/部局間のセクショナリズム
情報インフラの不備
情報システムの不備
情報の連絡、共有の必要性に対する認識不足


a. 教育事務所のイニシアチブの欠如

アルタベラパス県教育事務所におけるイニシアチブの欠如は、いくつかの大きな問題をもたらしている。 内戦の和平協定からの流れとして地方分権化が進められていることもあり、県教育事務所に対して多くのプロジェクトの実施が求められている。 しかしながら、人材、プロジェクト実施のノウハウともに不足しているため、全体にやっつけ仕事であることは否めない。

 原因としては人手不足のためそれぞれの能力を有効に活用できない等の問題も大きいが、 事務所としてどのような方針で教育を向上させていくかという全体的な方向性の不在が、もっとも重要である。 この方向性が存在しないため、プロジェクト実施の優先順位が、必要性や重要性に基づくものではなく、 国の政策か、資金の潤沢さ、運営のやりやすさなどによって決定されてしまうのである。

 また、アルタベラパス県では各国の援助機関による多くの援助プロジェクトが実施され、 前任者の手によってドナー間会議(教育諮問会議)が立ち上げられ、開催されてきているが、方向性の不在のため、 これらの援助プロジェクトの調整が難しいものになっている。

 こうした方向性は、一般に発展途上国ではトップの強力なリーダーシップによって決定されることが多いが、 もちろん弊害も多い。ちなみにアルタベラパス県ではほとんどこれが存在しないと言ってもよい。 こうした状況も、もちろん問題であるのは言うまでもない。

 したがって、教育事務所としてイニシアチブを発揮させるために必要なのは、行政機関である以上、 b以下の問題を少しずつ解決していくことによって行政に対する信頼感を獲得し、主導権を握っていくことである。 それが結果的に地方分権の実現へとつながるといえる。

b. 具体的な行動計画にそった中長期的な展望の不在

 ここで述べるのは国の政策にしたがった教育計画の展望ではなく(もちろんそれも重要であるが)、 必要性や重要性に応じて設定していく、プロジェクトの実現に向けた具体的な行動計画についてである。

 現在、「女子教育」プロジェクトに参加しながらしばしば感じるのは、モニタリングや統計データに基づく結果の分析が、 プロジェクト全体の改善へ向けた活動になかなかつながらないということである。 これはこうしたデータ分析が主に上位監督機関あるいはドナー向けのプレゼンテーション資料としか認識されていないことによる。 問題点を抽出するためとしてではなく、プロジェクトそのものに対する評価としてのみ受けとめられていることに問題があるのかもしれない。 たとえば、ある学校で進学率が際だって悪い、もしくは授業に生徒が参加していないという結果が出たときには、 様々な他の要因をあげることによってプロジェクトそのものの客観的な分析を困難にしてしまうということが、 プロジェクト実行チームの中においても見受けられるのである。

 ただ、一つ付記しておきたいのは、統計の不備が急速に解消してきていることである。 これはコンピュータによるデータ分析がグァテマラにおいて一般的な技術として定着しつつあることと、 全国規模の情報ネットワーク(主に教育指標についてのデータのみであるが)が整備されつつあることに由来している。

c. ロジスティクス(物流)の不備

 2001年度4月の時点で情報誌の発行に必要な印刷機の原板が途中でなくなった。 幸い他の部局に依頼して、事なきを得たが、5月、原板が補充されなかったばかりか、コピー機のトナーもなくなり、 他の部局においても同じような状態になった。 その際の職員の一人のコメントが、インクやトナーは残量がわからないから、無くなるまでわからないとのことだった。 在庫を置く予算的余裕がないのか、在庫という発想がなかったのか、ただのいいわけだったのかはわからない。

 とりあえず現在では、各々のプロジェクトに対して、月ごとにどれだけの物資が必要なのかの書類を局長に提出させて、 物流を管理しようとする試みが見られる。たまに開催される月例会議で局長が強調するのは物流面の改善であり、 たしかに以前に比べて改善の後は見られる。予算不足は相変わらずであるが。

d. 業務分担の非効率性

 職員の不足を補うために、場当たり的に人材を投入する傾向がある。 そのため、専門分野外であってもプロジェクトを担当せざるを得ない状況が多い。 現状を考えるとやむを得ない側面もあるが、業務に必要な情報さえも整備されていない場合が多く、 フォローも存在しない。中長期的な展望にたつ計画がないため、業務の見通しもたたない。 こうした状況により、職員のモチベーションを高めることができず、新規採用の職員の定着率の低さにつながっている。

e. 省庁/部局/学校間の連絡不足

 省庁、部局間のセクショナリズムから、相互の連携がはかりにくい。 また学校レベルでは電話などのコミュニケーション手段がないため、情報の伝達、業務連絡が困難である。(携帯の普及により改善傾向)

 そして、なによりも情報や知識を共有することの意識が低い。 しかしながら、情報や知識の共有に関する意識の低さについては、日本においてもそれほど差はないかもしれない。 ナレッジマネジメントという概念が知られるようになったのは、日本でも最近のことである。



 1-2-2 教育内容

 教育内容の技術レベルについて、特に基礎科目での質の向上という点においては、 県教育事務所あるいは教育開発局(UDE)の果たしている役割は現在、さほど大きいとは言えない。

 人員の不足に加え、必ずしも教員経験者が職員になるとは限らず、また、教員経験者であっても、 教育省や教育事務所が現在進めている参加型の学習法などの指導は、経験不足のため直接的な指導は難しいのが現状である。 また、研修担当官は2000年度以降、空席となったままである。(組織図参照)

  ちなみに、現在、教育開発局が主体となって実施している具体的な教員研修プロジェクトは、 「女子教育プロジェクト」による教員研修のみである。研修担当者はDIGEBI(二言語文化局)の行政官であり、 勤務しながら大学院で教授法を学び、その成果を研修に反映させている。そのため研修そのものは一定のレベルを保ったものにはなっている。


