Love song 〜我が愛しき人よ・・・〜


最終話  告白、そして・・・


「一体、どうしたんだ。急に・・・」
突然しまったドアを見つめながら、一条は考え込んでいた。
「先輩、窓の方見てみます」
考え込んでいる一条に、真琴は声をかける。
そして、窓の方に向かった。
窓には厚いカーテンがひかれ、外からの光は一切遮断されている。
真琴はその厚いカーテンを開けて、窓に手をかけた。
一見、簡単に開きそうな窓なのに、ドアと同じくビクともしない。
ガタガタと大きな音を立てるだけで、3つある窓はどれも開かなかった。
「他に出られそうなところは!?」
二人は懐中電灯をあてて、ぐるっと見渡した。
部屋の中には、左の壁際一面に本棚、その前に大きな机が置かれていた。
正面には窓、右側にはベッドとワードローブがあった。
とりたてて普通の部屋だった。
しかし、出入り口は自分達の後ろのドア、もしくは正面の窓以外には見当たらなかった。
「どうしましょう、一条先輩?」
「ああ・・・」
二人はその場で考え込んだ。
その様子を黒い影はずっと静かに見つめていた。

「何か仕掛けがあるとか・・・」
真琴がそう言って、本棚の方に向かった。
その時、部屋は締め切りの状態なのに、さぁーと風が吹いた。
そして机の上にあったものだろうか、真琴の足元に何かが落ちた。
「?」
それを拾ってみると、写真のようだった。
しかも、だいぶ古い。
「真琴さん、どうしたんだい?」
「これが急に・・・」
「ん・・・?」
一条が真琴から写真を受け取ろうとしたときに、急に体がびくんとした。
「一条先輩?」
その場に倒れるのではと、体のバランスを崩した一条だったが。
「・・・逢いたかった」
「え?」
「ずっと、逢いたかったよ。・・・キャサリン」
優しい声で囁きながら、一条は真琴の体をぎゅっと抱きしめた。
しかも、自分の名前ではなく、知らない人の名前を口にして。
一体どうしたのだろうかと、真琴は思った。
「ずっと君が来るのを待っていたのに、どうしてあの日、君は来てくれなかったんだい?」
「あの、どうしたんですか?」
あきらかに、一条の様子はおかしかった。
「私のことを忘れてしまったのかい? 逢いにきてくれたんじゃないのか?」
一条は真琴から少しはなれて、顔を覗き込む。
真剣な表情に、真琴は彼が演技をしているのではないと考えた。
それじゃ、先輩じゃない・・・?
一条のことをそれほど知っているわけではないが、なぜかそう思った。
それでは一体・・・。
わからない・・・。わからないけれど、騒ぎたてるよりも向き合った方がいいような気がした。
「キャサリン・・・逢いたかった。君を誰よりも愛しているよ」
また抱きしめられそうになって、真琴は一条から少し離れた。
「キャサリン・・・?」
「・・・ごめんなさい。今日はあなたに別れを言いに来たの」
「なんだって・・・?」
しっかりと彼の顔を見ながら、きっぱりと真琴は言い放った。
「私はあなたと一緒にいることはできないわ」
「・・・どうして?」
困惑する一条だったが、真琴はそのまま言葉を続ける。
「好きな人がいるの」
「・・・・・・」
「あなたじゃない人なの。だから、一緒になることはできません」
「・・・・・・」
一条は無言のまま、真琴の顔を見つづけていた。
「・・・あの?」
「・・・そうか」
短く呟いたきり、黙り込んでしまった。
しばらくの沈黙が部屋に重苦しい空気をつくる。
そして、どれほどの時間がたったのか、一条がふと口を開いた。
「・・・それでも、また君に逢えて嬉しかったよ」
「・・・・・・」
「ありがとう」
さびしそうな、悲しそうな笑顔だった。
でも、真琴にはどうすることも出来なくて。
ただその場に立っているだけだった。
何か言葉を言ったほうがいいのだろうか、そう思った時一条は急に体の力が抜けたのだろう、
その場にがくっと膝まついた。
「先輩!?」
真琴が駆け寄って、体を支える。
「大丈夫ですか?」
「俺は一体・・・?」
何があったのか、自分がどうしたのかわからない顔をしている。
「・・・今の覚えてないんですか?」
先ほどのやり取りのことを真琴は聞いたのだが、
「何のことだい?」
表情からして、本気でわかってないようだった。
「いえ、なんでもないです」
真琴はそれ以上は聞かず、二人は立ち上がった。
「ところで、さっき何を拾ったんだい?」
「・・・これです」
真琴はずっと手に持っていた写真を、一条に渡した。
よく見えるようにと、懐中電灯をあててみる。
そこに写っている人物の顔を見て、二人は息を飲んだ。
「・・・真琴さんかい?」
「いえ・・・ちがいます」
驚くほど真琴にそっくりな顔が写真には写っていた。
でも、今の真琴より少しだけ大人っぽくて。
しかし、写真自体はセピア色になるほど古いものだった。
真琴は元にあったところだろう、机の上に写真おくと手に何か硬いものが当たった。
気になって光をあててみる。
一冊の本がそこに置いてあった。
「どうしたんだい?」
一条の声に返事もせず、真琴はその本を手にとって中を開いた。
それは日記だった。
二人は一緒になって、一枚、一枚、ページをめくって読んでいった。
日記は、一日に書かれている文章は短いながらも毎日書かれていた。
読んでいくうちに、日記の持ち主は画家で、写真に写っていたのはモデルをしていた人だと分かった。
「すごいな、この日記を書いた人は・・・」
ポツリと、一条が呟いた。
「一条先輩?」
「こんなに情熱的で、それでいて静かで、本当に彼女を愛していたんだろうね」
写真を見つめて微笑んだ。
──日記は、日記というより彼女に当てた恋文だった。
彼女に逢えない時は思いが募り、逢えた時はとても胸弾んで。

