活動報告2

2000年1月〜3月


活動報告(11/2000〜2/2001)

前回の報告書で、今後の計画として以下の方針を提示した。
「現在のところ、新しいプロジェクトを立ち上げて、ただでさえ人手不足である現状を悪化させることはないと考えている。既存の組織を有効に機能させていくのが先決である。
まず、上からの情報を伝えるだけでなく下からの情報を如何にすくい上げるかというのが重要になる。というのは他援助機関に対して、教育事務所が優位に立ち、ある程度統制をとれるようにするためには情報網の確立が必要であるからである。今後の活動はこの目的が一番大きなものとなる。前任者から引き継いだドナー間会議についても、この活動のなかに位置づけられるものとして考えている。」

現在の活動も、基本的にはこの方針を踏襲している。企画段階では主としてドナー間会議(アルタベラパス県教育開発諮問機関定例会議)を念頭において、援助の調整業務を効果的に進めるために、県レベルの情報網システムの構築を考えていた。その手段として、企画したのが月刊の教育事務所通信である。
11月下旬に提出した企画書(別紙参照)においては、情報誌の目的として以下の項目を提示している。

A) 教育事務所および各援助機関の活動を各学校に知ってもらう。
B) 教育事務所の月刊活動予定の日程を知らせる
C) 生徒を教えるための教授法および有用な教材の提案.
D) 効果的な実践を行っている学校や教員の紹介
E) 教員の意見を取り上げる。

当初においては教育事務所の活動を円滑に進めるための企画であったため、特にA)、B)が重要だと考えていた。しかし、実際に読者となった多くの教員の意見に接しているうちに次第にC)、D)、E)の重要性を大きく感じるようになっていった。以下に活動を時間軸に沿って報告するとともに、その経緯を述べたい。


ポコムチ圏視察

援助状況の把握のため、11月中旬から下旬にかけてサン・クリストバル、サンタ・クルス、タクティク、タマウ、ツクル等、ポコムチ語圏の学校を視察した。ポコムチ語圏を選んだのは、援助機関が重点的に援助を行っている地域であり、援助の重複が起こりやすいことを想定したためと、比較的交通網が整備された地域にあること、自分自身に若干の土地勘があることから選んだ。

基本的にはCTA(行政技術調整官)事務所を訪れた上で、案内を依頼し、巡回を行った。巡回に先立ってCTAには訪問を伝え、日時を指定してもらっている。また、カウンターパートを通じ、各学校の必要としている援助を申請してもらった。これを参考にしながら実際に学校を見て回ることによって、援助機関向けに提供するためにはどのようなデータが必要かを検討することが目的である。

 視察そのものは援助状況を知る上で有意義なものではあったが、学校はすでに休暇に入っているため、教員と話す機会はなく、授業を見ることができなかったのは残念であった。しかし、実際にCTA事務所を訪れることによってできたCTAとの個人的なつながりはその後、非常に役に立った。

教育事務所通信企画とアンケートの実施

11月下旬に教育事務所通信の企画を提出した後、編集に先立ちDIGEBIによる教員研修にて、参加教員たちに対して記事についてのアンケートを行った。教員たちがどのような情報を求めているかを知るためである。予定している記事からなる以下の項目からの選択と自由回答、および情報誌の名前の公募がアンケート内容である。

@ 教育事務所各部局ごとの活動情報
A 月ごとのカレンダー式の活動予定表
B 援助機関によるプロジェクトの内容と活動予定
C 県内における教育的な試みや実践例
D 実践的な教授法についての記事
E 展覧会等の教育関連のイベント情報(不定期)
F 読者欄
G 社説

もっとも需要が多かったのはDの実践的な教授法についてである。これに関しては同じ職場で働く先輩隊員(11-1/小学校教諭)の希望があったこともあり、記事を依頼した。他の記事に関してはまだどのような記事かわからない段階であるためか、あまり反応はかんばしくなかった。また、どのような教授法が知りたいかという質問に対しては、具体的な教材の提供とその使用法を求める声が大きかった。

このアンケートの実施と分析が2000年最後の業務となる。12月は前述の通り休暇を利用して語学学校に通った。

 年度明けてすぐの発行を考えていた教育事務所通信は、けれども予想外の事態により発行を延期せざるを得なかった。

人事異動

 新年は2日から勤務を始めた。しかし当初発行を予定していたCTA会議の開催が難しいという。CTAを通じて各学校に配布する予定だったので、この会議が開かれないと30学区635校ある学校に対して、配布が事実上不可能になってしまう。
CTA会議を開くことができない最大の理由は、半数以上のCTAが新年度の契約に同意していないからだという。新年度が始まるまで契約の継続が決まっていないという事態は信じがたいものだったが、事実であった。結果的に31学区26人のCTAのうち継続は15人にとどまり、そのうち5人は任地変更。15人の新しいCTAが加わるということになった。2つの学区にまたがって仕事をしていたCTAがいなくなったのはよいのだが、あらたに加わったCTAに関してはこれまでの企画をもう一度説明する必要がある。また通常業務の遂行に関しても不安は残った。

第5回ドナー間会議

 そうこうしている間に年度明けのドナー間会議の開催がせまってきた。前回の会議でペンディングとなっていたデータ収集のための手段として、情報誌を用いた教育事務所通信網の設立案を話す準備を行う。

 会議そのものは現在実施されている「健康学校」関連の諸援助機関のプレゼンテーションが中心となり、実際の調整業務までは至っていない。具体的な調整システムの確立の必要性をつよく感じた。