 参考までに教育開発局UDEが中心となって実施しているプロジェクトとその概要を以下に述べる 。

プロジェクト名称(ABC順) 概要
01 情報誌発行
Boletin Informativo
教育事務所と学校との間のコミュニケーションの改善を目的とした隊員の手による情報誌発行プロジェクト。詳細後述
02 就学前教育
(CENACEP)Centros de Aprestamiento de Educacion
次年度初等教育に入学する児童を対象とした修学直前教育。通常年度末に実施される。担当は局長補佐官。
03 公民教育プログラム
Educacion Civica y Valores
和平合意に沿った、人権意識と民主主義に基づく市民意識の形成を目的とした全国プログラム。 UNICEFの援助により、1997年から開始された。教室内で行われるさまざまな活動・討論を通して、子供たちの内面的な成長を促進し、 価値形成を促している。担当はPRONADE担当官。
04 女子教育
Educacion de la Nina
JICA/UNDPによる援助プロジェクト。UDE局長を中心とするプロジェクト実施チームによって遂行。詳細後述。
05 参加型複式学級学校プロジェクト
Escuela Activa Rural Multigrado
元々はUNESCOと、NGOであるASIESによって開発された、一教員学校(Escuela Unitaria)と呼ばれていたプログラム。生徒の自主学習を可能にする教材と参加型の教授法を用いて複式学級の効率的な運営をはかっている。(2002年度以降よりDIGEBIに移管)
06 音楽教室
Escuela de Musica
実技担当隊員(11-3)によって企画、実施。事務面での補佐として局長補佐、直接的な指導は県内の音楽教員が担当。
07 Escuelas para Excelencia 論理的な思考を身につけることによって、基本的な学習能力を開発するプログラム。ハーバード大学において開発されたモジュールを用い、SIMACが研修を行ってきた。教員研修校において、実施されている。教員養成校の教員が担当。
08 健康学校
Escuelas Pro-mejoramiento de la Salud
欧州連合との二国間援助機関であるAPRESALやPROASE、アメリカ平和部隊との協調による学校における健康分野改善プログラム。UDEは調整業務のみ。担当はUDE局長。詳細は不明。
09 図画工作および理科教材展
Festival de Artes y Ciencias
実技担当隊員および理科担当隊員によって企画。現在は職員の手によって実施されている。経緯と問題点についての記事を情報誌8・9月合併号に掲載。
10 インフラ整備
Gestion para Construccion de Infraestructura
インフラの整備にともなう申請の調整等。担当はUDE局長。詳細は不明。
11 理科教育改善プロジェクト
Mejoramiento del area de ciencia naturales
理科担当隊員(11-1)によって企画。彼女の執筆した実験ガイドを元にパイロット校で実践されている。以前の担当は参加型複式学級学校担当官であったが、実質的にはパイロット校の教員たちによって自主的に行われていた。現在はプロジェクト担当官が担当。研修についての記事を情報誌4月号に、UDE局長によるコメントと教員による反響を5・6月合併号に掲載
12 PAIN (Programa de Atencion Integral a ninos menores de seis anos) 六歳以下の幼児や妊婦およびその家族に対する学習の動機付けをはかる国家プロジェクト。
13 教育開発自主管理国家プログラム
El Programa Nacional de Autogestion el Desarrollo Educativo
公立学校のない集落に仮設教室を設置し、教員を派遣することによって、僻地への初等教育拡大を目指す国家プロジェクト。1993年に開始された。それぞれの学校は自主管理学校Escuela Autogestionと呼ばれ、委託されたNGOが運営を行う。県事務所は調整業務のみを受け持つ。アルタベラパス県では公立学校を上回る約700の自主管理学校が存在する。2001年度以降コミュニティ・サービス局(Oficina Servicio Comunitario)よりUDEに移管。
14 理数科オリンピック
Olimpiada de las Ciencias
理数系分野の成績向上のための動機付けを目的とした全国プログラム。学校単位で参加し、獲得したメダルの数を競い合う。アルタベラパス県では2001年8月に開催された。結果については情報誌8・9月合併号に掲載

1-3 隊員の配属先での位置づけ

 1-3-1 隊員の位置づけ

 基本的に教育開発局では、上記の業務をそれぞれの担当者が単独でこなすというのが基本的な形態となっている。 チームとして動いている業務は非常に少ない。隊員の勤務形態も同様である。

 1-1で既に述べたように、現在の業務は主に三つに分けられる。このうち、ドナー間会議は2001年4月以降、 会議にオブザーバーとして参加するのみで、運営には直接関わっていない。

 情報誌の定期発行を中心とする情報網の整備プロジェクトに関しては、ほとんど隊員が単独でこなしている。 記事そのものは隊員の依頼に応じて局長をはじめとする職員が執筆しているが、記事の編集は隊員の手によるものである。 詳細は後述するが、現時点では残念ながらうまく職員を巻き込むことはできていない。もちろんカウンターパート的な存在もいない。

 「女子教育協力」における教員研修プロジェクトにおいては、主に研修への参加と助言、指標を用いた評価などを担当している。 この業務に関してはチームの一員として仕事をこなしているといえるが、実際面では、あまりチームとして機能していないうえ、 通常はこうして欲しいとの要望もあまり要求されることがない。プロジェクトの指標・評価担当として想定される業務を自分で設定し、 こなしていくのが基本的な姿勢である。

 時折感じるのが、ある種政治的な「飾り物」として、隊員の存在を利用しようとする教育開発局長の意図である。 3月以降、ドナー間会議からの直接的な運営から手を引いたきっかけも、これに絡んでのことである。 会議の運営にJICAの人間が携わっているということで、なんらかの援助を期待されてしまうことは避けられない。 以前大使館によって実施された草の根無償による小学校建設のフォローを求められたこともあった。 隊員としての活動上、こうした方面に対する援助には限界があるため、以後オブザーバーとして本会議に出席する範囲にとどめている。

 女子教育プロジェクトの研修に参加するようになったのも、実施チームにとって評価担当に「JICA関係者」が名前を連ねていることで、 プロジェクトの権威付けになると判断されたことが大きいと思われる。 3月の研修ではJICA関係者としてプロジェクトについて教員に向かって話をするように求められた。 ここで問題となるのは、このプロジェクトの傾向として、教員の動機付けにJICAの名前を利用しようとする姿勢があることである。 暗に教員に対して援助の期待を持たせつつ、海外からの援助プロジェクトであることでプロジェクトに参加することに強制力を持たせようとすることが、 しばしば見受けられる。このプロジェクトの問題点として既に指摘されている行政に対する教員の不信感をぬぐい去るためには、 教育開発局がプロジェクトの進行に責任を持つことが肝心であり、上記のような姿勢はどちらかというとマイナス要因でしかないと考えられる。

 この件については女子教育関連の専門家を通じて、 このプロジェクトが基本的に教育開発局によるプロジェクトであるという意識を持ってもらうような話がなされたので、 以後、表だってJICAの名前がこのプロジェクトのなかで出てくることはあまりなくなった。 もちろん、JICAの名前を権威付けに利用しようとする意図を逆手にとって、自分の活動をやりやすいように持っていくことも可能だとは思われるが、 そこまでの駆け引きとそれに要する語学力は残念ながら自分にはなかった。

 業務上オフィスワークが中心となることもあり、基本的には机に座り、コンピュータの画面に向かって一日が終わることも多い。 そのため、他の職員とのコミュニケーションが少なく、孤立しがちであるのも難点の一つである。



 1-3-2 教育分野におけるプログラムオフィサーの活動について。

 5月から6月にかけて同事務所配属の小学校教諭隊員(11-1)の研修に多く参加することができた。 その際にプログラムオフィサーと教科教育隊員の協力の方向と可能性について多くのことを話し合う機会を持った。

 この隊員による理科教育改善プロジェクトは、選定したパイロット校で継続的な研修を行い、 実験等を用いた生徒の参加を促す授業を定着させようとするものである。

 当時、問題であったのが、パイロット校の状態である。コバンでももっとも歴史のあるこの公立学校では、 市の中心部に近い学校にある学校の通例として、年輩の、経験の長い教員が多く働いており、新しい教授法を受け入れにくい状態にあった。 また、比較的若い校長は非常に教授法の改善に熱心であるが、年輩の教員たちとの間に溝があり、潜在的な対立関係にあった。 同隊員の研修においては、以前からも存在していたであろうこうした対立が顕在化し、隊員の業務進行に大きな妨げとなった。 ちなみにパイロット校の選定はUDEの局長の個人的な繋がりで行われたものであり、教員等の必要性に応じたものではなかった。

  研修の実施後、教員の動機付けを強化するためと将来的に他の学校へ研修を拡大するための宣伝を兼ねて、 取材とアンケートを実施し、教育事務所の情報誌に記事とともに各教員の意見を掲載した。 継続的に行えば一定の効果が上げられたと考えられるが、残念ながら、6月末を持って同隊員の活動が終わり、以後は特に関与していない。

 こうした経験により、プログラムオフィサーとして可能な教科教育隊員との業務分担としては以下の活動が可能だと考えられる。

@ 教員のニーズの調査
A パイロット校の効果的な選定
B 定期刊行物による広報活動および教員間の意見の集約と問題意識の共有
C パイロット校間の教員たちによる意見交換の場の設定
D パイロット校での活動のより広範囲な拡大に向けての教員の自主研修プログラムの策定
E 隊次間にまたがる隊員活動の継承を目的としたHPおよびMLの活用(詳細は後述)
 
@およびAの活動は深く関連しあっているといえる。例えば、隊員の活動において大きな障害となったのが、 パイロット校の性格とその位置づけである。一般にグァテマラの地方における教育行政は地方部Ruralと都市部Urbanaに区分され、 伝統校であることが多い都市部の学校には、比較的経験を積んだ年輩の教員が多く勤務する。また一クラスあたりの生徒の数も多く、 生徒個別の指導が行き届きにくい場合も多い。反面、比較的裕福な家庭の師弟が多く、 また保護者の教育に対する意識が高いというメリットも存在する。