 ×月×日
  キャサリンは来なかった。
  何か彼女にあったのだろうか。
  私には残された時間は少ない。
  彼女に・・・せめて、一目でも・・・・。


そこで日記は終っていた。
キャサリン・・・写真に写っていた女性の名前だろうか。
さっき、一条から”キャサリン”と呼ばれたのを真琴は思い出した。
もしかして、さっきの告白は彼からのものだったのだろうか。
今となってはわからないけれど。
想いだけがとどまって、ずっと彼女を待っていたのかもしれない。

「おい! 二人ともいるか!?」
「真琴さん! 一条先輩!」
日記を閉じたその時、ドアが勢いよく開いて見知った顔が飛び込んできた。
「時、慌ててどうしたんだ?」
「真琴! 無事か?」
「糸さん!? みんな!? どうしたの?」
みんなの慌てように二人は驚いていた。
「心配したんだよ。二人だけ戻ってこないから」
美咲と伸子が真琴のそばによる。
糸は本当に心配していたようで、真琴の体をぎゅっと抱きしめた。
「何かあったんじゃ?」
「何もないよ」
「本当に?」
「・・・信用ないのね」
「そうじゃなくて! 一条先輩に何かされたんじゃないかって、マジで心配してたんだぞ!」
「大丈夫よ。本当に」
「そっか・・・」
安心したように、抱きしめられた腕に力が入った事に真琴は気がついた。
そして、安心させるように抱きしめ返す。
そんな様子を、一条はずっと見つめていたのだった。