会議は非常に長引き、最後に教育事務所通信網の設立案を話す段階では半数近くの出席者が帰った後であった。OHP等、時間をかけて準備したにもかかわらず、プレゼンテーションはうまくいったとは言い難い。なにより情報誌発行の目的である教育事務所通信網については、実際の調整業務との具体的な関連を述べることができなかったため、その意義はうまくつたえることができなかった。しかしながら、ほぼ完成に近い形で実際の見本を提供したことで情報誌そのものの概略を伝えることはできたと思う。

健康学校:アメリカ平和部隊が中心となって行っている学校に対する公衆衛生知識の普及を目指したプログラム
 

データ分析

 1月下旬にはPRONERE (El Programa Nacional de Evaluacion del Rendimiento Escolar)による学力調査の結果の発表があった。これはランダムに選んだサンプル小学校の3年生および6年生を対象にスペイン語と算数のテストを行うというもので、教育省の委託のもと、Valle大学が中心となって行ってきている。アルタベラパスは多くの点で非常に低い結果となっている。(添付資料参照)

3年生(地方部) 3年生(都市部) 6年生(地方部) 6年生(都市部)
スペイン語 22位(最下位) 20位 22位(最下位) 20位
算数 22位(最下位) 12位 17位 8位

 県別の順位で言うと3年の地方部においてはスペイン語・算数ともに全国最下位であり、都市部においてもスペイン語の順位は低い。6年においても状況はさほどかわらず、地方部ではスペイン語が最下位であり、算数も決して高くはない。かろうじて都市部の算数の順位が上位にはいっているが、全国的に見てそれほど差が見られないなかでの順位であることから、これも安心できる材料ではけっしてない。とはいうものの都市部での成績、特に算数分野はそれほど悪くはない。

 結果発表の席では参加した教員や校長たちの間から、サンプル数の数がさほどないことからくる信頼性の問題や、識字率の低い地域におけるテスト問題そのものの理解力について疑問の声が挙がっていた。識字率の低さからくる影響は確かに大きいが、しかし、アルタベラパスのみが特に低い結果であることの理由付けにはなりにくいように感じた。

 実際問題、地方における基礎教科分野改善の努力はほとんどなされていない事実から考えて、この結果はある程度納得しうる。援助機関による研修などはしばしば行われているが、環境教育等、先進国の価値観を反映した分野に偏る傾向があり、また教育事務所の活動もその影響を受けがちである。事実、数年前までは県事務所による算数改善プロジェクトが存在したと聞いたが、現在は機能していない。
 これらの結果は教育事務所通信に教育開発局長のコメントともに掲載した。また、ちょうど前年度の中退者および留年者のデータがあがってきていたことから、この分析とともにアルタベラパス県における教育状況の特集記事として、各学校に向けて広くデータを公開した。


 教育事務所通信の記事について
 教育事務所の創刊号に掲載した記事とその意図については以下の通りである。実物は後日、現在作成中のアルタベラパス県教育事務所ホームページに記載する予定なので参照してほしい。

 教育事務所長の巻頭言
→所長を巻き込むことにより、教育開発局だけではなく、教育事務所全体の活動として、内外に認知してもらう。

 PRONEREによる学力調査結果
→現状を認識してもらうとともに、改善の意欲を喚起する。

 市町村別進学率データとその分析
→現状を認識してもらうとともに、改善の意欲を喚起する。

 教育事務所活動の月間予定
→月間予定を発行することにより、活動を共有するとともに、ともすれば滞りがちな月例会議を活性化させ、同時に自らの活動に対する自律的な相互監視機能を付与する。つまり月例会議で話し合うべきことを具体化させ、共有するために、会議の結果を広く世間に問うという形にしたのである。

 各援助機関によるプロジェクトの概要と予定
→各援助機関による援助の状況を把握することにより、誰がみてもわかるかたちで援助のかたよりや重複を防ぐ。また、どのような援助が行われているかを広く公開する。

 隊員による実験アイデア記事
→実際の教育現場に役立つ教授法の記事。以前にアンケートを行った際、教員間でもっとも要望が大きかった記事でもある。読み手の関心が高い上、図やイラストが用いられるため、紙面構成に変化が生まれ、全体に取りつきやすくなる。また、この種の記事は比較的保存されることが多いため、読み捨てを防ぐためにも効果があると考えた。

 隊員による音楽教育強化プロジェクト
→隊員だけではなく、教育事務所、特に教育開発局のメンバーによる教育プロジェクトを広く知らしめることによって、それらの活動をサポートする。

 読者欄
→現場の意見を教育政策に反映させる

 これらの意図は実現された物もあるが、課題を残しているものも数多くある。たとえば教育事務所の月間活動予定においては、教育開発局UDEの月例会議で話し合った上で書いていくことを考えていたが、実際は発行期日であるCTA会議直前になっても活動予定が立っていない場合が多い。会議そのものも日程の都合上CTA会議前後に開かれることも多く、なかなか思うようにはいかない。

 また、援助機関の活動についても少ない紙面ですべての援助機関の活動を掲載することもできず、また教員が必要としている情報も絞り切れていないので、なかなか掲載できずにいる。創刊号にのみドナー間会議の説明と各援助機関の簡単な活動を載せることが出来たのみである。
 これらのことが今後の課題といえる。
教育事務所の窓に貼り付けた教育事務所通信を読む筆者