 パイロット校としての最大のメリットは事務所に近く、継続的な授業観察とそれに基づく授業指導が行いやすいという点にあるが、 反面、教員はそれなりに経験を積んでいて、新しい教授法の導入に不熱心である場合が多い。 理科教育改善の導入に当たって、どのような内容の改善指導を行うかという方針と教員とのニーズをつきあわせた上で、 より効果の出やすいパイロット校を選ぶべきだったというのが、このプロジェクトにおける問題分析であった。

 プロジェクトの策定におけるニーズの把握の重要性は、つとに言われ続けていることであるが、 隊員の活動に置いては、しばしばなおざりにされることでもある。こうした活動を積極的に行う職種として、 プログラムオフィサーを配属することは効果的であると考えられる。 ここで重要なのは隊員側によるニーズの把握ではなく、配属先にニーズを把握させることである。 この点において教科教育隊員によるニーズ把握とは異なる視点によるプログラムオフィサーの独立した活動が存在することが望ましい。

 また、既にプロジェクトの策定が終了し、実施段階に入っている場合においても効果的な活動は可能である。 教員に対して研修を継続的に行う場合にしばしば見られるのが、 参加教員の満足度を高めるために常に新しい技術や方法を提供し続けなければならないと考えがちになることである。 教員のニーズに応えようと、誠実な姿勢をとろうとすればするほど、こうした状況に陥りがちになる。 理科の実験のように、数多くの実験を提供しながら実験の大切さを伝えようとする場合には、さほど問題にならないが、 教科によっては一つの技術の定着を図るためには、あまりあれこれと指導するのは逆効果になることも考えられる。 こうした場合に有効だと考えられるのが、BもしくはCとして挙げた活動である。 一つの技術を様々な方向から検討し、その実践に当たって起こりがちな問題を他の教員と共有していくことができれば、 その技術の定着度は非常に高くなることが予想される。 最終的にDに述べたように教員の自主研修グループを組織できるまでにいたれば、 研修プロジェクトとしては成功した部類に入るといえる。

 以上述べたように教科隊員とプログラムオフィサー間の協力によって、 教員研修プロジェクトをより効果的に運営することは十分可能であると思われるが、重要な問題が存在している。 そもそも、専門が異なることの多い異業種隊員間の協力体制が容易に成立するかという点である。

 効果的に業務を分担するためには、具体的な業務内容と、それぞれの役割をあらかじめ明確にしておくことは必須である。 しかしながら、隊員活動の性格上、こうした縛りは活動を制限してしまう恐れがあり、 受け入れ組織の実状に会わせた業務の変更という手段をとれなくしてしまうことが考えられる。 これは協力隊派遣状況の現状を考えると非常に大きなデメリットとなる可能性もあることも付記しておきたい。
1-4 業務上の障害と対策

1-4-1 業務上の障害と対策

1-2で述べた業務上の問題点はいずれも隊員活動とも関わりの深いものである。 ここでは上記の表に原因としてあげたそれぞれの項目を考慮に入れながら、 想定される解決方法あるいは実際に行っている対策および問題点を考えてみたい。

a. 教育事務所のイニシアチブの欠如
 上記の表(1-2-1)には、@ノウハウの不足によるプロジェクト実施体制の不備、 Aプロジェクトの必要性・重要性に対する認識不足、B上位開発政策における優先度の低さ(中央政策の優先)、 C人材不足、を原因として挙げた。

@ @の不備を補うためには、実際にプロジェクトチームを編成し、 プロジェクトを実現させていくなかで具体的かつ詳細にノウハウを伝えていく必要がある。 現在、教育開発局で行われているチーム編成のプロジェクトとしては、女子教育教員研修パイロットプロジェクトおよび図画工作展がある。 前者のプロジェクトの隠れた目的の一つに、プロジェクトを担当させることによってプロジェクト遂行のノウハウを伝え、 教育開発局におけるプロジェクトの立案および遂行能力を強化することが挙げられている。 しかし、残念ながら担当隊員の当該業務に対する経験不足もあり、隊員による技術移転は、 主に指標を使ったデータ分析とモニタリングによる研修の改善という点にとどまっている。

  これに対して、同事務所派遣の小学校教諭隊員(11-3)によって企画された図画工作展においては、 第一回こそ隊員の手によって実施されたが、第二回目以降は職員に引き継がれ、隊員は実施におけるアドバイスを行っている。 こうした形での実践的なノウハウの移転こそが、プロジェクト実施体制を整えるために必要なものだといえる。

A  必要性・重要性に対する認識不足を補うためには、現場の教員たちの意見を汲み上げることがなによりも重要である。多くのプロジェクトが実施されては数年とたたず姿を消していく背景には、政治的、予算的な事情だけではなく、現地での実施側(プロジェクト実施担当者だけではなく教員を含む)に必要性・重要性に対する認識不足があることは否めない。これに対して、常に現場の意見をフィードバックすることによって、現場のニーズを把握し、それぞれの必要性・重要性に応じてプロジェクトを進めていくという姿勢を持つことができれば、状況は改善されると思われる。

 現在アルタベラパス県教育事務所で発行している情報誌には常にアンケート用紙が添付され、教員が意見やコメントを述べる機会を提供している。情報誌には教育事務所が実施しているそれぞれのプロジェクトの現状や成果および問題点などをできるだけ掲載するようにし、それぞれのプロジェクトに対する意見は読者欄に掲載している。こうした試みは読者には非常に好評であるが、事務所内での反応の程度はいまだ高いとは言えない。

B  ここで「上位開発政策における(必要なプロジェクトの)優先度の低さ」と述べているのは、1-2で述べたように、「プロジェクト実施の優先順位が、必要性や重要性に基づくものではなく、国の政策か、資金の潤沢さ、運営のやりやすさなどによって決定されてしまう」点に対してである。もちろん、これは地域の必要性や重要性において優先順位が決定されるべきである。

 教育行政の地方分権化は世界的な傾向であり、同時に内戦の和平合意に基づいた施策であるが、ここで注意したいのは、地方分権化の目指すものが基本的に地域の実情にあった行政サービスの向上にあることである。従って地方分権化によって地域の行政サービスが向上されなければ、地方分権は意味が無いことになる。その意味で、現時点では県教育事務所が県の内外で実施されている様々なプロジェクトのイニシアチブをとっていくことは難しいかもしれない。

 しかしながら、現在アルタベラパス県には前任者の手によってドナー間会議(教育諮問会議)が開催されており、今後地方分権化にそった地域の実情にあわせた援助を実施するに当たっては、この会議が有効に機能することが期待される。そのためには地域の実情を汲み上げ、データとしてこの会議場で提供できるシステムが必須である。

 当初、教育事務所発行の情報紙にこうした機能を付与することを考えていたが、情報誌の主要な読者である各学校の校長たちのニーズに編集方針をあわせていくなかで、目的を限定する必要性から、ドナー間会議に関する情報は創刊号を除いて掲載していない。

 できれば、各援助機関の援助プログラムの実施状況や申請条件を明記した広報誌を、年度ごとでかまわないので発行することが望ましい。また、データの収集に関しては、各学校ごとのデータベースの作成を考えたが、作業のあまりの膨大さに断念した。可能であれば、年間の広報誌に調査票をつけ、各学校の状況を調査、データベース化し、どのような援助を必要としているかを把握するようにしたい。単なるデータベース・システムとは異なり、各援助機関が援助計画を策定しやすいようなフォーマットを作ることができれば、データを有効に活用することが可能となるだろう。

b. 具体的な活動計画にそった中長期的な展望の不在

@ 教育統計の不備
 教育統計の整備に関しては現在、国家的な規模で改善が進行中である。将来的には地域的な教育関連データを集めていくことが望ましい。上記のドナー間会議と関連づけた学校単位のデータベース・システムの構築ができれば言うことはないと思われる。