「全員いるな?」
今回の肝試しの首謀者である時が、家の前で参加者全員の顔を確認していた。
時計を見ると、すでに10時を回っていた。
9時前に全員がまわり終わったらしいのだが、一条と真琴だけが戻ってこないことをさすがに心配したらしい。
うまく事を進めているのかもしれないと思って邪魔をしたらまずいと思ったらしいのだが、探しに行こうとしない
男達に、何かおかしいと感づいた女達は、何か隠しているんじゃないかと迫ったのだそうだ。
そして、仕組んだことを白状させられたのだと、部屋から外に出る間に時から話を聞かされた。
そんな心配まったくなかったのだけれど。
しかし、あの部屋のドアや窓が一切開かなかったことに関しては、何も知らないという。
「それじゃ、解散。みんな気をつけて帰れよ」
いつの間にか話が終ったのか、みんなバラバラに帰り始めていた。
瞬間、無意識に真琴の姿を一条は探した。
今日ここで別れたら、次にいつ会えるかわからない。
あの日記の持ち主のように、気持ちを伝えられないまま別れたくはない。
一条は真琴の姿を捕らえたかと思うと、そのまま近づく。
「真琴さん」
「はい?」
糸と二人で帰りかけていたところに声をかけた。
「ちょっといいかな」
「何でしょう?」
近くには人もいるし、その場から離れようとも思ったけれど。
でも、場所なんて関係なかった。
だから、そのまま言葉を続けた。
「もし良かったら、クリスマスを一緒に過ごさないか?」
「一条先輩?」
「君となら・・・男女の恋愛が出来るかもしれない。そう思ったんだ。君のそばにいたい・・・」
自分のありったけの気持ちを彼女に伝える。
びっくりしたような彼女の顔。
しばらくの沈黙。
「ごめんなさい」
彼女から出た返事はNOだった。
「・・・もしかして、好きな人いるのかい?」
「はい」
はっきりとした声で返事をする。
「そうか・・・」
どんな返事であろうと、気持ちを伝えたことを後悔はしない。
「このことは忘れてくれていい。気にしないでくれ」
「でも・・・」
「気をつけて帰るんだよ。それじゃ・・・」
一条は片手を上げて、爽やかに微笑んだ。
そして反対を向くと、そのまま歩き出す。
告白したことを引きずらないかのように・・・。



あれから数日が過ぎようとしていた。
一条は、眩しい日差しをうけながら中庭の木の下で本を読んでいた。
しかし、目は本を向いていながらも、頭の中では先日の事がちらついていて。
本をめくる手はずっと動いていなかった。
彼女との恋はかなわなかったけれど。
後悔はしていなかった。
すぐに忘れることはできないだろう。
これから冬がきて、冷たい風が吹くように、自分の心も今とてもさびしいけれども。
彼女を好きになってよかった。
「おーい、一条。劇団の方にいかねーのか?」
時が姿を見つけて話し掛けてきた。
「ああ、すぐに行くよ」
立ち上がって、本を鞄にしまう。
「・・・それにしてもクリスマス限定で劇をするって本気なのか?」
「ああ、何か都合でも悪いのか?」
「・・・いや、別に」
そうだ、クリスマスだけでも彼女に何か贈ろうか。
深い意味はない。
せめてもの気持ちを。
一条は何がいいだろうかと考えながら、時と一緒に劇団に向かったのだった。























【管理人より】

とうとう最終話をいただいてしまいました。
嬉しいやら淋しいやら複雑な心境でおりますが、
師匠、長い間ありがとうございましたっ!

また是非ヨロシクお願いいたしますですvv ←たかり。

ちょっと体調不良のため、
挿絵は後からばしばしこっそり入れようと思います♪
あのシーンとー、あのシーンとーこのシーンとーって
また何枚描く気なのよっ!?
(↑師匠、止めるなら今のうちです。)

個人的にこの終わり方は大うけでしたっ(身内うけ:大笑)。
後で例のイラスト持って行きます。(何処によ?)
本当にありがとうございましたっ!

師匠のおうちではこんな素敵なWジュリワールドが
いつでもたっぷり堪能できますよん♪♪是非どうぞvv

(2004.04.17)