リッカルド・シャイー
アムステルダムコンセルトヘボウ音楽監督。ただでさえ美音を誇っていた同オケを更に極上の音色に
仕立て上げた。何をやっても美しいので、日本での評判はいまいちのようである。
シャイーは全ての音楽を明るく、溌剌と、元気に、優雅に演奏する。それは現代音楽においても例外ではなく、
ベリオのシンフォニアもとてもきれいな曲に聞こえてくる。メロディーの美しさと、リズムのいきの良さでは
特筆もので、ストラヴィンスキーは特に見事である。特筆すべき事は3大バレエを全て最終版で
演奏したことで、火の鳥で1910年盤に流れたサロネン、ラトルとは選び方の知性が違う。
特に「火の鳥」の1945年版では同版中のベストであろう。中期以降のストラヴィンスキーの
ジャズを影響を感じられるビートの利いた響きが聞かれる「カッチェイ王の凶悪な踊り」。途轍もなく優しげな
「子守歌」などはとても美しい。「春の祭典」の1967年版は同版の嚆矢となったもので、
それまでの版に比べてややメタリックで非情緒的な響きを持つこの版から、
それによって得られたダイナミックな運動性を引き出し、かつつい迫力のあるところ中心に聞きがちな
この曲の静かなところに潜む驚くほどの美しく、優美な歌をあちこちから引き出しているのは見事である。
「展覧会の絵」の響きの優美なことは、この曲がムソルグスキーの、しかも暗い動機を持った作品であることを
忘れさせてしまうものであるが、それでも魅力的である。
この人は一見やたらに美しい音楽を作るだけに見えるが、版の選び方でもわかるとおり、実はかなり
知性派である。音楽の作りも普通にやることよりも曲の裏側に潜むものをふっと浮き上がらせてみせる
実は結構邪悪な指揮者である。
僕は好きです。この人。