A 教育目標の不備
 基本的には教育省の進める教育改革Reforma Educativoを地域の実情に合わせて実現していくことが必要になってくる。
 ここで必要なのはくりかえし述べるように地域の状況を把握することである。この際の調査項目は、各援助機関によるプロジェクト策定を念頭においたものとする。同時に実施が予定されているプロジェクトを「教育諮問会議」によって調整できるシステムを構築することが必要。これは「教育諮問会議」が、資金源を持っていることで可能になると思われる。また、情報誌添付のアンケートに掲載された教員の意見を、教育事務所の政策にフィードバックしていくことも可能だろう。

B 立案におけるノウハウの不足
 前述a-@参照

c. ロジスティクス(物流)の不備

@ 在庫管理を含む中長期的な計画の不備
 あらかじめ各プロジェクトに必要な物資を書類として提出するようになっているが、それでも予算不足のため、物資を受け取ることができない場合が多い。予算不足を理由にして、調整作業を怠りがちなのではないかと少し疑っている。もっとも予算が絶対的に足りない中では、調整もなにもあったものではないことも確かではあるが。
 予算計画そのものは部署が違うため、関与しにくい。現在行われているようにあらかじめ必要な物資をリストアップする以外、対策はとくに今のところ無い。

A 各部局、職員間の連絡不足
 定期的な会議の開催が必要。しばしば開催日時がずれたり、なくなったりする。こうした問題は早急に解消する必要がある。

B 予算の不足
 現状では隊員レベルではいかんともしがたい。

d. 業務分担の非効率性
@ 職員の不足と場当たり的な人材の投入
 職員不足の解消は隊員レベルでは難しい。不適切な人材配属も人手不足に起因する場合が多い。
 不足しがちの人材を補うためには、CTA(行政技術調整官)や教員を活用していくようにしなければならない。そのためにはプロジェクトの実施に当たっては、極力チームで動くようにし、ファシリテーターとして動ける教員を養成していくことが必要になる。

A 職員間の連絡不足
 プロジェクト業務の引継もなされないままの退職や配置換えが、しばしば見られる。業務遂行に必要な情報およびノウハウを共有できるようにしていく必要がある。改善に向けてプロジェクトの進行状況を誰でも把握できるように、情報誌においてはプロジェクトの進行状況記事の掲載を心がけている。朝礼の実施も考えたが、派遣国の文化にそぐわないように思われたため、提案は見送った。

B 専門知識の不足
 専門知識はあるにこしたことはないが、現状では専門的な知識よりも、業務遂行に必要な情報を蓄積、共有したうえで活用するようにすることであろう。その意味で対策としてはこれまで述べてきたことと重なる。

e. 省庁/部局/学校間の連絡不足

@ 省庁/部局間のセクショナリズム:  対策は困難

A 情報インフラの不備: 電話や郵便網などに関しては、対策は困難。

B 情報システムの不備
 既にaからdまでの項目で述べてきたこと以外では以下の活動が考えられる。

  • 定期刊行物を増やす
  • メールボックスの設置


 メールボックスの設置に関しては現在計画中である。詳細は後述する。

C 情報の連絡、共有の必要性に対する認識不足
 情報の共有の必要性に対する認識を高めるためには、上記のような問題分析を、できれば職員とともに行い、 対策を考えていくことから始めることが理想的であった。 プログラムオフィサーとしては、これらの分析をPCM等の開発手法を用いながら実施することにその本分があるといえるが、 そのためにはPCM等の知識および語学力はもちろんのこと、卓越したコミュニケーション能力が要求される。 残念ながら筆者にそれがあるとは言い難い。地道に情報の共有がどのような場面で有効に機能するかを示していくよりはないと、 現在は考えている。



 1-4-2個人的なレベルでの障害と、その解決

@ 隊員側の資質と姿勢
 基本的に問題の解決にあたって個人的な資質に由来する問題分析は自他共にあまり有効なものではなく、かえって弊害を引き起こすと考えているが、それでもいくつかの点で考えざるを得ない部分はある。具体的には他人を巻き込むことの難しさである。資質、経験、語学力いずれも不足していると言わざるを得ない。長い研究生活に由来する社会経験の不足は否めない。また、具体的な開発手法等の技術もない。ただ、そうはいいながらも常に自分が何を意図して何をしようとしているのかは文章にしてでも極力他の職員に伝えようとしている。理解力と想像力に富んだグァテマラ人なら理解可能だと信じる。もっとも理解力と想像力に富んだグァテマラ人は日本人と同様、あまり多くはない。私自身もそうである自信はない。

A 語学
 語学については未だ問題が多い。隊員活動を進める上で最大の障害と言っていい。特に会話に問題がある。そもそも普段の日本語の言い回しがあまり平易なものではないこともあって、簡単な表現を用いた意志疎通の訓練があまりできていないのかもしれない。難しい表現を用いた意志疎通も語彙が足りないのでもちろんできないが。

 対策として、考えたのが語学学校に通うことである。この間の経緯については日記の文章をそのまま掲載する。日記の抜粋の方が状況がよくわかると思われたからである。結果的にこれをきっかけに地元になじめるようになっていった。語学の実力はあいかわらずだが、以前ほど気にならなくなった。もっとも、それがいいことなのかどうかはよくわからない。


 語学学校が僕にもたらしたもの(2001年7月2日分「日記」より抜粋。執筆は7月下旬)

「6月はいろいろあって、精神的にはどん底であった。直接的にはカウンターパートをはじめとする教育事務所の人たちに信頼感を持つことが難しいと感じたことによる。はたして誰のために自分は働いているのかという基本的な問いに答えることができなかった。自分の働きによって、向上しているものがあるのだろうか。受益者の顔が見えない。

 体調を壊していたせいもある。水のような下痢便と卵の腐ったような味のげっぷ、くさいおならが数週間続いている。典型的なランブル鞭毛虫の症状である。

 語学はなかなか上達しない。先月、近郊の隊員たちとはじめた単語の勉強会もなんだかほったらかしになってしまった。

ふと、誰かグァテマラ人との間に信頼できる関係を築いてきたかどうかを考えて、愕然となった。とりあえず、根本に横たわるのは語学の問題である。語学のレベルうんぬんではなく、スペイン語を話すことそのものを回避しようとする傾向が出てきている。とりあえず、状況の改善のためになにかするべきだと考えた。グァテマラ人が誰も信用できなくなる前に、この国のすべてを嫌いになる前にである。

 僕が選んだのは語学学校に通うことだった。赴任当初の語学訓練以来、短期では何度か受講してきたが、今回の目的は地元における人間関係の形成である。職場以外でいろいろ話せるグァテマラ人の知り合いがほしかった。表面的な人間関係を築くのはこの国では簡単である。そうではなく、まじめな話がしたかった。

 この日が新しい学校では初めてのスペイン語クラスである。目的が先生との良好な関係を築くことであったので、どんな先生か気になっていたが、まず合格。先生らしい先生でほっとした。

 なんだかんだいって、僕は学校という場所が好きであるらしい。いわゆる勉強 というものはあまり好きではないが、先生という存在も嫌いではない。自分が先生になって人にものを教えるのはもちろん大好きである。

 かつて学校を避けていたのは、なぜかを考える。一時期、僕はあまり学校に行かなかった。学校のある種の機能を僕は我慢ができなかったのだと思う。それは学ぶという行為を疎外するもののようにしか僕には思えなかった。それは一方的に評価され、選別されるということだったかもしれない。それは本来自分自身の手によってのみ行われるはずの行為である。イヴァン・イリッチの脱学校論に惹かれた理由も今ではよくわかる。

