ギュンター・ヴァント
現代最高の指揮者の一人、というより最高の指揮者。86歳の高齢だが幸いまだ指揮活動を続けている。
そのスタイルは知性的でクール。曲の隅々まで自分の主張を浸透させて自らのイメージの実現に命を
書けるハードボイルドな男。だから通常2日ほどのリハーサルを1週間やれるオーケストラとしか仕事をしない。
スコアにはびっちりを書き込みがあり、楽団員はそれの実現を求められる。全ての音は知性的に制御される。
陶酔的に歌って自分に酔うような事は決してないのである
それはヴァントの描く世界は特に近年は神の領域に入ってきていると言えるほどの厳しい美しさだから
であろう。オケを磨き上げるヴァントの演奏を間違えてもショルティと一緒にしてはいけない。ショルティは譜面の
隅々まで再生するが、ヴァントはそこに意図的なコントロールが浸透しているのである。このようなヴァントの
おすすめ盤はやはりブルックナーである。特に近年のベルリンフィルとの第8番の
とてつもない雄大さが壮快なテンポで描かれる様子はこの曲の真の姿を描き出したものともいえる。
ミュンヘンフィルとの第9番のまさに天国的な美しさは雲海の彼方に見る夕映えすら思い出させた。
ベルリンフィルとの5番はこの巨大な伽藍のような音楽をまるでカテドラルの天井が数百メートルもあるかと
思わせるほどのものである。ヴァントのブルックナーは金管の響きの中心にトロンボーンをおいており、
またトランペットを必要以上に誇示しないことが重厚な響きをもたらす特徴になっている。楽器の音色が
なぜか途轍もなく美しくなるのも最近の特徴で、第4番ロマンチック(ベルリンフィル)でもホルンが
おおらかな波のような、風のようなすばらしい歌を聴かせてくれる。ベルリンフィルも本気出すと凄いものだ。
シューベルトの未完成(ミュンヘンフィル)も弦の刻みにすら意味が感じられてしまう
含蓄の深い演奏で、落ち込んだときにこれを聞くと曲と一緒に暗い気持ちが溶けていくのでよい。
べたつかないベートヴェンの英雄も第2楽章ではかえってラヴェルのようなさりげない悲しみの様に
なっていてベートヴェンはちょっと・・という人にもお勧めである。NDRとのブラームス全集
(第1から第4番)でもヴァントは運動性を追求しており、特に第1番の開始の速さは今まで
大時代的に演奏されてきたこの曲が実は近代的な緊張感に満ちた曲だった事
を教えてくれる。第4番は特に第2楽章開始部の美しさが、荒野で一人いるような
寂寥感すら感じさせるもので、見事である。
このほどベルリンフィルとブルックナーの9番を演奏、録音。来春発売予定らしい。
美しいミュンヘンとは違ったすごみのある演奏なので、期待している。(音変えるなよ、BMG)