 学習するという行為は本来、楽しくわくわくさせられるものである。その行為を共有することを通じて僕はこれまで周囲の人間関係を築き上げてきた。そのことを僕はこの国に来て忘れかけていたかもしれない。」


B 隊員の活動に対する教育事務所側の無関心と無理解

 仕事をみつけだすのはどんな場合でも可能である。しかしそれが果たして誰に対して有益な活動なのかが問題となる。教育事務所、というよりは教育開発局長の姿勢に、隊員を(自分の)権威づけに使おうとする傾向があることは既に述べた。もちろんこれは語学もろくにできない隊員を少しでも役立てようとする彼なりの意図に基づくものかもしれないが、隊員の活動が教育分野の向上をめざすものであるかぎり、カウンターパートである局長のこうした姿勢はあまり好ましくない。

 赴任当初から現在まで、書類上のカウンターパートである教育開発局長から具体的にこのようなことをやってほしいという要望はほとんど聞くことがなかった。どちらかというと隊員がなにか独自のプロジェクトを実施してくれて、それによって教育開発局の存在意義をアピールできるならありがたいという姿勢だろう。人手不足とあいまって、局長のこうした姿勢は隊員の活動に職員を巻き込むための障害となっている。

 しかしながら、隊員の活動に関心をしめす人は、教育事務所内外にある程度は存在しており、これらの人々を巻き込むことは可能だと思われる。
 
C カウンターパートの不在

 上記の問題解決にあたって、大きな力になるのがカウンターパートの存在である。少なくとも個人的な障害の大部分はカウンターパートの存在によって解消されると思われる。
 実際の活動にあたっては、女子教育プロジェクト関連業務は、教育開発局の秘書を実質的なカウンターパートとして活動しているが、情報誌発行プロジェクトに関してはカウンターパートはおらず、継続にあたって大きな障害となっている。

 しかしながら、より優先順位の高いと思われる研修担当官およびカリキュラム担当官が欠員となっている現状を考えると、どこまで自分の活動の優先度を上げるよう交渉するべきかは迷うところである。

2. 支援体制
2-1 支援経費の使用計画

 支援経費の使用に当たっては、できるだけの注意を払っている。基本的には支援経費を申請しない方向でこれまで働いてきたが、業務の中心を占める教育事務所情報誌の発行に必要な紙やトナー、インク類を確保するのに、非常に苦労をしてきている。支援経費に頼った発行は継続性に難があると考えたからであるが、正直のところ、どこかの援助に頼らなければ、継続的な発行は難しいと考えている。
 また現在、情報誌の発行に関連して、その配布システムの改善のためメールボックスの設置を進めている(後述)。このメールボックスの発注に関しては教育事務所とJOCV事務所との折半で予算交渉を進めた。
 


2-2 その他の支援(草の根無償等)の必要性

 草の根無償支援に関しては、隊員の立場としていろいろ悩むことが多い。というのは教育諮問会議において、しばしば日本側の援助窓口として見られることが多く、隊員活動の性格上、それがあまり好ましくないと考えられるからである。
 今後、教育諮問会議が、地方分権化にともなって重要性を増していった場合には、あらためて大使館等から直接窓口担当者が参加するといった方向が望ましいと考えている。



2-3 活動期間延長の有無と後任の必要性

 年齢的な問題があり、活動終了後は急ぎ帰国し就職活動を行う必要がある。そのため現時点では活動期間延長は考えていない。

 後任についても特に要請は行わない。必要性が無いわけではない。今後地方分権化が進んでいく中で、二代にわたる社会学隊員が立ち上げた教育諮問会議および情報誌発行プロジェクトはその重要性を増していくと思われる。そのため、継続し発展させていくことが重要だと考えられる。そのような状況ではあるが、配属先の受け入れ状況が非常に良くないため、後任要請を見合わせている。また、状況的に後任に要求される水準が高く、隊員レベルで要請に応えることが難しくなってきていることも理由の一つである。



2-4 JOCV事務所による隊員活動の支援について

 隊員活動における支援においては、金銭的なもの以外の比重は意外に大きい。具体的には隊員活動の継承に関する部分である。 

 今後は隊員による技術やノウハウの継承および知識の共有を進めていく必要があると考えられる。具体的には隊員報告書の公開、他国派遣隊員の報告書の閲覧、分野別分科会の設置とバックアップ、ホームページやメーリングリストの活用などが考えられる。これらの手法についてはナレッジマネジメントの分野における蓄積があり、その導入が可能だと考えている。

 ホームページおよびメーリングリストの活用については既に教育分科会の活動において提案済みである。ただ、参加者の意識に温度差があるためと提案者の多忙のため、現在の活動は停滞気味である。
ちなみにホームページについては隊員OBによって運営されているネットワーク内に既に設置済みであるが、設置にかかる費用は個人負担である。
 今後、この分野におけるJOCV事務所の理解と支援を強く希望する。

3. 業務記録概略(2001年4月〜10月)
                                          
2001年4月2日 ボレティン(県事務所発行の情報誌。詳細は前回の報告書にて既述)発行。コピー機や簡易印刷機のトナーがなくなり、他の部局に頼み込んで印刷。かろうじて当日に配布が出来た。
4月中旬〜下旬 4月はセマナサンタがあり、この時期は業務が少ないだろうと考え、任国外研修に出かけた。実際は非常に業務が多く重なり、後で苦労した。特にこの時期にCTA事務所の状況調査が行われたにもかかわらず、参加できなかったことは今でも悔やまれる。元々、この時期を考えたのは学校を見て回るためであり、当初の予定ではコスタリカのドイツ系私立学校に勤務する知人の案内で、いくつかの学校を視察してまわることを計画していたが、行き違いから結局現地では会えず、大幅に予定を変更せざるを得なかった。また、ニカラグアに寄る予定が、見積もり額が制限を越え、再度の提出がかなり遅くなった結果、ニカラグア抜きのプランを提出せざるを得ず、ニカラグアに立ち寄ることができなかったことも残念なことの一つである。しかしながら、任国外研修そのものは非常に良い経験だったと思う。中米各国の中におけるグァテマラの社会経済的な位置づけを実感できたことは非常に大きい。他の中米諸国と比較しうる視点を持つことができたのはこの経験による。グァテマラへの赴任が決まるまで、中米各国の位置さえもろくに把握できない状態であったことを考えると、実感を伴って周辺の各国の状況を思い浮かべることができることは、研修の非常に大きな利点の一つである。なかでも、中米における望ましい発展モデルとして語られることの多いコスタリカの状況を知ることによって、先進国の援助の具体的なイメージがつかめたことはよかった。同時に高度消費社会に組み込まれていく中でコスタリカの社会に先進国と共通の課題が散見されるようになっていることは印象深く感じた。
5月上旬 印刷機原板が届かなかったので、ボレティンを発行することができなかった。 このこともあって物資の供給を含む改善案をUDEに提出することにする。 この頃から理科教育担当の隊員(11-1)の研修活動にこれまで以上にかかわるようになった。 ボレティンを発行できなかった屈託もあったが、ボレティンを用いた理科実験教育に対する啓蒙の可能性を探る意味もあった。
5月7日 UDEの遠足。ヨーロッパ系の環境保護NGO、プロジェクト・エコ・ケツアルの、チャメルコにあるケツアル保護区へ出かける。
5月11日 理科担当隊員の研修に参加。
5月23日(水) 理科担当隊員の研修に参加。
5月25日(金) ドナー間会議
5月29日(火)〜6月1日(金) チャメルコおよびチセックで教員研修。この研修からモニタリングに時間を多く割くようになった。 ただし、授業観察まではいたらず。聞き取りが中心である。 29日のチャメルコにおける研修では、実技系教科担当の隊員も参加し、図画工作授業の重要性と、身の回りのものを用いた具体的な実践例についての講座を開いた。 また、この研修では教材および物資を配布した。 紙や模造紙、文房具などの教材と教員向けの鞄等。物資の配給によって教員の参加を促進することはこの国では良く行われる。 実際、一部の教員の反抗的な姿勢はこれでかなり収まった。現金な気もしないではないが、現状を考えるとしかたのない部分もあるかと思う。
6月上旬 先月来発行できずに遅れていたボレティンを発行。理科担当隊員の研修に対する評価記事を掲載。 女子教育の教員研修に多くの時間を取られてしまったため、土曜日に出勤してサマヨワ氏とホッチキス止め。 この月のUDE会議(5日)で改善案を提出。
6月6日(水) ツクル、ラ・ティンタ方面へ実技担当隊員の録音についていく。 ボレティンの配布状況のモニタリングを行うためである。状況はあまり芳しくない。 中心部に近い学校のみにしか配布されていないのだ。次回配布から署名を義務づけることとする。
6月8日(金) 実技担当隊員企画による第2回図画工作展。この企画の実施にあたっては主に事務所のスタッフが中心となって実施された。
6月中旬 女子教育協議会で中退率についてのデータ発表があるので、その準備に追われる。 データそのものの結果は悪いものではなかったが、データ改変の疑いを持つ。
6月13(水)〜15日(金) 女子教育協議会(シェラ)実施。非常に有意義な企画だったように思う。 しかしながら、我々のチームは遅刻して参加した上、早退。 遅刻の理由は所長がPROASEの会議に参加するためであるから、ある程度しかたのない側面はあるが、 早退の理由はシェラの市街で買い物をし、食事をするためだった。
6月17日(日) 首都で囚人79名大脱走。治安悪化。政府による警戒警報発令。
6月下旬 理科担当隊員と話し、帰国隊員の活動を引き継ぐためのHP案を考える。
6月20日(水) 理科担当隊員による研修に参加。
6月下旬 下痢が続く。ランブル鞭毛虫症が疑われる。25日に首都の病院へ行く。 この頃、体調不良と教育事務所の姿勢に対する不信感などから勤務意欲の減退に悩む。
6月末 理科担当隊員の活動終了。
7月2日(月) スペイン語学校スタート。
7月上旬 理科担当隊員の報告書印刷およびボレティン7月号発行。徹夜が続く。 この7月号からリストを添付し、配布確認の署名を義務づけるようにした。このため以降の回収率は非常に向上した
7月中旬 PROASE(EUによる二国間援助機関)による県事務所スタッフへの研修が始まる。 行政サービスの効率化から改善プロジェクトの企画までを含み、最終的には地方分権化を促進することを目的としている。 5回に分けて、以後毎月実施。
7月中旬 メールボックス企画案執筆開始。CTAと事務所との連絡を密にし、配布物を確実に行き渡らせるためである。 詳細は添付書類参照のこと。
7月20日(金) ドナー間会議実施。USAID(米援助庁)からUDE局長が講師を招き、参加者分析の手法を学ぶ。 政策による各団体のマッピングを中心とした分析である。 これによって援助の方向をどのように持っていくかという話ができるようになればよいと考えたが、 実際にはこれ以降ドナー間会議は行き詰まり、以後年内は開催されなかった。
7月24日(火) メールボックス企画案に教育事務所としてOKが出る。 予算はJICA事務所と教育事務所で折半の予定。
7月26・27日 チャメルコにて教員研修プロジェクト実施。
7月28日(土) インディヘナの女王を選ぶラビン・アハウのお祭りがコバンで開かれる。最終選考の段階でもめ、警官隊出動の事態となった。
7月30・31日 チセックにて教員研修プロジェクト実施
8月2日(木) IVAの値上げに関して暴動。教育事務所の窓ガラスは投石等によってすべて割られ、玄関の扉はガソリンをかけられて燃やされた。軍の出動等によって早期に鎮圧されたが、当日は町中がかなり騒然とした雰囲気になった。その影響でCTA会議が開かれず、8月号は発行できなかった。業務再開は7日から。
8月10日(金) JICA事務所中間報告会第一回
8月中旬 次の隊員総会から我々12年度1次隊が責任隊次である。前隊員総会にて11年度3次隊によりSEDEの有料化を含む改革案が提示され、責任隊次としてどのようにするか等の話し合いが続く。思いの外時間を取られることとなった。
8月17日(金) JICA事務所中間報告会第2回
8月24日(金) 教育省広報局訪問。メールボックスを用いた通信網整備を中央との連携の元に行うためである。広報局は現在、プレンサ・リブレ出身の局長を中心に、各教育事務所向けに情報誌を発行している。
8月24日(金) 教育分科会。教育省広報局との連携企画、および教育分科会HP企画を中心に話をする。
8月25日(日) 隊員総会。11年度3次隊の提案する隊員会規約等はほぼ通過。SEDE有料化は見送り。SEDE運営に伴う諸費用の徴収に関しては、我々の隊次でランニングコスト等を計算し、予算案を練り直さなければならないこととなった。結果的に非常に負担が増えたこととなる。
8月25日(日) フェアトレード分科会立ち上げ準備。フェアトレード分科会については4号報告書で触れる。
8月28日(水) EDECRI(特殊教育学校)でN隊員企画、O隊員講師によるパネル・シアター研修が開催された。カウンターパートであるUDE局長を連れて行く。非常に興味を持ち、女子教育に適用できないかとの質問を受ける。元々その可能性を探るために連れて行ったので、目的は達成したと言える。しかしながら、具体的にどのように実施していくかという話し合いの段階で、他の隊員から、日本の方法論の押しつけではないかという反対意見が出される。この件に関しては現在に至るまで実施のめどがたっていない。
9月3日 CTA会議。ボレティン8月9月合併号配布。8月に実施された理数科オリンピックの結果および先日開催された図画工作展における問題点を考察した記事を掲載。
9月11日 アメリカ大規模テロ。インディヘナ系の知人による、露骨に反米感情を表に出したコメントが印象に残った。グァテマラにおける反米感情の根深さを思う。
9月中旬 ボレティン添付のアンケートの回収率が上がる。傾聴すべき意見も多く聞かれるようになってきた。これらの意見をどのように還元していくかが今後の課題である。
9月中旬 教育分科会HP設立企画書を各方面に送付。意見を求める。
9月18・19日 女子教育プロジェクトモニタリング。プロジェクト実施チームとは別に、江連専門家の状況把握の必要性から実施された。しかしながら、県実施チームからの参加は残念なことに無かった。
9月22日 第2回フェアトレード分科会
9月24日 教育省広報局再訪
9月26日 タマウへ学校視察。この学校は中退者の数が際だって少ない。中退者を減らすための試みについてボレティン添付のアンケートに意見が述べられていたため、連絡を取り、視察を行った。
10月上旬 CTA会議の時期の勘違いから、発行が間に合わなかった。また、物資の供給の遅れからボレティンの発行が出来ず。11月発行を考えるが、学校が終了しているため、配布が難しく、断念。
10月上旬 女子教育プロジェクト研修
10月8〜10日 イザバル県にて女子教育協議会。サマヨワ氏は参加せず。そのため発表資料をほとんど一人で作成しなければならなかった。プロジェクト実施チームとしては参加者が秘書とボランティアのみという状態。事務所の姿勢に対する疑問をぬぐいさることができない。しかしながら、参加者が足らない結果、けがの功名とはいえ、プロジェクト参加校の校長(チセック)が参加してくれたことは評価したい。チャメルコに比べ、チセックの研修は教員の参加姿勢に問題があった。彼女の参加をきっかけに少しずつ改善されていくことが期待できる。
10月中旬 この前後に教育分科会HPおよびメーリングリストをめぐり、意見の対立があり、悩む。

3-1 女子教育パイロットプロジェクト 
これまで、報告書では女子教育プロジェクトについてはほとんど触れてこなかった。これは女子教育という大きなプロジェクトにまきこまれ、自分自身の活動の方向を見失ってしまうことを危惧して、当初の時点では若干距離を置いていたためである。このプロジェクトの一員として働いていた前任者とは異なり、後任とはいえ要請内容は前述の通り、女子教育の枠組みとは別となっている。
しかしながら、事務所の要請があったとはいえ参加するようになったのは、数少ない事務所からの働きかけであり、断りにくかったこと以外に、実際の教員研修にかかわることができるという仕事上の興味があったことは確かである。1号および2号報告書で繰り返し述べているように、新しいプロジェクトを立ち上げる余裕はこの教育事務所になく、教員の研修プロジェクトをあらたに企画することは困難であった。

3-1-1プロジェクト概要

表1 女子教育推進のためのパイロットプロジェクト
プロジェクト対象 プロジェクト目標 プロジェクト期間 資金
県名 学校数 市数 生徒数 教員数
Alta Verapaz 13(1511) 3 2842 75 女子の出席率と学習参加の向上 11/98-3/00 草の根
Guatemala 12(981) 3 3261 75 参加型学習法を適用した指導法 1/99-3/00 草の根
Solola 17(361) 2 3789 109 女子中退率を減少させる 1-10/99 草の根
Retalhuleu 12(1207) 4 5978 180 小学校高学年男女登録率格差の減少 3/99-3/00 草の根
Jutiapa 9(550) 3 1600 52 女子の出席率と学習参加の向上 1-11/99 草の根
Izabal 10(613) 5 1419 43 女子の就学率、残存率の向上 2/99-11/00 UNDP
Quezaltenango 12(668) 4 3904 87 女子生徒の学習理解レベルの向上 6/99-11/00 UNDP
合計 85(13633) 24 22,793 621
    
3-1-2 アルタベラパス県におけるプロジェクト概要
 女子教育プロジェクトの県レベルの実施は、第一回全国セミナーの際に優秀であった七つの
女子教育プロジェクトの枠組みにおける立案、実施
男女平等・人権・多文化共生の概念を取り入れた参加型の授業を提案。ギアの作成とそれを用いた教員研修がプロジェクトの中心。


3-1-3 プロジェクトの現状
 2001年10月現在、第一フェーズが終了し、プロジェクトは第二フェーズに入っている。

第一フェーズ
課題
a. 保護者の参加を考慮に入れ、巻き込む
b. 当局と実行部ループ、教員たちの間の調整とコミュニケーションを確立する
c. 当局と実行グループの定期的な会合を持つ
d. 適切に時間と人手を管理する
e. 技術グループメンバーおよび実行者が、次の段階を見通せるようにする
f. 納入業者についての全般的な情報を獲得する
g. 決算期について
h. 報告の期限について
i. プロジェクトの継続と拡大

3-1-4 活動概要

前述の業務概要に記載したとおり、この時期に行った女子教育推進のための教員研修パイロットプロジェクトの活動とその内容は以下の通りである。

3月下旬女子教育プロジェクト教員研修
5月下旬女子教育プロジェクト教員研修(マテリアルの配布)
6月中旬女子教育協議会参加。プロジェクト結果のプレゼンテーション
7月下旬教員研修プロジェクト
モニタリングの次の日に研修。江連専門家および女子教育スタッフ随行
8月28日EDECRIでパネルシアター研修会。
サマヨワ氏を連れて行く。サマヨワ氏は関心を持つが、実技担当隊員は反対。
9月18、19日(チセック)江連専門家によるモニタリング随行
10月8日〜10日女子教育協議会(イザバル)



3-2 教育事務所通信発行プロジェクト

3-2-1 概要

月刊の通信紙を発行することによって以下の目的を達成することが当初の目的である。

A) 教育事務所および各援助機関の活動を各学校に知ってもらう。
B) 教育事務所の月刊活動予定の日程を知らせる
C) 生徒を教えるための教授法および有用な教材の提案.
D) 効果的な実践を行っている学校や教員の紹介
E) 添付アンケートにより教員の意見を取り上げる。

 これらの活動による地方分権化促進がプロジェクトの最終的な目標である。その中には教育諮問会議の側面支援なども当初は含まれていた。しかしながら、年度末である10月時点では、全体的に停滞気味の感がある。2002年度以降の発行にあたっては、活動を共有化していく方策を練る必要があると思われる。

3-2-2 現状

 当初の目標に照らし合わせながら、それぞれの達成状況について以下に記述する。

A) 教育事務所および各援助機関の活動を各学校に知ってもらう。
 各援助機関の情報は創刊号を除き、ほとんど掲載できていない。教育諮問会議の際、一部組織に原稿を依頼したが、その後何度か進行状況を確認したにもかかわらず、残念ながら音沙汰はない。必要性をそれほど感じなかったのだと思われる。  

 当初のコンセプトは、ドナー間会議の側面支援の意味も含めていたのであるが、主要読者層である教員のニーズに合わせて内容を絞っていった結果、掲載記事の内容は教育事務所のプロジェクトの進行状況の報告とそれに対する教員の意見の掲載、および教員に対する具体的な教授法の提案など、現在は教員の日常の業務に即したものが中心となっている。

 教育事務所の活動記事は好評である。なかでも活動についての問題点を明らかにし、分析した記事の反響が大きい。(実技担当隊員による図画工作展の記事[6号掲載]など)

B) 教育事務所の月刊活動予定の日程を知らせる

 アンケートの結果によると、必要ないという意見が多くを占める。ただし重要であるという意見も一部にある。記事としては必要ないと考えられるにもかかわらずこれまで掲載してきたのは、こうした記事の掲載によって、活動予定を共有し、プロジェクトの実施等に便宜を図る意図があったためである。また、同時に教育事務所内部の他の部局の活動をも掲載していくことによって、セクショナリズム解消にも役立つのではないかと考えていた。

 月刊活動予定表の作成にあたっては教育開発局内部で月例会議を行い、そこで作られる月間予定にしたがった活動予定表を掲載することを考えていたが、実際にはあまり月例会議が開かれることはなく、開かれてもボレティンの発行後であることが多かった。また、内容もそれぞれの活動内容などを報告しあう形とはならず、活動予定表の作成までは至らなかった。

 結果的に、あまり計画的な活動予定を載せることができず、掲載後に頻繁に変更されることが多くなった。そのためかえって連絡の行き違い等が生じ、弊害が出てきたため、2002年度からの掲載は見送ることとした。

 ちなみに教育開発局以外の部局の月間予定はかなりしっかりしたものであり、この一件によって、教育開発局の計画性のなさが浮き彫りになった感があった。

C) 生徒を教えるための教授法および有用な教材の提案.

 非常に好意的な意見が多く寄せられている。もっと詳しくとの意見もあるが、紙面の都合上難しい。4回に渡り理科担当隊員による酸性雨の実験記事を掲載したが、予想以上に好評だった。実験のやり方だけでなく概念について詳しい説明があったのが良いとの意見があった。生徒に対して説明しやすかったのかもしれない。
 また、すべての教員に対して記事を配布したらどうか等の意見もあるが、予算も人手も不足しているため、現時点では実現は難しい。

D) 効果的な実践を行っている学校や教員の紹介

 当初は読者欄に掲載するのみだったが、いくつかの学校を訪ねた際に見聞したちょっとした教員の工夫などを今後は掲載していきたいと考えている。

E) 添付アンケートにより教員の意見を取り上げる。

 当初、なかなか集まらなかったアンケートであったが、すべての学校に対して受け取りの署名を要求し、学区別の回収状況を公表した結果、学区ごとの配布リスト回収率はほぼ七割弱、アンケート総数で40%程度となっている。

 反面、アンケートの回収が進むにつれ、整理が非常に難しくなってきている。現在「教員の意見集」を企画中。これを教育事務所内で回覧し、チェックが多く付いた記事から掲載していくようにする予定である。同時に行政官のコメントなども今後は掲載していきたい。

F) その他の記事

 2002年度から生徒や教員の文章も掲載していくことを考えている。具体的にはスペイン語でかかれた児童向けの詩の募集と紙面への掲載である。UDE内で関心を持つ行政官がいるので、彼に作品の選定を依頼している。もともと児童向けの詩の掲載は彼の提案であった。

3-2-3 出版および配布状況

 2月以来現在まで6号までが発行できている。7号(10月号)の編集は終了したが、紙の供給が遅れたため、印刷が間に合わず、学期の終了となったため配布できずに終わった。
 アンケートの回収率は上記の通り、かなり向上しつつある。配布の際に署名を義務づけ、回収状況を公表したことが効果的だった。
 現在、配布手段をCTA会議に依存しているため、なんらかの事情によって開催されない場合に配布が滞ってしまう問題がある。この件については、メールボックス設立による改善(後述)を図っている。

3-2-4 アンケート結果について

教員たちの望む情報
 アンケートに寄せられた教員たちの望んでいる情報は以下の通りである。
O 実践的な教授法(すべての教科について)
O 教育事務所による援助プロジェクトの内容
O 地方での学校教育の現状

アンケート内容についてのコメント
 現在、アンケートに対するコメントはボランティアが行っているが、今後は、教育事務所内における「意見集」の回覧とそれに記入してもらうコメントによって、教員の意見の共有を促進することを考えている。
 前号報告書で述べた県教育事務所内における編集部設立は、人手不足と事務所内における関心の低さから、正直難しいと考え始めている。

3-2-5 今後の展開

教育省広報局との連携
 8月末から9月にかけて、教育省広報局を訪問し、相互協力の可能性を話し合った。教育省広報局では現在、各県事務所向けの情報誌を発行しており、県事務所発行の情報誌に向けての記事の配給、および広報局発行情報誌への地方レベルの県事務所の活動記事の掲載などを将来的に可能にしていくことなどを提案した。局長は隊員に対して好意的であり、教育分野で働く日本人ボランティアに関する記事も載せていきたいと語った。

編集部の設立
 県教育事務所内における人手不足と通信紙発行に対する関心の低さから、現時点ではかなり難しいと考えている。

ボランティア帰国後の継続について
 本省との連携および編集部の設立によって継続させる状況をつくるというのが当初の予定であった。
 現在はアルタベラパス県での継続がなされなくても、情報や知識を共有するための行政の一手法として確立できればよいと考えている。そのため、後述のHPなどに掲載することによってその効果および限界や問題点などを広く公開していきたいと考えている。また、同時にスペイン語のプロジェクト案を執筆することを考えている。これが最終報告書のテーマの中心となる予定である。



3-3 メールボックス設置および交換便設立プラン
3-3-1 概要
 前述のとおり、教育事務所情報誌の発行にあたっては、その配布をCTA会議に依存しているため、しばしば配布が滞ることがあった。この解決手段として教育事務所に各学区ごとのメールボックスを設置し、CTAに対して書類等を配布する際にこれを利用することを、同事務所配属の小学校教諭(11-3)の提案により、企画した。(添付書類および設計図参照) 
 
3-3-2 現状
 試験的にアルタベラパス県教育事務所に設置予定(9月末の予定が現在まだ完成していない。11月26日を最終の期限とし、通知した。この日に車の手配も依頼済みである。)
 (追記: 年度の明けた2002年2月時点でまだ設置はできていない。これは発注先が特殊教育学校であり、職業訓練を目的とした部署であるため、休暇中の作成に問題があったためである。現時点でようやくほぼ完成しているので、3月から運用を開始できると考えている)

3-3-3 今後の展開
 この提案には定期的な交換便を教育省本省との間に設立することも含まれ、その実現可能性に向けて、教育省広報局長と話し合った。残念ながら、交換便そのものにはあまり関心を持ってもらえず、現状でも同様のことは可能になるとのことであったが、メールボックスそのものには興味を持ってもらえた。
 将来的には教育省および各県事務所および各CTA事務所に設置したいと考えている。



3-4教育分科会HP案
 「2-4JOCV事務所による支援について」で既に述べたように、隊員活動の継続にあたって、情報の文書化およびその閲覧を容易にしていく必要があると考えている。
 現在、発展途上国においてもインターネット普及は著しいものがあり、地方都市においてもインターネットに容易にアクセスすることが可能となっている。事実、教育分科会における連絡はその大部分がEメールによるものとなっている。
 隊員による活動の問題点と解決方法、教育状況に関する統計データ、隊員による調査報告書などをホームページに掲載することは大きな意義があると考えられる。
 現在、ホームページは諸般の事情により、作成・更新が滞っているが、メールのやりとりに関してはメーリングリストを立ち上げ、これを利用している。
 メーリングリストのメリットとしては、登録・脱退の手続きを容易かつ確実にできる点と、万が一メールが届かなかった際に、その確認が可能となり、かつ過去のメールの閲覧により、情報伝達の漏れを防ぐことが可能になることなどが挙げられる。また、メール上のやりとりをHP上で確認できるため、メーリングリストに対する新規加入者であっても、過去にどのような議論がなされたかを知ることができる。

参考文献

- Sistema de Naciones Unidas, "Informe de Desarrollo Humano 2000; Guatemala: la fuerza incluyente del desarrollo humano" Guatemala, 2000
- 村田敏雄,1999,「日本の政府開発援助(ODA)による教育援助の事例―グァテマラ女子教育協力―」
- 水野敬子,2000,「ジェンダーに配慮した初等教育協力―グァテマラ女子教育パイロットプロジェクトの定量的分析―」
- 国際協力事業団企画部報告書,1997,「教育援助にかかる基礎研究−基礎教育分野を中心として」
- 後藤一美「地球公益論を加味した複眼的視点 実現すべき目的明確に」『産経新聞朝刊』2001年9月28日「21世紀の国際協力(下)」
- ODAジャーナリストのつぶやきvol.35-37「私がセブで始めたミニコミ誌発行事業から」http://www.jica.go.jp/jicapark/odajournalist/35.html(2001年10月15日参照)
- 隊員報告書

論文の出典に関しては、コピーによる入手等の理由から明記することができないものがあることをご了承ください。

追記

 提出が遅くなったため、内容に若干の変更が出てきた。次回報告書に詳細を書くが、重要な変化は次の二点である。

アルタベラパス県教育諮問会議
 「教育改革la Reforma Educativa」およびそれに付随する地方分権化の促進によって、ドナー間会議(アルタベラパス県教育諮問会議Consejo de Desarrollo Educativo Alta Verapaz)の位置づけに大きな変化が生じた。
 昨年度7月に開催された会議を最後に、年内は開催されずに終了した。開催の意義が曖昧になったことなどが原因である。しかしながら、今年度に入り、MINUGUA配属の国連ボランティア(日本人女性)のてこ入れの元にPROASEの積極的な支援を取り付け、会議の建て直しが進んでいる。
 基本的な方向は「教育改革」の方針にしたがっているが、そのうえで、教育諮問会議を各市町村レベルまで実施し、また、その運営に当たっては教育事務所内での独立した部局が担当するという構想が計画されている。
 教育行政の地方分権化に当たっては、この教育諮問会議の役割は非常に大きいといえるが、それと同時に、現在教育事務所で発行している情報誌においても大きな役割を持たせることが可能であるし、また必要になってくる。今後、この教育事務所通信の発行部局が、UDEからこの教育諮問会議の運営に携わる部局に移る場合には、継続性も見込まれるようになると予想される。

後任の要請について
 基本的に後任の要請は行わない予定であったが、上記の事情により、今後状況が変わってくる可能性がある。特に教育諮問会議の運営部局が独立する場合には、社会学もしくはプログラムオフィサー隊員の特性を利用したさまざまな活動が可能になってくると思われる。したがって状況次第では後任を呼ぶことも可能だと考えている。